第2話 神様はいるわ
「お母さん……ちょっといい?」
籠いっぱいに積まれた洗濯物を一つずつ、丁寧に物干し竿にかける女性に、茶髪ショートの少女が駆け寄る。少女の手には大きな一冊の本が胸に抱えられていた。
「なあに、──ちゃん?」
雲一つない晴天の下、緑一色の野原に心地良いそよ風が吹いた。
草木や物干し竿にかけられた洗い立ての衣類はその呼び掛けに反応を示し、肩まで伸ばした少女の髪を
「──神さまっているんでしょっ!?」
少女は純粋無垢な瞳で期待のまなざしを向けていた。
自身が一番信頼できる人物に聞いたんだ。
自分にとって、きっといい答えが返ってくると……そう思っていたのだ────。
本のタイトルに「神のおぼしめし」と書かれているのが女性は目に入り、
「えぇ、神さまはいるわよ。私たちのことを、お空から見守っていてくれてるわ」
「本当に……?」
「本当よ」
「本当の本当に?」
「本当の本当よ」
「そっか。やっぱり、神様っているんだねっ!!」
期待通りの返答が少女の目をさらに輝かせた。
「でもどうしたの? そんなこと突然聞いてきて──」
「ううん、聞いてみただけっ!」
満面の笑みでそう答える無邪気な娘に「そっかー」っと笑い、母親は娘のさらさらした手入れの行き届いた髪をくしゃりとやさしくなでた。
「えへへ〜っ」
(……なんだろうこの気持ち……お母さんになでられると……とてもふわふわする)
満足したのか、茶髪ショートの少女は母親から離れていった。
────そしてこれが、あたしに唯一残すことの許された、組織に入る前の幼少期の記憶。
どうやら親との過去における記憶に代わるものが頭に入れられたらしいの。
だから今後、それに再会することはもう二度とないみたい。
そう、永遠に──────
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