第24話 空
別荘に入ると香ばしいベーコンの匂いがお腹を刺激する。
リビングへ行くと会長と閑月がキッチンで朝ご飯を作っているのが見えた。
「あら?駆君じゃない。おはよう。朝、早いのね」
「おはようございます。会長。なんだか目が覚めちゃって・・まだみんな寝てるんですか?」
「麗華ちゃんは朝からどこかに出かけたみたいだけど、茜ちゃんはまだ寝てるわ。真冬ちゃんは茜ちゃんのところにいると思うわよ」
「そう・・ですか・・」
茜にさっそく話をしに行こうと思ったが、あいにくまだ寝ているようだ。肩を落とした俺の仕草を見た会長は、「ふぅ」と一呼吸おいて
「君と茜ちゃんとの間に何があったかは知らなけど今はそっとしておいてあげて欲しいわ。無理にでも行こうっていうのなら止めはしないけれど」
「私、茜ちゃんに早くいつも通りの元気な姿に戻ってほしいです。だから今はゆっくり休んで欲しいです。」
会長だけでなく閑月からも釘を刺され航路がふさがれる。
今日中にどうにかして隙を窺わなければ。
◇
俺の思惑が叶うことなく、時間は刻々と過ぎていった。
今日は予定通り海で遊ぶことになり、皆でビーチバレーをしたり、スイカ割をしたりなどで楽しんでいた。茜の表情も明るく、今後に胸を膨らませる。
が、結果から言うと俺の行動はすべて空回りに終わった。
「誰かそこのスーパーまで買い出しに行ってきてくれない?」
来る時に買ったのもが尽きたようで、誰かが買い出しに行くことになった。
普段ならこんな暑い中荷物を持って歩くことは真っ先に避けることだが、今回ばかりは絶好のチャンスである。
「あっ、俺が行こうか?・・そうだ茜も・・・・」
ついてきてくれないか?
そう言おうとした瞬間、
「それなら、、わたしが行く。涼君、ついてきてくれない?」
「まぁいいけどよ、真冬が自分から行きたがるなんて珍しいな」
「ちょっと個人的に買いたいものもあって」
紙一重のところで氷宮に先を越され、失敗に終わる。
ビーチで遊んでいる最中、スマホを別荘に忘れたことに気付き、一人戻ると別荘へ戻る階段で茜とばったり遭遇した。
思いがけないチャンス到来に若干浮かれつつもこの機を逃さないよう慎重に話しかける。
「茜、話があるんだけど・・今いいかな?」
茜の表情を窺うと少しの緊張と怯えの色が見えた。
「えっと、、」
茜が口を開き返事を返そうとした。
その刹那
「茜ちゃーん!そんなところにいたんだ。なぎささんが呼んでるよーー!」
閑月の甲高い声が下から響き渡る。
(ちっ、またか邪魔が入るのか)
何とか茜に留まってもらおうと振り返るもすでに遅く、
「今行くーー」
と言い茜は去って行ってしまった。
去り際の「ごめんね」の言葉が傷口に沁みる。
謝るのはこっちだっていうのに。
その後何度か好機は訪れるも、結果は同じだった。
◇
夜になりベットに横になる。
今日一日で進展はなにもなかった。仕組まれているかのように、ことごとく上手くいかない。
ただただ時間だけが浪費される虚しさに胸が締め付けられる。
俺はもう茜と居ることはできないのか・・
夜は俺達を悲観的させる。暗闇で閉ざされた世界で、自分だけが取り残されていくような感覚。思考がネガティブに侵食されていく。
なんとかしてこの思考を止めようと布団の中に潜り込む。
すると、手元の携帯が突然光を発する。
画面を確認すると一軒のメッセージが届いていた。
茜からの連絡を期待しすぐさまアプリを起動するも、当てが外れる。
『今から庭に来れない?』
差出人は麗華だった。
指定された場所へ向かうと、彼女はすでにいて空を眺めていた。
「どうしたんだよ、こんな時間に呼び出して」
問いかけるも返事はない。
数秒間の静寂が続き、いい加減要件を聞き出そうと歩み寄ると、ようやくかの情が口を開いた。
「ねぇ、見てよ、空。星がとっても綺麗だね」
「星?そんなのは今はいいから早く要件を・・・」
「そんなの?・・君は乙女心が何もわかっていないよ」
珍しくむっとした表情を向けた麗華はやれやれといった仕草をしている。
「悪かったよ、反省してる」
気を害してしまったようなので最低限の誠意は見せようと手を合わせ頭を下げる。
「ほんとにぃ~~?」
小悪魔のような目線でこちらを問い詰める。
「ほんとほんと」
「ん~、なら許してあげるっ」
ちょろいのかちょろくないのかよくわかんないやつだな。
「で、本題は何なんだ?」
「あんまり急かさないでよ。今から言うからさ。」
彼女はこちらを見つめるとゆっくりと口を開いた。
「君はなぜ今日ずっと空回りしてたんだと思う?」
「なぜって・・たまたま運が悪かっただけじゃ・・」
「運が悪いだけでそう何回も失敗すると思う?それに、君自身もうすうす感づいているんじゃない?」
「っ、まさか、意図的に?」
それは考えうる一番最悪の可能性だった。ただ運が悪かっただけだと、自分に言い聞かせていたのもその為だった。これが事実なら俺が今後なんど背色を試みても結果は変わらないだろう。
違う言葉が出るのを願うも、現実は非情だった。
「そう、茜ちゃんは君と話したくないと言っている。距離を置きたいともね。それを聞いた皆は茜ちゃんに協力する方針だ」
何度も砕け、接着剤とガムテープで固定され不格好に修復された俺の心が再び粉々になる音がした。
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