011 エピローグ

 さて、序章を締めくくろう。


 まずは後から聞いて知ったこと。


 リアが体を奪われていた数週間、ヴィクトリアはあの小教会から一歩も出られなかったらしい。


 原因は悪霊たちだ。結界の内側にいてさえ心身の不調に悩まされ、生きているだけでやっとという状態だったそう。


 そういえば、あの小教会も聖火で護られていた。つまり、リアと同じように、あるいはリア以上に、ヴィクトリアも悪霊に狙われていたのだろう。悪霊たちは、ヴィクトリアの魂と体の両方を狙っていたというわけだ。


 それからもう一つ。

 少し後出しだが、王太子の話。


 ヴィクトリアは昔から王太子と婚約をしていたのだが、彼は学園でリアに好意を寄せてしまい、それもいじめの動機の一つとのことである。


 ヴィクトリアは追放と同時に婚約破棄を宣言されている。


 そして魂の入れ替わりが起こり。


 しかし、王太子は、リアの肉体に入ったヴィクトリアと決闘後に話してすぐ、何かがおかしいと気付いたらしく、


「君は変わってしまった……」


 と言い残して、今は王宮に引きこもっているらしい。それでいいのか王太子。


 体を奪われて絶望する聖女。

 奪ったが呪われてしまった悪役令嬢。

 蛙化現象(?)で引きこもる王太子。


 人を呪わば穴三つ。誰しもが不幸に終わる、そういうルートなのだろう。




 そして今。


 面倒な事情説明とかが色々あったわけなのだが、全てとばして、そのあと。


 うっすらと霧が立ち込める早朝。俺とリアは、小教会から王立ハルスペルド学園へと向かう通りを歩いている。


「幽霊さん。これも馬鹿話の与太話だから誰にも話してこなかったんですけど――私はいつか世界を救うのかもしれないんです」


「ほへえぇ」


 救うだろうなあ。

 聖女はこの世界の主人公なんだから。


「だから私は癒やしの術を勉強します。冒険者にはなれません。約束したのにごめんなさい」


「許せない。どのくらい許せないかというと恨んで付きまとうくらいには」


「……冒険者でなくても、まだ私についていてくれますか?」


「イヤと言ってもついていく」


「ふふっ、よかったです」


「風呂もトイレもついていく」


「トイレはありえません」


「イヤと言ってもついていきます」


 ん?

 風呂は許されるのか……?


「……っ、……とにかく、学生は冒険者よりもつまらないと思いますが、よろしくお願いします」


 つまらないわけがない。

 だって世界の主人公なのだ。


 これから先も楽しい出来事の目白押しに決まっている――と断言するには、この一件は鬱なイベントではあったけれど、俺がついていたらそう酷いことにはならないはずだ。


「あ、そうだ。実は幽霊さんにぴったりな名前を思いついたんです」


 リアは横を進む俺をちらりと見て、恥ずかしそうに微笑んだ。


「――ルイ、なんてどうですか」


「っははは」


 しょうもない。

 しょうもないけれど。


 ああ、たしかに、リアの後ろをついていくのが好きな俺には、これ以上ないほどふさわしい名前かもしれない。


 ルイ。

 俺のこの世界での名前だ。

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