異世界ストリートビュー
ちびまるフォイ
あなたが見たい/見たくない世界
『あなたは前世は医者だったようですね』
「ええ、それが?」
『あなたならきっとこの世界の病気を治せるでしょう。
これを使ってください。これは異世界スマホ。
あらゆる叡智を引き出す魔法のツールです』
「ありがとうございます、女神様!」
『これで異世界で俺TUEEEEして、
自己肯定感をぶち上げてハーレムを作り
前世でできなかった幸せを掴んでください』
「はい! ではこのスマホでストリートビューを撮影します!!」
『……あれ? 思ってた反応と違う?』
こうして異世界に転生した主人公は世界を救うでもなく、
異世界の道をたくさん撮っては異世界ストリートビューを作っていった。
それは単に道だけではなく、村やダンジョンも同じ。
ドラゴンの住処。
迷宮ダンジョンの中。
秘境の村。
などなど。
スマホ片手にさまざまな場所に行っては写真を撮りまくる。
写真文化の無い異世界人には奇人に見られたが、
スマホの叡智を使って誰でもアクセスできるようにすると
男の評価は180度逆転したうえ、きりもみ回転する。
「なんて便利なんだ!!」
「これでもう迷わないわ!」
「このダンジョン、こんなふうになっていたのか!!」
特に喜ばれたのは冒険者ギルド。
せいぜいが手書きの地図を共有するにとどまっていたのに、
ダンジョンの内部構造をつまびらかにしてくれたことで
冒険者の死傷率がぐっと下がっていた。
「これで冒険者をもっと多くのダンジョンへ
馬車馬のように派遣できます! ありがとうございます!」
「……それが原因でまた死にそうだな」
「どうですか。あなたも冒険者として活動しませんか?
冒険者はモテますよ? 冒険を口実にナンパできますよ?」
「いえいえ。自分はストリートのビューを撮りたいだけなので」
「そうですか。そんなに楽しいんです? それ?」
「ええ、それはもちろん。
まるで自分の足跡を残せるようで楽しいです」
「そうですか。ちなみに次はどこへ?」
「小人の村へいくつもりです」
男はスマホ片手に秘境にある小人族の村を撮影した。
これまで通ってきた村とは一線を隠すほどの絶景。
生い茂る植物や美しい水が流れる素敵な場所だった。
「これはすごい! 来てよかった! ちゃんと撮影しなくちゃ」
いつもよりも丁寧に撮影して仕事を終えた。
それからしばらくした頃。
家でくつろいでいると、急に小人族が乱入してきた。
「おい!! お前だな!!」
「な、なんですか?」
「オイラの村を撮ったのお前だろ!!」
「ストリートビューのことですか?
それでしたら、撮影しましたけど……」
「おかげでこっちはいい迷惑だど! 何考えてる!」
「ええ!?」
「お前が写真を撮ったおかげで観光の奴らが来て、
オイラの村をどんどん壊してくんだ!!」
「それは……観光に来た人が悪いのでは?
馬車が事故を起こしたら、馬車を考え出した人を糾弾するんです?」
「わけわかんないことを言うな!!
とにかくお前が悪いど!!」
「そういわれても……」
実は小人族の村はもともと結果で守られた神聖な場所だった。
自分は女神の加護という万能チートのお陰で、
ろくなパスポート申請も荷物検査もされずにスルーできていた。
そのことに気づかず撮影したことでミーハー観光客が押し寄せ
結界は壊され美しい景色は汚され、治安が悪くなっていった。
「でもそれも考え方しだいなんじゃないです?
観光で人がいっぱい来てるんなら、ルールを徹底し
入場料を取るとかすればむしろいい結果に……」
「あの村は先祖代々守ってきた村だど!
いまさらルールを変えることなんて許さんど!」
「変化に恐れているだけでしょう?
適応できない自分の責任をこっちに押し付けないでください」
「お前、ぜーーんぜん反省してないな!」
「そりゃそうでしょう。
というか、どうして私の家もわかったんですか」
「異世界ストリートビュー見て来たど」
「あなたたちだってめっちゃ活用してるじゃないですか」
「うるさいど!! 悪いことして反省してないなら、こうだ!!」
小人族は禁断の魔法を唱えた。
それは現代魔法ではおよそ解読できない古代の禁術だった。
「チイサク=ナーレ!!!」
「うっわあああ!!」
禁術がかけられるとスマホから衣服までみるみる小さくなる
もちろん自分の体もどんどん小さくなり、ダニと同等のサイズになる。
「わっはっは! これが小人族の禁術だど!
そのサイズならもうどこにもいけないな!」
「なんてことするんだ! もとに戻せ!」
「一生それで暮らすがいいど!
もっとも、今までのようにたくさんの場所に出かけるのは
そのサイズになっては無理だろうが」
今までは交通機関や自分の足、ときには魔法を駆使して移動していた。
しかしこのサイズでは今までの一歩分すら10日以上の時間がかかる。
「いい気味だど! 通行人にでも踏まれて死ぬがいいど」
「いや、感謝するよ。小さくしてくれて」
「だど?」
「これでまた撮影が再開できる」
「何言ってるど? そのサイズじゃどこにも出かけられないはず……」
小人族は最後までわからなかった。
男は小さくなってからまた新しいストリートビューを始めた。
今度はダンジョンよりも更に複雑な場所へと向かう。
たくさんの写真を撮ったあとは口から帰還し、
患者にはそのストリートビューを見ながら解説した。
「見てください。こことここ。病巣があります。
食生活の改善が必要ですね」
「先生、俺の体そんなことになってるんですか……」
「ええそうです。実際に見てきましたから。
体内ストリートビュー、またいつでも活用してください」
異世界でもっとも小さな医者による診療所。
今では患者が途絶えることのない人気の場所となった。
異世界ストリートビュー ちびまるフォイ @firestorage
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