第34話 治療のために3

 マリアは、王都にやってきた母親との再会を喜んでいた。


「元気だった? マリア」


「はい、お母様。今日はわざわざ来ていただいてありがとうございますわ」


 馬車から降りた母親とマリアは挨拶をしながら抱き合った。


「それにしても家も売ってしまって、ちゃんと生活はできてるのかい?」


「ふふ、今は冒険者をしていますわ。これでも今回の手術のお金を立て替えるくらいの稼ぎはありますのよ」


「まあ、あの人からの手紙を見ればそうなんだろうがねぇ。王都の冒険者でそれだけ稼げる人はまずいないよ」


 自慢げに胸を張るマリアの様子に母親はそうって笑った。


 その後、いろいろと会話をしながらイザベルの母親が手術を受けるネフィの治療院へと向かった。


 イザベルの母親の手術は無事に終わった。

 安静に過ごせば普通に暮らすには問題ないように回復するだろう。


「ありがとうございます。先生、マリアのお母さん」


 イザベルが治療院のベッドで眠る横で頬に涙を伝わせてお辞儀をする。


「エンリエット伯爵夫人にご助力頂ければ難しい手術ではありませんでした。しかし、これからはどうするのですか? この治療院でいつまでも面倒を見るわけにもいきません、あの家での療養はおすすめしませんよ?」


「その事なら大丈夫なんでしょ、イザベルちゃん」


 ネフィの苦言に対して、マリアの母親が含みを持たせて笑った。


 ここに来るまでにマリアから聞いているのだ。


 マリアは宣言通り家を買った。エンリエットの屋敷を買い戻したのではなく貴族街の入り口にある小さな屋敷だ。

 小さいといっても貴族の基準であり、平民から見れば大きな家なのだが。


 そんな屋敷なので管理する人を雇わなければならない。

 そこで、マリアは給料の先払いでイザベルの母親を雇う事にした。給料の先払いとはもちろん手術費の事である。


「お母様にお泊り頂くのにイザベルさんと一生懸命掃除もしましたし清潔感もバッチリですわ!」


「ほんとうに、ありがとうね、マリア」


「イザベルさんのお母様が治るまではイザベルさんが代わりをしてくれる約束ですわよ? 今日はお母様がお泊りになります。お食事をよろしくお願いしますわ。お母様、イザベルさんの作るお食事はとても美味しいのですわ!」


「そうかい、それは楽しみだね。よろしく頼むよ」


「はい! お口に合うように精一杯作らせていただきます」


 こうして、イザベルの母親の手術は無事に終わり、諸々の問題は片付いたのであった。


 ◇◆


「クソ! いつまで俺をこんな所に閉じ込めておくのだ! 俺はこの国の王子だぞ! おい、聞いているのか?」


 ハインツは鍵のかかったドアを蹴りながら外に居るであろう兵士に向けて怒鳴った。


 ハインツは今牢に入れられていた。

 一般的な鉄格子の牢屋ではなく、貴族用の牢屋で調度品などもあり牢屋でなく部屋といっても差し支えはない。


 しかし、普段ハインツの過ごしていた部屋よりも貧相であり、侍らせていた女もいない。

 食事を持ってくるのも女性のメイドではなく鎧を着た兵士だ。


「ハインツ様、これは陛下のご命令なのです。今のあなたは裁きを待つ身。どうかご乱心をお納めください」


「うるさい! なにが罪人だ! 王子の俺がする事が正義、罪になるはずがない!」


 兵士が宥めようとするがハインツは聞く耳を持たず、暴れて調度品をドアに叩きつける。


「貴様、俺が王位を継いだら覚えていろ! お前をいや、お前の家族全員処刑してやるからな!」


「そのような事にはなりません!」


 これまで宥めるように発言をしていた兵士の声が少し怒気を帯び、大きくなった。


「今回の件で王位を継ぐのはクロウデン殿下と決まりました。貴方はこの塔で死ぬまで幽閉される事でしょう」


「な……!」


 広場でハインツの言った策略は街の人全員の知ることとなった。

 普通ならば死罪となる所であるが、王族という事を考慮して終身刑となったのである。


「ふざけるな! 俺は王子だ! ここから出せ! 出せぇ!」


 事実を受け入れられないハインツは、これまでとは違い、必死に叫び続ける。

 その夜は、ハインツの声が枯れようとも叫び続ける声が、塔に響いていた。




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