第33話 治療のために2
夜、ルドルフが手紙をしたためていると、部屋のドアが勢いよくノックされた。
ルドルフが許可をすると、扉を開けた騎士が綺麗なけいれいをする。
しかし、その息遣いからここまで急いできたということがわかった。
「どうしたのだ、そんなに慌てて」
「は! マリア・エンリエットが謁見を求めています!」
「こんな時間にか?」
ルドルフは窓に視線をやる。蝋燭をつけているので当たり前だが、すでに日は落ちて女性が出歩くような時間ではなかった。
「はい! その、謁見が叶わなければ無理矢理にでもと言わんばかりにメイスを担いでおいでです!」
「な、なんだと! それは、急ごう」
騎士の話を聞いたルドルフは勢いよく立ち上がると、マリアを謁見の広間に呼ぶのではなく、慌てて城門へと向かった。
門まで出向いたルドルフはマリアの要件を聞いて、ルドルフは拍子抜けした。
状況を聞いて、いったいどんな要件で乗り込んできたのかと肝を冷やしていたからだ。
確かにルドルフの了承が必要な案件ではあるが、停戦中の今ならば無理難題と言うわけでもない。
いきなりメイスを持って乗り込んで来なくともいいだろうと思った。
しかし、今は平民であるマリアが通常の手段で謁見を求めればルドルフに謁見するまでにどれほどの時間を要するか分からないのである意味正解の行動なのかもしれない。
マリアの要件を了承した後、ルドルフは部屋に戻り、再び手紙を書き始める。
当初の予定よりも長くなった手紙の返事が返ってきたのは1週間後のことだ。
ルドルフは手紙に目を通した後、深いため息を吐いた。
「仕方のないことだったとはいえ、信頼を失ってしまったな。いや、それでも我が国を守ってくれるだけマシ、首の皮一枚繋がっているという事か。……これから、信頼を取り戻すため頑張らねばならないな」
手紙の相手はマリアの父親、元エンリエット伯爵であった。
ハインツの罪が暴かれエンリエットの無実が証明されたため、もう一度この国に仕えてくれないかという手紙を送ったのだ。
エンリエット伯爵からの返事は「否」
今の国に使える事はないという返事であった。
ただ、今任されている砦の守護は続けるといった返事。
停戦中で隣の国と睨み合いが続く今、守りの要があるのはありがたい事であった。
国の防衛を指揮する立場であったポルニッカ伯爵が裁かれる事になった今、国の防衛はガタガタと言ってもいい状況なのだから。
「まずは新しい防衛大臣を決めねばな。それからハインツのせいで死んだ者達の家族への補償もせねばならん」
ルドルフは手紙を引き出しにしまうと、会議のために部屋を出ていくのであった。
◇◆
「お母様だけずるい! 私も行きたいわ!」
馬車に乗り込む女性に騎士服の女性が声をかけた。
「セニカには私がいない間魔法師団を見てもらわないといけないでしょ? 副団長なんだから」
「そうだけど、私だってマリーに会いたいわ」
騎士服の女性がほほを膨らますと馬車に乗った女性はクスリと笑った。
「悔しかったら私より上手く魔法を使えるようになる事だね! そうしたら今回も私じゃなくセニカが呼ばれたでしょう?」
「そんな無茶苦茶な!」
「私はマリアとお茶しに行くわけじゃないのよ? 過保護なのもいいけどね、マリアに頼られたかったらそれなりの実力をつけなさいな。あの子は単独でロックタイタンを倒したそうよ、アーサーは兄の威厳を保つために毎日死に物狂いで特訓してるそうよ。セニカはどうするんだい?」
女性は夫からの手紙で1人王都に残してきた娘が逞しく生きていることを聞いていた。
最初に手紙を読んだときは城に乗り込んでやろうかと考えたがそれを自制する精神くらい持っている。
「王都のゴタゴタのせいでこの辺りも少しきな臭くなってきた。国を守ってからマリアに胸を張って会いな。頼りないお姉ちゃんにはなりたくないだろう?」
「分かった。お母様が帰ってくるまでしっかり守ってみせる!」
セニカの返事に頷くと、女性は御者に声をかけて馬車を発進させる。
女性は1人背もたれに体を預けゆっくりと天井を見上げる。
「セニカはセニカで子供っぽいけど子爵とは上手くやってんだろうか? 私が戻ってきたら休みをやろうかねえ」
女性のつぶやきに返事する人はおらず、馬車はガタゴトと揺れながら王都へと向かって進むのだった。
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