鏡が映した願いとすれ違いの恋の行方〜こんな姿じゃ本当に婚約破棄されちゃう!?〜

葉南子@アンソロ書籍発売中!

第1話 体が縮んだ!?

 私はイルド王国第一王女、クリス=サーガティア。


 幼馴染で婚約者のシーインと隣町の視察に来たものの、私と彼はいつも別行動。

 

 この日もそれぞれ別の馬車でやってきて、そしてすぐに離れ離れになった。

 

 ──昔はもっと近くにいたのに……。


 二年前、彼は弱冠二十二歳にして国の騎士団長に就任した。

 名門貴族の出身ということもあったが、誰よりも責任感が強く、剣術にも長けていたので、反対する者は誰ひとりといなかった。

 

 もちろん、婚約者の私としても喜ばしいことだった。

 

 しかし、それから仕事が忙しくなり、国を守るという責任感からか、どこか私に冷たくなったように見える。


 ──でも、シーインの仕事の邪魔しちゃいけないから……。


 この国の王女として、騎士団長の妻になる女として、国を守ってくれる彼の仕事の邪魔なんてしたくはなかった。

 だから、「寂しい」「悲しい」「切ない」なんて気持ちは、心の奥底にしまっていた。


 ──だけど、やっぱり……。


 昔みたいに、たわいもないことを話して、笑い合って、素直に気持ちを打ち明けられたらいいのに。


 そんなことを思いながら街中を歩く。

 退屈しのぎに立ち寄ったのは、街外れにあった小さなほこら


 ──こんな場所に祠なんてあったんだ。


 木々の隙間にぽつりとたたずんでいて、よく見なければ気づかないほどだった。

 

 そこには古びた鏡があり、「願いを叶える鏡」という不思議な言葉が刻まれている。

 軽い気持ちで鏡を覗き込み、私はぼんやりと願ってみた。


 ──昔みたいに戻れたらいいな……。


 すると鏡からまばゆい光があふれ出し、徐々に視界が真っ白に染まっていく。


「……なに!?」

 

 驚きの声を上げたものの、不思議となにも考えてられず、すぅっと意識が遠のいた────。



 次に目を開けたとき、私は冷たい土の上にうずくまっていた。


「……ん」


 頭がぼんやりするが、身体に痛みはない。

 どうやら怪我などはしていないようだ。

 

 けれど、体が妙に軽い。

 違和感を覚えて地面に手をつくと、ドレスの袖口がずるりと滑り落ちた。


「……え?」


 驚いて顔を上げると、鏡に映ったのは──幼い少女の姿だった。


「な、なんで……!? どういうこと!?」


 震える手を伸ばし、鏡の表面をなぞる。

 どこからどう見ても、そこに映るのは十歳にも満たない幼い自分の姿。


「…………夢、じゃない……よね」


 亜麻色の髪は長いままだが、顔立ちは幼く、体も小さくなっている。

 着ていたドレスはぶかぶかで、袖はすっぽりと手をおおい、裾は地面に広がっていた。


「本当に、願いの叶う鏡だったの……」

 

 鏡に向かって呆然と呟く。

 確かに「昔みたいに戻れたらいいのに」と願った。

 

 ──でも……こんな形で望んだわけじゃない!


 だって、それは独り言のように思い浮かべた願い。

 本当に願いが叶う鏡とわかっていたなら、もっとちゃんと願いを考えた。

 

 焦燥に駆られるように、唇を噛みしめる。

 

「とにかく……元に戻らなきゃ!」


 何度も鏡に「元に戻して」と願い続けた。

 けれど、光を放っていたはずの鏡には、もう何の反応も見られない。


「うそ……戻る方法、わからないまま……?」


 強い絶望感に襲われる。

 この姿で、どうすればいいのか。

 

 王女としての立場は?

 婚約者としての立場は?

 

 もしかしたらシーインは「そんな姿では婚約を続けられない」と言うかもしれない。

 

 でも、それなら私はどうすればいい?


 行く当てもなく、頼る人もいない。

 王宮から離れたところで、小さな子供ひとりが生きていけるはずがない。


 泣きそうになりながらも、ふと自分の姿を見下ろす。

 ぶかぶかになったドレスの下に着ていた丈の長めなキャミソールが、ワンピースのように体を隠していた。

 子供の姿になった今の自分には、ちょうどいいサイズだ。


「……王宮に戻らなきゃ」

 

 ぐっと拳を握りしめる。

 シーインやメイドたちにどう誤魔化せばいいのか、それはまだわからない。

 でも、こんなところでじっとしているわけにはいかなかった。


 不安と焦りを抱えながら、私は小さな足で祠を後にした。

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