第5話 理由
ピンク色の下着が露わになる。水島先生は口元に妖しい笑みを浮かべながら、下着を胸の上へと一気にずりあげた。
ずれた下着の隙間から、プルプルとした物体が落ちる。水島先生はそれを手に取ると、俺の前に晒した。俺が女装のために使っている、胸を大きく見せる道具が彼女の手のひらでプルプルと揺れていた。
「直接触られたワケじゃなかったからよ。でも気をつけなきゃだめよ。周りは女の子だらけなんだし、今みたいにここがこんな風になってたら、すぐにバレちゃうわよ」
水島先生が耳元で囁くように言ったあと、股間を指さす。クドいようだが俺は女が嫌いなワケではない。
「さてと……目が覚めたようだし、春日先生に連絡しておいたから。みんなにバレないように気をつけなさいね。特に今日は……ねっ。それと、後で必要になると思うから持っていきなさい」
水島先生はウィンクをしながら意味深な言葉を吐いたあと、俺に何かが入ったビニールの袋を渡した。と同時に、保健室の扉が開き、担任教師の春日由里絵がやってきた。今の時間、2-Bは由里絵が受け持っている国語の授業中だったのだ。
「私が受け持っている時間でちょうどよかったわ。綾辻くん……あっ、綾辻さんのこと、みんなに紹介するわね」
俺たちは保健室を出ると、2ーBの教室に向かって歩き始めた。
階段を登り三階に着く。一直線に延びる廊下には、四クラスある二年生の教室のほか、美術室や理科室などといった特別教室が並んでいる。2-Bの教室は、廊下を真っ直ぐ進み、突き当たる一つ前の教室だった。
2-Bの教室の前まで来た。教師がいないからか、教室の中は騒がしかった。
「全く、あの子たちったら……」
由里絵が教室の扉を開き、中に入る。すると騒がしかった教室内が静かになった。
「ちょっと遅れたけど、新しいお友達を紹介します」
生徒たちに向かって由里絵が言った。
「さあ、入って」
由里絵に促され、教室に足を踏み入れる。入った途端、俺が通っていた男子校とは全く違ういい匂いが教室に漂っていた。
由里絵が黒板に俺の名前を書く。
「今日から私たちと一緒に過ごすことになりました、綾辻千尋さんです」
そう言うと、由里絵が俺に向かって目配せをした。どうやら自己紹介をしろと言っているようだった。
教室を見渡す。当たり前だが教室の中は女子だらけだった。みんなの視線が俺に突き刺さる。その中に、加納麻梨亜や、結城真緒の姿もある。麻梨亜は俺と目が合うと、ニコリと優しく微笑んだ。
「えっと……今日からこの女学院に……」
キーンコーンカーンコーン
俺が自己紹介を始めたと同時に授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。生徒たちが一斉に教科書とノートを片づけ始める。何かとても急いでいる様子だった。
「あっ、そうだった。次の時間は体育だったんだわ」
「えっ? 体育?」
先ほど保健の水島先生から受け取ったビニール袋を開けてみる。中には赤い上下のジャージが入っていた。
「か、春日先生……次の時間って体育なんですよね」
「そうよ。体育の森山先生は遅刻するとうるさいから、綾辻さんも早く着替えなさい」
「ど、どこで着替えるんですか?」
「どこって、もちろん更衣室に決まってるじゃ……あっ」
俺たちはお互い見つめ合ったまま、その場で固まっていた。
「あっ……えっと、私、数学の松本先生に呼ばれていたんだったわ……さよならーーーーー!」
「あっ! 逃げたっ!」
担任の春日由里絵は俺の前から逃げ出した。いきなり体育なんて聞いていない。女の子たちの前で着替えて、俺が男だとバレたらどうするんだ? 麗菜はこういう事態になることを考えなかったのか? まあ、俺も今、初めて気づいたのだから人のことは言えないが……。
どうしようかと戸惑っていると、俺はあることに気づいた。
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