第4話 禁断の…

 白いカーテンに指を掛ける。そーっとそれをスライドさせる。俺は目の前で身体を重ねている二人の姿に言葉を失っていた。


 肩ぐらいまでありそうな明るい栗色の髪をポニーテールにした女が、美嘉と呼ばれる女の背中に胸を押しつけるように乗っている。


「真緒……ちょっと痛いよ」


「我慢しなさい。もう少ししたら気持ちよくなってくるから」


 真緒と呼ばれるポニーテールの女は、保健室にはそぐわないレオタード姿の美嘉に覆い被さるように身体を預けた。


「いやああん、痛いよぉ。もっと優しくして!」


 床で両足を開き、背中を真緒に押された美嘉の身体。豊かな膨らみが床に押さえつけられ、柔らかく形を変えている。ぴったりと身体に張り付くレオタードが彼女の豊かな膨らみを余計に強調している。


「いやあん、何かエッチ」


 美嘉の姿を見て真緒が後ろから胸の方へと手を回す。


「やだあ、〇っぱい触らないでよ」


 目の前で繰り広げられる乙女たちの禁断の行為に、思わず唾を飲み込む。その音が思いのほか大きかったのか、はたまた、俺が何やら怪しいオーラを出していたのか、突然真緒が後ろを振り返る。ぱっちりとした瞳の真緒と目が合った。真緒はニヤリと笑うと、突然カーテンを素早く開いた。


「あ、あわわ……」


 緊急事態に言葉が出ない。


「こっそり見てたでしょ、私たちのこと」


 真緒がベッドに手を突き、俺の方へと身体を寄せてくる。


「もしかして、あなたもこっちなの?」


 口元に妖しい笑みを浮かべながら、真緒が俺の胸へと手を伸ばしてきた。

 真緒の手が胸に触れた瞬間、俺の頭に幼い頃に麗菜によってあんなことやこんなことや、そんなことまでされた記憶が蘇って……こない? 


(えっ、どうしてだ?)


「あら、嫌がらないってことは、やっぱりあなたもこっちなのね。嬉しい!」


 そう言うと、真緒が俺の首に腕を巻き付けながら、突然唇を奪ってきた。その瞬間、俺の頭の中に幼い頃麗菜によってあんなことやこんなことや、そんなことまでされた記憶が蘇って……くるっ! 俺の身体は硬直し、小刻みに痙攣を始める。


「きゃあっ! どうしたの?!」


 慌てて俺をのぞき込む真緒の顔が次第にかすれてゆく。俺の意識はそのまま遠のいていった。


 目が覚めると、俺は保健室の天井を見上げていた。


「あら、気がついたかしら?」


 俺の顔をのぞき込む大人の女性が目の前にいる。長いストレートの黒髪。真っ赤に彩られた薄い唇。顎の右側のホクロが何とも艶めかしい。赤縁のメガネの奥に見える切れ長の瞳が、俺をじっと見つめていた。


「ぉ、俺……いやっ、私、一体どうしちゃったのかしら……」


「ふふふ、ここでは隠さなくてもいいわよ。この女学院の教師たちは、みんなあなたの正体を知っているから。学院内では気が抜けないでしょ? ここにいるときぐらいリラックスしなさい」


「そ、そうなんですか……良かった……編入早々に退学しなきゃいけないと思ってしまいました」


 俺が言うと、彼女はニコリと笑った。大人の女性の魅力に思わずドキッとする。クドいようだが俺は女性に触れられるのが怖いだけであって、女性に興味がないわけではない。


「あれ、さっきの子たちは?」


 保健室には白衣を着てイスに座っている彼女の他に誰もいなかった。白衣には『校医 水島』と書いてある名札があった。


「ああ、結城さんなら教室に戻したわ。彼女のお友達が昼から競技会があるらしくて、ここでストレッチを手伝っていたんですって。まあ、本当はお友達のレオタード姿が見たかったんでしょうけど……彼女、男の子には興味ないみたいだし」


「や、やっぱり……ぁ、そう言えばひとつ不思議なことがあったんです。彼女が俺の胸に触れたとき、俺、いつもみたいに卒倒しなかったんです。何でなんだろう……」


「ふふっ、教えてあげましょうか?」


 水島先生はイスから立ち上がると、俺の耳元でそっとそんな言葉を囁いた。彼女からほのかに漂う香水の甘い匂いが鼻をくすぐる。そう言ったあと、彼女は俺が着ている制服を胸の上まで捲りあげた。

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