第34話

暫し待つと、マリアがテーブルにサラダを置き、椅子に座る。


「後は、煮込んでパンを焼くだけで完成だから…先にサラダ食べる?」

「ああ」


そういうと、マリアがサラダを取り分けてくれる。野菜を食べるのはあの村で貰って以来だ。


「むしゃむしゃ……」

「どう…おいしい?」

「草なんてそんな食わないから分からん…たぶんうまい」

「草って……バランスよく食べないと大きくなれないよ」

「料理なんて作れないんだからしょうがない…」

「そっか……じゃあ、今日だけでも沢山食べなきゃね…」

「むしゃむしゃ」


追加でサラダを盛ってくるので、仕方なく食べる。


「もうそろそろいいかしら……」


マリアがキッチンに戻り、料理の仕上げを始める。

サラダを食べながら待っていると、テーブルにシチューとパンが並ぶ。


「さ…沢山たべて」

「うん」


早速、料理を頂く。シチューは熱々だが、コクがあってうまい。久しぶりに食べた懐かしい味がする。


「うまい」

「そ、良かった」


パンともよく合い、食が進む。


「おかわり」

「ふふ…まっててね」


キッチンからおかわりを持ってきてくれる。


「むしゃむしゃ…うまい…うまい」

「ふふふ…」


俺が沢山食べていると、マリアが食を止め笑い出す。


「あまりにもアインに食べ方がそっくりだったから…ふふ…ごめんね…」

「…」

「アインの好物なの……よく作ってくれって頼まれるから得意料理になっちゃった…」

「うまいわけだ」

「そうでしょう……でも、もう頼まれることはないのよね……」


しんみりしてきた。最近重い話ばかりで気が滅入る。でもこれは俺が悪いわけじゃないんだ。読者の皆さんごめんなさい。


「アインは両親が死んだとき15になりそうで、私のためにすぐ稼げる兵士になったの」

「…」


マリアがアインの話を始める。


「4年ぐらい前までは、ただの兵士だったんだけど、そこから徐々に名を挙げて部隊も任される精鋭になった」

「有名だって言ってたな…」

「そう……先読みのアイン、未来の敵兵の動きが分かるような動きをするからそう呼ばれてた」


デバイスのマップ機能を使って、敵兵の動きを読んでいたのだろう。では、アインがデバイスを手に入れたのは4年ぐらい前ってことか。


「結構人気もあって強かったから、期待されていたんでしょうね…」

「…」

「今回の戦争でも中隊長を任されていたの…カンガニが攻めてこなければ、きっと快勝だったでしょうね……戦力を分断しなくてはならなくても…ノービアは振り上げたこぶしを降ろせなかった……」


ここに来るまでの道中で聞いた。今、ノービアは南でワーツと北でカンガニと戦争をしている。カンガニには勝ちそうだって言っていたから、そっちはもう終わっているかもしれない。


「兵が半分になっても戦うしかなかった窮地で、アインはワーツで有名な将官とその側近を討ち取ったけど、反撃に合い行方不明になった……ここまでが私が聞いた話……」


(行方不明…死体は見つかっていないのか……)


「ワーツの将官を倒したことで、敵の逆侵攻をすごく遅らせることができて、アインはさらに名を馳せたわ……」

「…」

「別に有名にならなくてもよかったのに……2人で一緒に暮らしていければ…ただそれだけでよかったのに…」

「アインがいなかったら、もうこの国は滅んでいたかもしれないぞ……」

「そんなの分からないわよ……」

「…」

「戦争なんて、国の代表1人だけが戦って勝ち負けを決めればいいのに…」

「負けた方はそれじゃあ、納得しないだろ…」

「そうよね…」

「……」

「アインとはどんな出会いだったの?」


次に話すのは俺の番のようだ。


「俺とアインが出会ったのは戦場だ…アインはもう死ぬ寸前だったから、ワーツの敵将を倒した後かもしれない」

「死ぬ寸前…」

「ああ…そうだ…アインは俺に装備品を渡す代わりに手紙を2通渡して欲しいと契約を結び…死んだ」

「死んだ……そう……最後にアインは何か言ってた?」

「たしか…ノービアとマリアに幸福を……そんな感じだったと思う」

「……なによ……それ……最後まで人のことばかり……ほんとに……」


泣くのを必死に堪えている様だ。


「マリアは……マリアは復讐とか考えないのか?」


一瞬迷ったが、聞きたい欲求に勝てなかった。泣かないでいて欲しいとも思っていたのかもしれない。


「復讐?……そうね……復讐……」

「いや、考えてなかったならいいんだ…忘れてくれ」

「……確かに…昨日までは怒りとか、寂しさとか、恨みでごちゃごちゃしてたわ……その中にはそういう感情もあったのかもしれない……」

「昨日まで……?」

「そう…今日ユザナが手紙を届けてくれたから…手紙を読んだらそんな気なくなってしまったわ……」

「手紙にはなんて?」

「そうね…読んでみる?」


そういうとマリアは手紙を鞄から渡してくる。


「いいのか……読むぞ?」

「ええ」


手紙を開け、中身を読む。


マリアへ

俺は死んだみたいだな。もうお前を守ることはできないってことだ。これからは1人で強く生きろ。早くいい旦那を見つけて幸せになれよ。俺のことを忘れるくらい、幸せにな。まぁ、俺の存在が偉大すぎて無理だとは思うが……

マリアももう大人だろ?役割を全うするんだ…花屋で安らかに生きるという役割を…

俺はいつでもマリアの幸福を願っている。                アイン


アインからのマリアの幸せを願った手紙だった。


(役割か……俺の役割とはいったい何なのだろうか……きっと復讐ではないことは確かだ)

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