第33話
街の外に出て、新たに魔道具を試したかったが、お金がなくなってしまったので、ポーションを売ることを優先した。
ポーションを売っている店を見つけ、値段を確認すると中級ポーションは1000リカ、初級ポーションは100リカだった。
(中級ポーションは魔法登録1回分……これも高いな…)
ポーションを売れるか聞いたところ、質が悪くなければ7割程の値段で買い取ってくれるらしい。残る手持ちのポーションは中級が2本、初級が10本だ。中級1本、初級5本を売ることにする。簡単に1050リカが手に入った。
残りの時間、そのお金を使って服や飯を買いながら街を観光する。
そうこうしているうちに、アラームが鳴ったので花屋に向かう。
花屋の前で待ってると、マリアが出てきた。
「待たせてごめんね」
「いや……いい買い物ができたからいい……」
「そう…じゃ、ついてきて」
マリアが歩き出すので、ついていく。
「どこに向かうんだ?」
「素材屋よ、料理のための食品を買いに行くの」
「料理?」
「うん、今日は私の家で料理を食べてって」
「………ただで食わせてくれるっていうなら、食べる」
今日はマリアが料理を振舞ってくれるらしい。
大通り沿いの素材屋で食材を買い、マリア宅に向かう。
「マリアは料理ができるのか?」
「アインができなかったからね……私がやるしかなかったの……」
「アイン?」
「お兄ちゃんのことよ……先読みのアインって結構有名だったんだけど知らない?」
「知らない……俺は国外から来たからな……」
「国外……まさか……手紙を届けるためだけに、国外から来たの?」
「そうだよ……契約だったからな」
「契約……?」
マリアは驚いて話についていけてないようだ。
「その辺は落ち着いてから話そう……」
「そうね……」
込み入った話は後にして、今はマリアについて聞くことにする。
「マリアは花屋で働いているのか?」
「…そうよ……お花が好きだからね…」
「花か……花は分からん……」
「まぁ、男の子はそうだよね……ユザナくんは何が好きなの?」
「んー…魔法かな……」
魔法は好きだ。こいつがあるから生きてこれた。今では魔法なしで生きられない体になってしまった。
(もう戻ってこないのね…純白だった私の体……)
「魔法?使えるの?」
「まあな」
「すごい…お金持ちなのね……」
「昔はな…」
「昔?……」
「俺の話はいいだろ…花屋は長いのか?」
マリアの顔が曇ったので、話題を変える。
「え……もう…3年になるかな……15で働き始めて今18だから…そうね」
「マリアは18歳なのか」
「ええ…そうよ……ユザナ君は?」
「ユザナでいい…もうそろそろ11歳になる」
「じゃあ、ユザナね…私もマリアでいいわよ……11歳か…そういえば忘れていたわ…保護者の方はどこにいるの? 挨拶しておかないと……宿?」
「保護者はいないから大丈夫だ」
「え?」
「1人でここまで来たんだ」
「どういうこと?家族はついてきてくれなかったの?」
「家族は死んだ……」
「…」
マリアの顔が暗くなる。こうなるのが嫌で、話題を変えたのに結局なってしまった。
「ごめん…」
「別に謝る必要はない…マリアだって兄を失っただろ…一緒だ」
「…そうね……でも…ごめん」
「謝るくらいなら、普通にしてくれると助かる……」
「……わかったわ……」
少し気まずくなりながら、道を歩く。
「あ……ここよ…」
大通り沿いから一つ曲がったところに、普通の一軒家があった。
「大きいな」
「昔からここに家族で住んでいたからね…今は1人になってしまったから…この大きさが寂しくなるの……」
「…1人?……お前も親がいないのか?」
もうここまで、気まずくなったんだ。今のうちに聞きづらいことは、聞いておこう。
「うん……私が10歳の頃にね……それからはアインと2人でなんとか生きてきたの…」
「…」
「…中に入りましょう」
「ああ…」
家に入る。マリアの家は、綺麗に整頓されており掃除が行き届いていた。
「すぐ、作っちゃうから座って待ってて」
「俺も何か、手伝おうか?」
「料理したことあるの?」
「ない」
「なら大丈夫よ…待ってて」
マリアがキッチンで、料理を始める。俺は、座って待つことしかできない。
(料理なんてしたことがない…足を引っ張ることになるだろう…俺は無力だ…)
「ここまではどうやってきたの?」
キッチンからマリアが話しかけてきた。
「……走ったり…馬車に乗ったり…」
「走ったり…」
マリアが若干引いているので、嘘をつくことにする。
「たまにだよ……ほとんど馬車だった」
(本当はほとんど走りだった……)
「…そう……大変だったでしょう……」
「大変だった…でも、契約だからな…しっかり果たさないと」
「…契約…」
「…困ったもんだよ…お前の兄には無理やり契約を締結させられたんだ…」
「そうなの?…ふふ……アインは強引なひとだったから」
マリアが昔を懐かしむように笑う。
「でも、あの人…契約魔法なんて使えたのね」
「知らなかったのか?」
「うん…あんまり仕事のことは話さない人だったから」
「へぇ」
マリアは、アインが契約魔法を使えたことを知らなかったようだ。できれば、不履行時のペナルティとか解除ができるかとか知りたかった。契約は分からないことばかりだ。契約が魔法なのか術式なのかも分からない。
「じゃあ、その契約の時に私があそこの花屋で働いてるって聞いて尋ねてきたのね…」
「いや、そこは聞いてない……あの兵士と話したのは一瞬だったから、地道にノービアでマリアのことを聞いて回った」
「…え……それは大変なんてものじゃなかったでしょう」
「がんばった……」
「…お礼なんてそんな出来ないわよ……」
俺の頑張りに、マリアが報酬を出そうとする。しかし、契約のとき報酬はすでに貰ってる。
「報酬は契約の時にもらったから大丈夫だ…」
「…もう貰ってるのね……それなら良かったわ………でも頑張った分、今日は沢山食べてって」
「分かった……俺たくさん食う」
「…ふふ…もう少し待っててね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます