第35話

役割については最高神様もこのように発言している。

「人は運命を乗り越え行動することができるが、それに伴う役割は全うしなければならない」

神学の授業で最初に習うことだ。


(役割を全うしろ…か……)


「アインは高慢だな……」

「ね……ほんとそうなの……いつも自分の言うことはすべて正しいみたいに……」

「…」

「こんな手紙を寄越されたら幸せになるしかないじゃない……復讐なんて考えている場合じゃないわ……」

「そうだな…」

「……ありがと…ユザナ………この手紙を…アインの思いを届けてくれて……」

「ああ…」


(あたたかい……)


契約のための行動だったが、無事手紙を届けることができて良かったと心の底から思えた。


(カナリアにもはやく届けないとな……)


マリアが落ち着くのを少し待つ。


「そういえば、アインからの報酬はなんだったの?装備品て?」

「魔道具と武器にマジックポーチだ…」

「やっぱりそれ…アインのマジックポーチよね………よく自慢されていたから覚えているわ……」

「武器はなくしてしまったが、魔道具とマジックポーチの中身にはよくお世話になった。返せと言われても無理だぞ……」

「恩人にそんな横暴しないわよ……」

「ならいいんだが……」

「あ…でも……」

「なんだ?」


マリアが恥ずかしそうに言い淀む。


「あの懐中時計は返して欲しいかも……思い出の品だから……」

(懐中時計か……俺にはデバイスのタイマーがあるから今となっては別に必要ない……)

「時計か……今日の料理のお礼に返してやってもいい……」

「……いやいや…料理は手紙を届けに来たお礼っていったでしょ……ダメよ…」

「それはアインからすでに報酬は貰ってるから大丈夫だ……今日の料理は懐中時計の対価…それでいいだろ……」


マジックポーチから懐中時計を取り出しマリアに押し付ける。


「いいのかしら…」

「今は俺のものだ…どう扱おうが俺の勝手だろ?」

「そうだけど……」

「ん…」


受け取ろうとしないので、無理やり握りこまらせる。


「……ありがと…」

「ああ」


一度落ち着き、冷めてしまった食事を再開する。


「そういえば、届けなきゃいけない手紙がもう一通あるんだ」


マリアに無事手紙を届け終わった俺にとって、ここに来た本題はこれだ。


「もう一通?」

「ああ、宛先がカナリアという情報しかないんだが、知ってるか?」

「……カナリア……んー……兄との知り合いにカナリアなんていたかしら……んー……」


(まずいな……マリアがカナリアを知らないとなると、カナリア捜索大作戦が実施されることになる……手紙が光り契約が完了するまでノービア在住のすべてのカナリアに手紙を持ってもらう苦行だ……絶対やりたくはない)


「……カナリアって……もしかして……」

「手がかりがあるなら、なんでもいい……教えてくれ」


懇願する。

(カナリア捜索大作戦だけは絶対にごめんだ……)


「おそらく……カナリア第2王女殿下かもしれない……護衛だったかは分からないけど…一年以上前にアインがカナリア様について愚痴っていたから……」

「王女……」

「可能性の話よ……でも……私の知る限りじゃ……アインの知り合いに王女以外のカナリアはいないはず」

「じゃあ、手がかりはそれだけか……」


手がかりは少ないが、当たりをつけられただけでも大満足だ。


「でも……だとしたら……手紙を届けるのは難しいわ……」

「流石に、王女に平民が会うのは難しいか……」

「それもあるけど、カナリア様はもうこの国にはいないのよ…」

「いない……まさか…」


(この国にいない……まさか死んだのか……それなら手紙を届けるのは不可能だ)


「魔法学校に入学したのよ……」

「……学校…」


死んだわけではないようだ。


「ちょうど一か月くらい前にね……疎開って訳ではないのだけれど、ちょうど12歳になる年だし、戦争中だから王様も逃がしたかったのかもしれないわね……」


子供思いのいい王様なのだろうが正直やめてほしかった。


「しょうがない……なら、魔法学校まで行くしかないだろう……手掛かりはそれだけだ……」

「行くしかないって……魔法学校がどこにあるのか知っているの?」

「…知らない」


魔法学校の場所なんて知らない。どれだけ遠くても届けに行くしかないだろう。


「こことは別の大陸にあるアーリタって国にあるの……」

「アーリタ……それはどのくらい遠いんだ?」


「ここからおよそ12000km……3000里よ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る