墓場
長万部 三郎太
どれも墓場行きなんだが
あの世で流行っているトレーディング・カードゲームがあった。
その名を『人生ゲーム』という。
もちろん死んだ亡者は楽しめないため、主なプレイヤーは獄卒に限られている。
冥界では今宵も鬼たちが地獄のデッキを組み、熱いバトルを繰り広げていた。
「ここで“結婚”を墓場に入れ“独身”を召喚。お前の手札の“親”にダメージだ」
「そうきたか。ならば俺は“親”そのものを墓場に入れてターンエンドといこうか」
物騒な単語が飛び交うが、それぞれ手札の名を表している。
墓場とは不要な手札を埋葬する場所であり、入滅ポイントを貯めて新しい手札を召喚するという仕組みだ。
いよいよバトルも佳境、というところで見物をしていた鬼が口を開く。
「なぁ、結婚は墓場に入ると言うが、娑婆では実際どうなんだろうな」
「ここに堕ちてきた亡者たちは決まってそう言っているぞ」
「俺達には関係のない話だ。
そら、こっちは“無縁仏”を墓場に入れて“線香”をドロー」
ひとしきり遊び終えた鬼たちがカードを片付けていると、また別の鬼がやって来た。
「おおい、人生ゲームの拡張パックを買ってきたぞ。
今度は幸福のデッキを組んで戦うようだ」
地獄ではなく、幸福?
これまでの鬼たちとは無縁のジャンルであった。
「どれどれ、いったいどんな手札が増えるんだ?」
拡張パックの中から出てきた手札は彼氏、彼女、はたまた妻や旦那、子どもに孫……。さらにはペットに至るまで、実にさまざまな幸福が詰まっていた。
ひとまずやってみるかと、早速遊び始める2匹の鬼。
「幸福といっても、どうせ人生ゲームが始まればどれも墓場行きなんだが。
それっ、
“旦那”を墓場に入れて“相続”を召喚。お前の手札の“遺産”に大ダメージだぞ」
「まったく、人生ってのは散々だな……。
それじゃ俺は“自分”を墓場に入れてゲームセット!」
(すこし・ふしぎシリーズ『墓場』 おわり)
墓場 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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