第19話・こんなはずじゃなかった・・・

周囲の人たちの叫び声に由樹は我に返ったが、(終わりにしよう)と思い、血まれ状態のまま由樹は近くの建物…燃料が管理されている倉庫をこじ開けて、その中に入ったまま只々 何かを叫び続けていた。連絡を聞き飛んで来た警察官や数台のパトカー…救急車なども到着。

沢山のギャラリーたちがザワついていた、そのザワ付きに何事かと仕事帰りに通りかかった絆が、普段なら気にも留めないのに今回ばかりは、嫌な胸騒ぎもあり人混みの中に入っていった。

そこで、目に入ったのが由樹の姿だった。『え?…何で?…何があったの?…』と心の声が漏れていた。

立入禁止テープのギリギリまで行き由樹に声を荒げた【由樹くん、何をやっているの?何があったの?】その声に由樹は反応した、その反応に警察官のお偉いさんが絆に向かって『彼とはどういう関係ですか?』という問いに「母親です」と伝え立入禁止テープ内に入れてもらい、【彼をどうにか説得して欲しい】と頼まれた。

由樹は絆の問いに「貴方には関係ないです。僕だけの問題です。僕にもう関わらない方が良い」に伝えたが、絆は自分の墓場まで持って行くはずだった想いを由樹に話す…決意をした。


こんな言葉から始めた『そうはいかないわ、だってあなたは、私の子供だから…』由樹の顔が「え?」と濁った。

話を続けた…『あなたのお父さんと大学時代から付き合ってた、でも、あなた・・由樹がお腹の中にいる事が分かった時、身勝手で矛盾してるけど、考志との人生より由樹との人生を選択したの。考志は、真紀との結婚を選択したその頃、真紀が行っていた病院と同じ病院だった事を真紀が気付いて、私に言い寄ってきたの!私は断固として断ったわ!だって私にとって由樹は宝物だったからよ…でも、あの人達は、その時の私の弱点を突いて来たのよ!事業を始めたばかりと言う事もありお金も無い私に、【事業が安定するまで由樹くんは私たちが守ってあげとくわ、無期限で一分でも、一秒でも早く迎えに来てあげてね】って…実際、かなり苦しかった。

由樹に辛い思いだけはさせたく無かった。今 思えば、苦しくてもあの人達の言葉に乗ってはいけ無かったのよ。今更…言われてもよね…ごめんなさい。あの雨の日

見た瞬間、神様からの贈り物だと思った。分かったうえであなたに声を掛けた…でも、声を掛けながら彼女が妊娠してる事に気付いたの、一分でも早く暖かい所へと思ったのも本心よ!許してなんて今更言わないわ…だけど、今しようとしている事は一番雫ちゃんが望んで無いと思うの、そんな事をして欲しいなんて思って無いわよ。』と話した。

そんな言葉を聞きながら涙していた。

由樹も何処かで、何となく感じ取っていた…その答え合わせが出来た事に”ホッ”とした。

「雫が望んで無いかもしれないけど、俺の この思いは誰にも止められないんだよ…お母さん。ごめんなさい。お母さん…」と言いながら倉庫にあったガソリンを自分の頭から被った…そして、火を付けた。

その姿を見た絆は、『もう、由樹と離れない、だから…由樹、一緒に行こう』と優しい言い方で語りながら、由樹が掛けた容器の中に残っていたガソリンを自分にかけ、警官達を上手くかわし火だるまに成っている我が子…由樹をそっと抱きしめた。


・黒枝由樹…23歳。斉藤絆…43歳。・焼死自殺。


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