第41話:芽生える感情と鈍感な心
仲間たちの過剰なまでの世話焼きや、俺を巡る(らしい)諍いに、俺は辟易していた。面倒だ、鬱陶しい、一人にしてくれ、と何度思ったことか。
だが、奇妙なことに、本気で彼らを突き放すことができなくなっている自分にも気づいていた。
エリアとシルフィが、俺の飲むお茶の種類で「アステラルダ様はハーブがお好きですわ!」「いいえ、シンプルな緑茶よ!」と睨み合っているのを見て、思わず「……どっちでもいいから、早く淹れろ。喉が渇いた」と言ってしまった時。二人が「「はいっ!」」と顔を輝かせ、競い合うように、しかしどこか嬉しそうにお茶を淹れてくれた。その時の、ほんの少しだけ和らいだ空気は、悪くなかった。
カイが、毎日のように稽古を挑んできて、その度に俺にあしらわれ、それでも食らいついてくる姿を見ていると、つい「……そこの踏み込みが甘い。もっと腰を入れろ」などと、アドバイスをしてしまうことがあった。カイは「お、押忍! ありがとうございます、師匠!」と目を輝かせ、さらに熱心に稽古に励む。その真っ直ぐな向上心は、見ていて清々しいものがあった。
ゴルドーが買ってくる、俺の好みとは全く違う、武骨で実用性だけを考えたような贈り物(硬い干し肉、頑丈なだけの水筒、なぜか熊の毛皮など)。それを受け取るたびに「……いらん」と言いつつも、無下にはできず、結局部屋の隅に積み上がっていく。だが、彼なりに俺のことを考えてくれているのは伝わってくる。
ゼノンが、俺が街を歩くときに常に半歩後ろに控え、あらゆる方向からの危険を警戒してくれていること。その寡黙な忠誠心は、時に息苦しくもあるが、確かな安心感を与えてくれていた。彼が街の子供に懐かれ、戸惑いながらも頭を撫でてやっている姿を見た時は、少しだけ意外で、和んでしまった。
ルルナの、常識にとらわれない自由な発想と、尽きない探求心。彼女が持ってくる珍しい植物や、精霊に関する話は、俺にとっても興味深いものがあった(身体測定だけは断固拒否するが)。彼女の天真爛漫さは、この騒がしい集団の中の清涼剤のような役割を果たしているのかもしれない。
そして、ジン爺さん。彼の穏やかな佇まいと、時折見せる鋭い洞察力。彼が語る武術の心得や、人生訓のようなものは、俺が前世で失っていた、師との対話のような感覚を思い出させてくれた。
(……なんなんだ、俺は)
気づけば、俺は、この騒がしくて、面倒で、手のかかる仲間たちに、情のようなものを感じ始めているのかもしれない。
それは、前世の俺にはなかった感情だ。強さだけを追い求めていた俺には、理解できなかった感覚。
だが、彼らが俺に向ける、熱烈な好意――特に、エリアやシルフィ、カイが見せる、明らかに友情以上の感情――には、全く気づいていなかった。
俺にとって彼らは、「仲間」、あるいは「同行者」。それ以上でも、それ以下でもない。
俺が女性の身体になったからといって、恋愛感情など、理解できるはずもなかったのだ。
その究極の鈍感さが、彼らの想いをさらに掻き立てていることなど、俺は知る由もなかった。
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