第19話
「その通りだ。エリスを邪神様に捧げて更なる力を手に入れる。そして私が王になる」
「ふ、ふざけたことを」
「ふむ、皆ボロボロで余裕が無いか。ならば、今殺してもいい」
ドルイドの黒い触手が伸びて王に迫る。
「きゅきゅう! (白き叡智なる手!)」
黒い触手を白き叡智なる手で弾いた。
「ぐう! 聖獣か、ここまで動けるとは。エリス、来い! 父の役に立つのが何よりの喜びだろう! そうすればお前を認めてやる! 邪神様の妻になれる!」
こいつは何を言っている?
そんな事を言っても何の得にもならない!
「あ、あああああ」
エリスがガクリと地面に膝をついて震える。
そうか!
エリスの心を折って抵抗出来ないようにしているんだ。
エリスは魔獣との連戦で疲労した所で魔獣の思念を浴びてかなり弱っている。
そこから更に精神的なダメージを与える事でエリスを無力化して捕まえ、ここから逃げる気か!
ドルイド!
こいつは、エリスは自分の娘だぞ!
エリスの心なんて考えていない。
ドルイド、こいつはこの世界にいるべきじゃない。
いなくていい。
エリスが見ていない所で潰してやる!
「ふっふっふ、来い、エリスよ」
ドルイドの黒い触手がエリスに伸びた。
「きゅきゅう! (白き叡智なる手!)」
「ぐぼおおおおおおおおおおお!」
ドルイドを白き叡智なる手で鞭のように打ち据えた。
「お、俺はエリスの父、公爵だぞ!」
「きゅきゅう! (黙れクズが!)」
俺はエリスの前に立ちはだかった。
ラムザがふらつきながらもドルイドの腕を斬りつけた。
「ぎゃああああああああああ! ぐう! この、まだ、動けるのか!」
ドルイドは慌てて逃げ出した。
俺はラムザに乗った。
状態異常を回復させる。
「すぐに追おう!」
「きゅう! (行け! あいつは存在しちゃいけないんだ!)」
俺とラムザはドルイドを追いかけた。
ドルイドは逃げ足が速く王都を抜けて森に入る。
正直に言えばすぐに捕まえられた。
だが今のエリスにドルイドが苦しむ姿を見せなくはない。
「きゅきゅう! (白き叡智なる手!)」
ドルイドを拘束した。
「ぎゃああああああああ!」
白き叡智なる手で拘束されたら悪しき者はそれだけで嫌がる。
そしてこいつは力が弱い。
拘束されただけで苦しいはずだ。
ドルイドを消そうと考えていた。
でも、実際にその状況になると躊躇する。
ラムザが前に出た。
そして剣を抜いた。
「クエス、ごめん、魔獣でもモンスターでもない人をこうするのは嫌だよね?」
ラムザの目を見て何をするか分かった。
「や、やめろ! 私はエリスの父親だ! 公爵だ! 娘を悲しませる気か! やめろおお!!」
「……」
ラムザがドルイドの胸に剣を突き刺した。
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
絶叫と共にドルイドが絶命した。
「ごめん、でも、エリスを守りたいんだ」
そうか。
俺はエリスに嫌われたくないと思っていた。
でもラムザはエリスの為にこうした。
自分が悪者になってもエリスを助ける方を選んだんだ。
ラムザの父が死んだことは呪いだけでは無かった。
ラムザに悪を倒す覚悟も与えた。
優しいだけのラムザでは駄目だったんだ。
ラムザ、お前は凄いよ。
伝わらないだろうけど、言おう。
「きゅきゅう(ラムザ、お前は立派だ)
◇
事件が解決し王都に平穏が訪れた。
王城は大忙しだったようだ。
ドルイドと繋がりのある邪神教の洗い出し。
魔獣と邪神の捜索。
城の補修。
そしてラムザを邪神教の潜伏すると思われる北に送り込む話も出ているらしい。
エリスは何日か学園を休んだ。
そして登校の日、パーティーで集まる。
「エリス、大丈夫?」
ラムザが声をかける。
「ええ、平気よ。皆も心配しないで。お父様がもうこの世にいない事は分かっているわ」
「君のお父さんは、僕が……」
「いいのよ、それにほっとしているの。私、お父様に認められるために頑張ってきたわ。でも本当は私を道具のように考えていて、何をやっても無理だって分かっていたの。もう、お父様の為に頑張らなくていい。そう思える私は悪い子なのかもしれないわ」
エリスはそう言いながら目に涙を溜めた。
ノワールがエリスを抱きしめてプリシラがその背中を撫でる。
ラムザが立ち尽くす。
これで良かったんだ。
ドルイドをゲームで見て実際にこの世界で見て『こいつはもう駄目だ』と確信した。
邪神と契約した時点でもう駄目だ。
「きゅきゅう(ラムザ、気にするな。お前は悪くない)」
「ラムザ、気にしないでください。あなたは悪くありませんと言っています」
「うん、ありがとう。クエス」
「きゅきゅう(エリスは俺が慰めるから任せてくれ)」
「エリスは私が慰めます。任せてくださいと、え?」
俺はエリスの胸元に飛び込む。
そしてエリスの胸元に潜り込んで顔だけ出す。
「クエス、ありがとう」
エリスが俺の頭を撫でる。
「クエスはお利口さんで偉い偉いですわ」
ノワールも負けじと俺を撫でる。
「……」
ラムザ・エリス・ノワールからは優しい目が向けられた。
プリシラが俺を見る目が一層冷たくなった。
「クエスからは弱ったお嬢様の心に漬け込む腹黒さを感じます」
「きゅきゅう! (俺のモフモフ癒し効果凄いんだって!)」
「プリシラ、クエスの機嫌が悪くなったわ」
「あまりいじめるのはよくありませんわね」
「……」
プリシラの目がマックス状態で冷たくなった。
でもエリスが少し元気になって良かった。
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