第18話

 俺は白き叡智なる手でネズミの魔獣を拘束しつつラムザを回復し強化魔法をかける。


「凄まじい回復力でやんす。でもそれほどの、魔力、いつまでも持たないでやんすよ!」


 ラムザの前にいるネズミの魔獣が襲い掛かってきた。


「はあああああ!」


 ラムザは突き出された槍をいなして踏み込んだ。

 ネズミの魔獣を剣で5回斬りつけた。


 徐々に回復する傷とスタミナ、強化されたラムザ。

 少しの差でしかないのかもしれない。

 その少しの差がラムザの劣勢を覆していく。


「な! 力もスピードも、前より増しているでやん、す」


 ネズミの魔獣が倒れてドロップアイテムに変わった。


 ラムザはミノタウロスを嫌になるほど倒してレベルアップしている。

 そして今俺はラムザを回復しつつ攻撃力・防御力・速力アップの補助魔法をかけている。


「な、何という力、あれなら、勝てるやもしれん!」


 王が叫んだ。

 みんなの士気を上げたい目的もあるんだろう。

 魔獣は多くの場合兵士の心を折ってくる。

 それを見て楽しそうにしているクズ、それが魔獣だ。


「きゅきゅう!(そうやって囲みさえすれば勝てると思うな!)」


 ラムザが2体目、3体目とネズミの魔獣を倒していった。

 そしてラムザがレベルアップで更に力を増していく。


 ミノタウロスよりネズミの魔獣の方が経験値が高い。

 まだラムザのレベルは上がる。

 残り50体!


 ネズミの魔獣を倒すのは俺じゃない。

 ラムザだ。

 ラムザがすべて倒す。

 みんなを守れる強さを与えたい。

 それがクエスの想いだ。


「前だけ見ているわけにもいかないでやんすなあ!」

「前後左右同時に攻撃するでやんす!」


 白き叡智なる手を全方位に振ってなぎ倒すように転倒させた。


「チュウウウウウウウウウ!」


 転倒したネズミの魔獣にラムザが剣を突き刺して倒していく。

 更に迫って来るネズミの魔獣に魔法弾を撃ちこんで怯ませる。

 そして剣を突き立てて更にネズミの魔獣を倒していった。

 ラムザの力がレベルアップで増していく。


 俺は白き叡智なる手でネズミの魔獣を倒さないように転倒させ、拘束し、脚を引っ張って隙を作り続けた。

 白き叡智なる手、これは俺の力だ。

 何度もモンスターを戦って磨いてきた。


 ラムザはネズミの魔獣を倒し速度も、力も増していく。

 残り約45体!


「「こうなったらチュウチュウ列車を使うでやんす!」」


 チュウチュウ列車。

 縦一列に並んで突撃するネズミの魔獣が使う奥の手だ。


 俺はラムザから飛び降りた。

 そしてチュウチュウ列車の陣形を完成させつつあるネズミの魔獣に向かって飛んだ。


「きゅきゅう!(白き叡智なる手!)」


 ネズミの魔獣をボーリングピンのようにラムザに向けて弾き飛ばした。


「「チュウウウウウウウウウウ!」」

「きゅきゅう!(ただくっ付いているだけだと思うな!)」


 ラムザが転倒したネズミの魔獣に迫って剣を突き立てる。


「チュウウウウウウ!」

「チュウウウウウウウ!」

「チュウウウウウウウウ!」

「チュウウウウウウウウウ!」

「チュウウウウウウウウウウ!」


 ネズミの魔獣が絶叫をあげながらドロップアイテムに変わっていった。

 だが残りのネズミの魔獣は態勢を立て直した。

 残り35体!

 レベルアップでラムザの勢いが増していく。


「聖獣がいない今の内に囲んで倒すでやんす!」


 ラムザが包囲された。


「な、何という事だ! ラムザを守る光が消えて、まさか聖獣の魔力切れか!」


 王が言った。


 いや、ラムザならもう俺がいなくても大丈夫だ。


 魔法弾でネズミの魔獣を倒し繰り出された槍を左腕のガントレットで弾く。

 そして剣で斬りつけて倒す。

 

 ネズミの魔獣は数を減らし、ラムザはレベルアップで力を増していく。


「もう、あっしは残り10体しかいないでやんす!」

「逃げるでやんす!」


 残った10体が出口の門に殺到する。

 だがそこにはプリシラ・ノワール・兵士が待ち構えていた。


 そしてその後ろからラムザが迫る。

 ネズミの魔獣が数を減らしていくが最後の1体が包囲を突破した。


「きゅきゅう!(白き叡智なる手!)」


 ネズミの魔獣を拘束してラムザの元に放り投げた。


 ラムザが魔法弾だけでラスト1体を倒した。

 その瞬間に邪悪な思念が周囲に広がる。


「う、うあああああああああ!」

「お、おえええええええええ!」

「体が、震える」


 おぞましい邪悪な思念を浴びて兵士が膝をついてうずくまる。

 中には嘔吐する兵士もいる。

 ノワールやプリシラも膝をついている。


 そして王も座り込んだ。

 魔獣の体を滅ぼすとこうなる。

 俺は何も苦しくない、聖なる光のおかげか。

 それどころかネズミの魔獣が使っている魔法の知識が流れ込んでくる。

 俺はその思念を吸収した。


「きゅきゅう(あの魔法はこう使えばいいのか)」

 

 俺は新しい魔法を覚えた。


「ううううう、なん、と、これが魔獣の思念、か、なんとも、おぞましい」


 王が座ったまま震える声を出す。

 それでも座ったまま無理をして声を張り上げた。


「今回の戦い、皆ご苦労であった。特にラムザ、素晴らしい働きだ。だがそれにも増して聖獣の献身的な戦いは更に素晴らしいものであった。一見するとネズミの魔獣を倒していたのはラムザだ、だが、聖獣は自分でネズミの魔獣を倒す力がある、にもかかわらずまるでラムザに力を与えるかのように動いていた」


 兵士も同調する。


「は! そう言えば聖獣様はまるでネズミの魔獣を子供の手を捻るように転倒させていたような、おえ、魔獣の思念が、気持ち悪い」

「確かに、うお、立ち上がると、また具合が悪くなる」

「立つな、神話の魔獣を倒すと、本当にこうなるんだな」


 みんな具合が悪そうだな。

 でも、まだ、邪悪な気配を感じるんだよなあ。

 闇魔法ではなく


 魔獣ではないけど、それを弱くした気配。


「王よ、大丈夫ですか? 助けに参りました」

「貴様は、ドルイド・サクリ!」


 エリスの父だ。


「きゅきゅう! (ドルイドは魔獣の思念を受けて平気、つまり邪神か魔獣の眷属だ!)」

「はあ、はあ、ドルイドは魔獣の思念を受けても平気です! 邪神か魔獣の眷属ですと言っています!」


「なんと。ドルイド、いや、ドルイドだった者よ。正体を現せ」

「ち! 聖獣が、なんとも邪魔な存在だ。エリス、来い!」

「王命で、こ、ここを動けません」

「その通りだ」


「はあ、仕方がない」


 ドルイドの頭から角が生え、背中から2本の黒い触手が生えた。


「その背中の触手! 邪神テンタクルサタンの眷属になったか! ドルイド・サクリ!」

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