第2話 出会いと成長
ある日、詩乃は近所の公園で同級生の男の子、
奏太は、いつも一人で木陰に座って本を読んでいるような、少し変わった雰囲気の子だった。
最初、詩乃は彼に声をかけるのをためらった。
けれど、彼が読んでいた絵本に出てくる猫の絵がミケによく似ていることに気づき、勇気を出して話しかけてみた。
「あの……その猫の絵、うちのミケにそっくりなんです」
奏太は顔を上げ、少し驚いたように詩乃を見た。
そして、穏やかな笑顔で答えた。
「ああ、これ? 可愛い猫だよね。
君のぬいぐるみも、きっと可愛いんだろうな」
その日から、詩乃は時々、公園の木陰にいる奏太のところに立ち寄るようになっていた。
奏太は詩乃がミケを大切にしていることを不思議がらず、むしろ
「大切なものがあるって、良いことだね」と言ってくれた。
それは、詩乃にとって初めての経験だった。
ミケのことをからかわない。むしろ、受け入れてくれる人がいる。
奏太は、詩乃に色々なことを教えてくれた。
面白い本の話、空に浮かぶ雲の形、地面に咲く小さな花の名前。
彼と話していると、詩乃は学校での嫌なことや、家での小さな憂鬱を忘れることができた。
奏太との時間は詩乃にとって新しい世界の扉を開くようだった。
ある日、奏太は詩乃を秘密の場所に連れて行ってくれた。
それは、公園の奥にある小さな丘の上。
そこからは、町全体が一望できた。
「ここに来ると、なんだか色々なことが小さく見えるんだ」と奏太は言った。
詩乃はミケを抱きしめながら、初めて見る景色に息をのんだ。
奏太は詩乃に新しい遊びも教えてくれた。
木の実を使った工作、草笛の吹き方、石ころを使ったゲーム。
ミケをいつも抱きしめている詩乃に、奏太は無理にぬいぐるみを置いていくようにとは言わなかった。
ただ、「これも面白いよ」と、新しい体験をそっと差し出してくれた。
奏太と過ごすうちに、詩乃の中で少しずつ変化が起こり始めていた。
今まで、不安になるとすぐにミケに頼っていたけれど、奏太と一緒なら少し怖いことにも挑戦できるようになったのだ。
二人で探検ごっこをした時、いつもならすぐに帰りたくなっただろう暗い茂みも、奏太が一緒なら平気だった。
もちろん、ミケは今でも詩乃にとって大切な存在だ。
寝る時も、一人で心細い時も、ミケはいつもそばにいる。
けれど、奏太との出会いを通じて、詩乃はミケだけではない、新しい安心の場所を見つけ始めていた。
それは、友達との温かい繋がりであり、新しいことを知る喜びであり、そして、自分自身の小さな成長を実感する手応えだった。
「ねぇ、奏太」
帰り道、詩乃は奏太に話しかけた。
「私、前よりも少しだけ、色々なことが怖くなくなった気がする」
奏太は振り返り、にっこりと笑った。
「それは良かった。詩乃ちゃんは、きっともっと色々なことができるようになるよ」
その言葉は、春の風のように、詩乃の心に優しく吹き込んだ。
ミケの向こう側には、まだ知らないけれど、きっと素敵な世界が広がっている。
そんな予感が、詩乃の胸の中で静かに膨らみ始めていた。
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