プロローグ2
ある者は言った。時間を稼ぐ!早く逃げろ!と。
ある者は懇願した。命だけは奪わないでくれ!と。
ある者は諦観した。足掻いても無意味だ、と。
ある者は恐怖した。鬼という埒外の化け物に。
彼らが蹂躙される直前に取った行動は千差万別だった。しかし、彼らの辿る運命は皆同じだった。仲間を庇った者、命乞いをした者、抵抗しなかったもの、心を折られた者。その全てが鬼に捕縛され喰われた。
鬼にとって彼ら、つまり人間は食糧である。
人間よりも大幅に優れている身体能力を有し、知能は人間と同等で言語も話せる。言うまでもなく、人間の上位互換である。
武器を手に取り、応戦しようにもそれも叶わず、ただ一方的に蹂躙される。鬼たちは家屋を破壊し、人を家畜にするか喰う。弱者である人間にはこの残酷な運命すらも選ぶ権限などありはしない。
そんな廃れた世界にも絶望に抗い、希望を見出そうと尽力してきた者たちがいた。
各地で幾度となく鬼に襲われながらも生き延びて村を救い、英雄と称された名誉ある者たちである。
彼らは救ってきた民衆と共に結託し、安寧を乱す鬼どもを大戦争の果てに排除することに成功した。数多の犠牲を出しながらも、ようやく手にすることのできた平和に、何にも恐怖することのない穏やかな生活に、人々は歓喜した。
しかし、命を賭して得た平和も長く続くことはなかった。他でもない鬼たちの手によって。
英雄たちが倒していたのは鬼の中の底辺に過ぎなかったのである。鬼の中にも序列があり、人間たちを襲っていたのは最下位の一般鬼だったのだ。彼らの仕事は食糧の確保、つまり人間を家畜化し、序列上位の鬼に生きた人間を献上することだ。しかし、一般鬼が英雄たちによって極端に減らされてしまったため上位の鬼への食糧の献上が滞り、十分に行き渡らなくなってしまった。そのことに激怒した上位の鬼たちは手当たり次第に人間を襲い、腹を満たそうとしたのだ。
だが、鬼たちは知らなかった。人間たちが再び起こるかもしれない鬼の襲撃に備えて力をつけてきたことなど。
英雄たちが手に入れた平和の間に常人を遥かに超越する存在が現れ始めた。
それは力素と呼ばれるエネルギーを生成する能力のことだ。
このエネルギーは、人間たちの身体能力を大幅に上昇させることが可能で、栄養を摂取することで恒常的に生成ができる。個人差はあるが力素なしの人間と比べると身体能力は雲泥の差がある。
各々が家族を、恋人を、友人を、仲間を、同胞を。もう失いたくはないと失うわけにはいかないと無力を呪い、守るための力を欲した。その思いを胸に身を粉にしてきた。その結果、英雄たちを筆頭に常人を超越し、進化という形で顕著に現れたのだ。
少ない数とはいえ、常人を超越した人間たちは強かった。彼らを筆頭に戦闘技術を学んだ者たちで五人一組の小隊を組み、対鬼の陣形を考察し、犠牲を少なくするための作戦を練った。
しかし、ここまで入念に準備をしていても人間側が有利になることはなかった。幸運だったのは鬼たちが簡単に人間たちを蹂躙できると舐めきっていたことだ。一般鬼とは比べ物にならない上位の鬼たちの襲撃に苦戦を強いられたものの、なんとか撃退に成功したのだ。
侵略に失敗したことにより、戦力が大幅に衰退した鬼陣営は人間の進化を悟り、自分たちの戦力増強を求めることにした。
人間たちも今のままでは勝ち目がないと、さらなる力を求めた。
鬼と人間。それぞれの生存をかけた戦いはひとまず痛み分けという形で休止した。
人間は鬼の殲滅。
鬼は人間の家畜化。
互いに分かり合えることのできない両者の命運は絡み合い、混じり合い、徐々に膨れ上がっていく。そして数百年の時を経てそれが限界に達し、満を持したとき、一人の男と一体の化け物との戦いを皮切りに世界は激動の時代を迎えることになる。
人はそれを真時代と呼ぶ。
終末のアヴェンジャー おおい はると @yugo0508
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