第15話 水の刃、黒水の牙

桃源が放った純粋な水の刀は、光を帯びながら急速に黄金の鬼の使い魔へと迫った。

黒曜石の鱗に覆われた異形の鬼は、すばやい動きでそれを回避しようとしたが、桃源の意志を受けた水流は、まるで生き物のように敵を追い詰める。


「貴様のような下等な存在に、黄金の鬼様の御力を阻ませはしない!」


使い魔は、威勢のいい声で叫び、両手に握る黒い水の塊を投擲してきた。

それは、着弾した場所を即座に腐食させる危険な液体。

桃源は、迫り来る黒い水の雨を、自身の操る準髄な水の壁で防いだ。

激しい衝突音と共に、蒸気が立ち昇り、周囲の視界を部分的に遮る。


「犬彦!猿丸!今だ!」


桃源の指示を受け、犬彦と猿丸が左右から急速に使い魔へと襲い掛かった。

犬彦は鋭い牙を剥き出し、敵の鱗の隙間を狙い、猿丸は俊敏な動きで 敵の周囲を翻弄し、背後へと回り込もうとする。


「邪魔をするな、小虫どもが!」


使い魔は、襲い掛かる二匹を黒い水の鞭で薙ぎ払おうとする。

犬彦と猿丸は、 素早い動きでそれを回避し、敵の隙を突いて攻撃を仕掛ける。

犬彦の鋭い牙が、 敵の固い鱗に僅かに食い込み、猿丸の爪が、敵の脚に浅い傷をつけた。


「ぐ……忌々しい!」


使い魔は、怒りの目を金色に光らせ、周囲の水を黒に染め始めた。

黒い水は、先ほどより速く使い魔の周囲に渦巻き、それは鋭い牙のような形状へと変化し、桃源たちを襲い掛かる。


「今度は、黒い水の牙か!」


桃源は、たくさんの水を操り、自身の周囲に大きな水の盾を即座に形成した。

黒い水の牙が盾に激突するたびに、 激しく腐食音が響き渡る。

大きな水の盾は、敵の邪悪な力に耐えながらも、徐々にその光を失っていく。


「このままでは、水の盾がもたない!」


桃源は、険しい表情で呟いた。

使い魔の黒い水の腐食力は想像以上だった。


「ならば!」


桃源は、目を閉じ集中した。

自身の周囲の純粋な水を先ほどよりも高密度に凝縮させ、鋭い刃の形状へと変化させた。

それは、光を帯びた透明な水の剣だった。


「この水の刃で、貴様の邪悪な力を断ち切ってくれる!」


桃源は、 強い決意を声に込め、光を帯びた透明な水の刃を手にすると、 敵へと飛びかかった。

使い魔は、驚愕した表情で光を帯びた水の刃を見つめる。

その純粋な輝きは、邪悪な力を打ち消す光のように、荘厳な輝きを放っていた。


「何だと……貴様のような人間に、そのような力が……!」


使い魔は、先ほどよりも慌てた様子で、黒い水の牙をたくさん展開し、桃源の急速な接近を阻もうとする。

しかし、桃源の操る水の刃は、 ヒラリと敵の攻撃をかわし、 使い魔の固い鱗の隙間を正確に捉える。


水の刃が、敵の鱗を切り裂き、鮮やかな水色の光を放ちながら、敵の体内に深く突き刺さった。


「ぐああああ!」


使い魔は、苦悶の叫び声を上げ、全身を黒い水で必死に覆い始めた。

しかし、水の刃が敵の邪悪な力の源を断ち切ったのか、敵の体からよりも急速に力が失われていくのが感じられた。


やがて、使い魔の体は黒い水の塊となって崩れ落ち、蒸発するように静かに消滅した。


「やったか……!」


桃源は、僅かに息を切らせながら、水の刃から力を解き放った。

神聖な水の力は、黄金の鬼の使い魔を打ち破るほどの力を持っていた。

しかし、これは過酷な戦いの、ほんの始まりに過ぎない。

黄金の鬼は、きっとこれよりもはるかに強い力を持っているだろう。

桃源は、強力な敵との激しい戦いを前に、決意を新たにするのだった。

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