第14話 黄金の影、迫りくる脅威

体中に満ち溢れる 神聖な水の力。

桃源は、物理的な力とは全く異なる、 純粋で穏やかな、しかし底知れないエネルギーの流れを感じながら、深く息を吐き出した。

それは、まるで自身の体の中に、温かく透明な海が宿ったような感覚だった。


「これが……神聖な水の力……」


桃源は、驚きと静かな喜びに目を輝かせた。

犬彦と猿丸も、不思議な空気の変化を感じ取ったのか、心配そうに周囲を見回しながらも、どこか安心したような表情を浮かべている。


その時、再び、水の底に響くような荘厳な声が、桃源の脳裏に語りかけた。


『 神聖な力を得た者よ……その力は、善行のために使われることを願う……今、汝は、この都を覆う金の影に立ち向かう力を得た……』


声の主は、前と変わらず姿を見せない。

しかし、その言葉には、 期待とわずかな不安が込められているように感じられた。


桃源は、荘厳な声にゆっくりと頷き、体の中に宿る神聖な水の力を意識的にコントロールしようと試みた。

最初は不可解だったその力は、彼の強い意志に応えるように、徐々にその姿を現し始めた。

指先から透明な水の粒子が輝き始め、集中すると、それは意志を持つかのように、自由に形を変えていく。


「こいつは……すごい力だ……!」


桃源は、驚きを隠せずに呟いた。

まるで、自身の意志がそのまま水となるようだ。

この力があれば、黄金の鬼の強大な魔力にも、きっと対抗できるだろう。


「ワン!」


犬彦が、鋭い吠え声で桃源に何かを知らせようとしている。

その視線の先には、前には見られなかった、暗い影が水の底に揺らめいていた。


「あれは……?」


桃源は、犬彦が示す方向を睨みつけるように警戒心を持って見つめた。

暗い影は、徐々にその姿を現し始めた。

それは、 光の民の末裔とは異なり、凶悪で攻撃的なな気配を放つ存在だった。


「……あれが、黄金の鬼の使い魔か何かか?」


猿丸は、暗い影の動きを睨みつけながら、小さく唸った。


暗い影は、ゆっくりと桃源たちに近づき、その姿を完全に現した。

それは、鬼ヶ島にいた鬼たちよりもさらに異形な姿だった。

体は黒曜石のように硬質な鱗で覆われ、 目は燃えているような 金色に 揺らいでいる。

そして、その手には、黒い水の塊が握られていた。


「人間ども……黄金の鬼様の偉大な力を知るがいい!」


異形の生き物は、低い声で叫び、手に持った黒い水のような塊を桃源たちに向かって投げつけた。


「よけろ!」


桃源は、鋭い勘でその危険を察知し、犬彦と猿丸に回避するよう指示した。

黒い水の塊が地面に激突すると、激しい腐食音と共に、周囲の石床が溶け出した。


「あれが、黄金の鬼の力……水を操るだけでなく、腐食させる力まで持っているとは……!」


桃源は、険しい表情で呟いた。

強力な魔力を持つという黄金の鬼の力は、想像以上に危険な存在のようだ。


「わしらも、ただ避け続けるわけにはいかん!犬彦、猿丸、援護を頼む!」


桃源は、 体の中に宿る神聖な水の力を解放した。

彼の周囲に透明な水が輝き始め、それは意志を持つかのように形を変え、 敵に向かって水の刀となって襲い掛かった。


「何だと……この純粋な水の力は……!」


異形の生き物は、驚愕した表情で迫り来る純粋な水の刀を見つめた。

黄金の鬼が操る暗い水とは全く異なる、光を帯びた純粋な水の力。

それは、敵の邪悪な力を打ち消す光のように、力強く敵へと迫っていく。


こうして、桃源は、神聖な水の力を手に入れ間もなくして戦いを迎えることになった。

金の影を操る敵との激しい攻防の中で、彼はその新たな力を試し、そして、迫り来る黄金の鬼との熾烈な戦いに備えるのだった。

水の都を、そして故郷を守るために――。

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