第04話 魔物G
マルゥはアリスを抱きかかえて荒野をダッシュしていた。
マルゥは
なぜおんぶではなくお姫様抱っこなのか。それは——
「飛んで!」
マルゥは言われるままに跳躍した。眼下にライオン型の魔物を捉えたが、マルゥはアリスを落とさないことだけに注力する。アリスは片手を離して思い切り下に向かって振った。
——バシュッ。
鋭い風がライオンの鬣と胴体を真っ二つに分けた。
着地をしてそのまま走り去る。マルゥは仕留めたかどうかも見ない。アリスはしばらくライオン型の魔物を見ていたがそれからほどなくして前を向いた。
マルゥが抱きかかえていれば、アリスは魔法に集中できる。特に両手を離してもマルゥが支えられるこの抱き方なら。
また、マルゥが足の役割を担うことで大幅に距離を稼ぐだけでなく、魔法をより円滑に出すための助けにもなっている。魔法を使えばその場の
この作戦により、アリスは魔力と
「なぜ魔物が出るのかしら」
マルゥの胸で丸まったアリスが世間話でもするように言った。近くに魔物の気配が無くなったのだろう。
「アタシが眠る前にはいなかったわけだから、人類が継承されてからなのよね。魔物が生まれたのは。いつから居るのかしら」
「俺が生まれたころにはもう居たな」
「そう言えばマルゥって何歳なの?」
「15歳だ」
「へえ、じゃあアタシより年下ね。アタシ、17歳だもの。お姉さんよ」
えへんと声に出して言うアリスはとてもお姉さんには見えなかった。
「いやそこにコールドスリープの期間足したら97歳だろ。おばあさんだぜ」
ニヤッと笑うとアリスの眉間に皺が寄った。
「いい度胸してるじゃない?」
ピトッとやわらかく白い掌がマルゥの首に添えられた。至近距離でさっきの風魔法が炸裂したら首が飛ぶだろう。
「すみませんでした」
マルゥはまっすぐ前を見つめながら謝った。アリスの掌が離れる。
「で、魔物が生まれたいきさつ、知ってるの?」
「簡単に言うと、旧人類がいなくなったことで生態系が崩れたことによるんだと」
「人間も生態系に絡んでいたのね」
「そりゃそうだ。ちょくちょく手を出してたしな。絶滅しかけの種を守ったり、増えた動物を殺したり、外来種を持ち込んで増やしたり。なにもかも人間本位だったし、寧ろ生態系を乱していたわけだが、だからこそ生態系と絡んでないってことはないだろうぜ。
対して新人類は太陽光と地球の放射線があれば生きて行けるから、喰うために動物や植物を育てたりすることも殺たりすることはなくなった。積極的に自然と関わらなくなったんだな。それで生態系が崩れた」
「乱さなくなったら崩れたってなんだか皮肉ね」
「まあな。そんで、特に旧人類が忌み嫌っていた生物……例えばゴキブリや作物を荒らす害虫なんかが一気に増えた。普通は増え過ぎたら食べ物が無くなるからその生物も死滅していくんだが、その過程で変異体が生まれたりして環境に対応してきた。ようは進化だ。ゴキブリの中には寄生虫化するやつもいて、それが小動物に入ってさらに肉食動物に食われ、どんどんと媒介を変えては進化を続け、果ては寄生した動物を変異させるまでに至った。その変異した動物を魔物と呼ぶようになったわけだ。その魔物から生まれた魔物にも卵が植え付けられていて、寄生の呪縛からは逃れられなくなっているんだとよ」
「え」
ずっと話を聞いていたアリスの表情が凍った。
「待って。え? あれって、
「まあ、今の形態をそう呼んでいいのかどうかはわからんが、元を辿ればそうだな」
アリスは両手で口を押え、一瞬吐きそうな素振りを見せてから、頭をぶんぶんと振る。
「駆逐してやる……」
サファイアブルーの瞳が暗く燃えていた。
「なんで旧人類ってゴキブリを目の敵に——」
「
「……
「決まっているでしょう」
アリスはカッと目を見開く。
「気持ち悪いからよ!」
時代が変わっても、切っても切れない縁と言うものがあるのだなとマルゥは感心した。
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