第37話 "One for all,All for one"

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 いつまで脇役でいるの?

 頑張らないのは自分が傷付きたくないからでしょ?


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 いつだったか。

 

 タニアは、少し昔のことを思い出していた。

 まだ《イルシオ村》にいた頃、レヴィと二人で魔物退治に出かけたことがあった。


 二人の師匠であるモルガンに言われ、課された仕事であり、二人にとっては修行の成果を試せる絶好の機会のはずだった。


 しかし、実際は上手くいかず、レヴィもタニアも怪我をし、途中で帰ることを余儀なくされてしまっていた。

 その時、普段は先頭を走ってくれるレヴィが、突然タニアに先導するよう頼んできたのだ。



「ごめんタニア……私じゃ多分失敗する。だからタニアが私を使って」



 確かに、タニアにはいくつか打開策はあった。

 普段から競い合っている二人だけれど、いざという時は迷いなく信じ合える関係だからこそ、レヴィはタニアに全てを委ねることができるのだろう。


 タニアもまた、レヴィであれば自分の言葉を疑わず動いてくれることを知っている。

 

 結局、二人は村に帰ることができたけれど、タニアの内心は穏やかではなかった。

 

 レヴィが自分の言葉通りに動くということは、レヴィの命はタニアが握っているということになる。


 その事実を重く理解したタニアは、その日から、さらに慎重に、より深く思考する癖をつけたのだ。





 タニアは、ゆっくりと深呼吸をして、目の前にいる二人を見る。

 レヴィは、何の心配もしていないのか余裕のある表情をしている。

 もう一人、ギルフテッドは若干の不安を拭いきれないのか怯えた表情ではあるけれど、彼女を必要としてくれたレヴィとタニアに応えたいのだろう、戦う意志は固まっているようだった。



「じゃあ、まずはこの牢から出よう。レヴィ、燃やせる?」

「さぁ、でもやってみるよ」



 レヴィは左手に魔力を込め、炎の魔力で神樹で造られた牢に触れる。



「あ、いけるかも」



 レヴィの言葉通り、牢の格子は簡単に燃えてしまった。

 当然、三人の頭に懸念はよぎるけれど、それを話し合う時間はない。


 エルフ族の特性、木々を通して情報を得ることができるということを考えると、レヴィが魔法を使った時点で、彼女たちの脱走は知られているはずである。


 

「レヴィはいつでも戦えるようにしてて。ギルフテッドさん、この中の構造は分かりますか?」

「……すまない、ここは定期的に中の構造が変わるということ以外は知らない」

「分かりました。ちなみに、ギルフテッドさんは植物から情報を集めることはできるんですよね?」

「あぁ、それは可能だよ。でも、この鳥籠の中は上手く潜れそうにない。不気味な魔力が阻害してるみたい」



 三人は闇雲に移動しながら、それぞれにできることを試していく。


 タニアは空っぽの牢が並ぶ通路を走りながら、この状況を冷静に分析する。


 牢が空なのはまだいい。

 エルフ族が閉鎖的なのは有名な話であり、この森に辿り着くことさえ困難なのだ。

 牢に捕らえる対象がいないのはわかる。


 しかし、例えそれが事実だったとして、今は状態のはずなのだ。

 レヴィとタニア、そしてギルフテッド。


 監視の一人も付けない理由は?

 これだけの牢が空いているのに、三人をまとめて同じ牢に入れた理由は?


 そして、タニアの頭から離れない疑問。

 三人がここに入ることになった直接的な要因であるノルスケイルの言葉。



「あの世話焼きが何を期待しているのか……まあいい。貴様らがこれから何を為すのか、もう俺には関係のないことだな。精々悪あがきをして見せろ、でなければが報われん。器の小僧のことは心配するな」



 何を言っているのか、三人にはわからなかった。

 ただ、カエルムが既にエルフたちに捕まっている可能性があることと、エルフの中に協力者がいる可能性があることはわかった。


 どちらも確証はない。

 それでも、情報であることには違いない。


 だからこそ、タニアはこの瞬間も、彼が口にした言葉を何度も反芻していた。


 明確な答えには辿り着かずとも、微かな糸口くらいは掴めそうである。

 その可能性を、タニアは無視しない。



「レヴィ、このまま延々と走ってても埒が明かないからさ……少しズルしよっか」

「ははっ、いいねぇ! 何をしたらいい?」

「とりあえず、壁と天井、それと床に一つずつ私たちが通れるくらいの穴を開けてくれる?」

「あいよ、任されたっ! ふぅ……【顎門】」



 レヴィの高密度の魔力を纏った拳が、壁や天井、そして床を破壊していく。



「……まあ、こうなるでしょうね」

「生きてるみたいだな、これ」

「……」



 三人の目の前で、レヴィによって破壊されたはずの箇所がみるみるうちに修復されていく。

 


「こういうのって、エルフは誰でもできるもんなの?」



 ふとした疑問を、レヴィはギルフテッドに投げかけてみる。

 ギルフテッドは、しばらく考え込んだ後、二人の方に向き直り質問に答えた。



「誰でもはできない、はず。確かに植物を操るのはエルフの特権だけど、ここまで強力で広範囲の魔法を扱えるのは、結構限られてる」



 レヴィもタニアも、その者に心当たりなどあるわけもなく、この状況を作り出せる者がいるということがわかっただけだった。

 


「……そもそも、今ここが地上なのか地下なのかもわからない。私は確かにこの森で育てられてきたけれど、鳥籠という施設がどこにあるのかを知らない。策を講じたところで、希望は薄いんだぞ?」



 ギルフテッドが嘘を言っているとは思えない。

 この状況で、タニアたちに嘘をつく意味がないからだ。


 タニアもそのことはわかっている。

 だからこそ、舵を取る方向を間違えることはできない。


 か。



「タニア、迷ってんなら一個いいか?」

「ん?」

「道に迷った時は?」

「……あ。ふふっそうね。じゃあ!」



 レヴィとタニアは笑い合い、天井を見つめ、同時に魔力を解放する。

 先ほど、レヴィが周囲を殴った時、わずかに壁の向こう側が見えていた。


 それは天井も同じで、上の階が存在しているということを意味する。

 


「ここは私がレヴィに合わせるから、好きにやって」

「おう、思いっきり行くぞ!」



 二人は息を合わせて魔法を放つ。



「いけぇぇぇ! 【陽断】っ!」

「……【氷穿ひせん】!」



 炎が焼き切り、氷が貫く。


 二人はすぐにギルフテッドの方を振り返り、彼女もまた頷いて応える。

 三人は穴を抜け、一つ二つと階層を上がっていく。


 階層を移れど、看守の姿は見えない。

 この『鳥籠』の中に、のような静けさ。


 違和感は募っていき、不安も懸念も濃くなっていく。


 しかし、戻ることはできない。

 レヴィもタニアも、もう前に進むしかないのだ。


 そして、同時に『鳥籠』の入り口に、彼女が辿り着く。

 


「はぁ……はぁ、この中にあの子たちが……私だけで助けられるかしら……いや、助けるしかない。でも、どうしてわざわざここを選んだのかしら?」



 フリージアは、そのまま『鳥籠』の中へ足を踏み入れる。

 澱んだ昏い空気が彼女を包む。


 しかし、彼女はすぐに違和感に気が付く。



「……どういうこと? どうしてあいつらがいないの?」



 フリージアが言っているのは、ここを管轄する看守たちのことだろう。

 彼らは残忍で捕虜が生きてさえいれば問題ないという倫理観しか持ち合わせておらず、様々な手を使ってその精神を蝕んでいく。


 彼らはエルフ族の中でも特に他種族に対しての恨みが強い者たちである。



「私をここに誘い込んだと思ったけど、もしかしたら……」



 フリージアは施設の中を上に向かって駆けていく。

 そこには管理室があり、『鳥籠』の内側と外側の結界を操作する魔水晶が設置されている。


 彼女の狙いはそこだった。


 しかし、彼女の狙いは思わぬ形で達成されてしまう。



「嘘……でしょ?」



 『鳥籠』の管理室は十五人のエルフが常駐しており、魔法による厳戒態勢が敷かれていたはずだった。

 そして、フリージアが目にしたものは、彼女の想像を絶するものだった。



「……全員死んでる?」



 十五人、いや二十人近くのエルフが、その管理室で殺されていた。

 複数の魔法を身に受けたのか、どの死体も無惨な姿になっている。


 それはエルフの森の歴史を遡って見ても例を見ない程の緊急事態である。


 しかし、対照的に『鳥籠』内は静かで、落ち着いている。

 

 フリージアは管理室の魔水晶に魔力を通し、『鳥籠』内の状況を即座に把握していく。


 そこでわかったことは、フリージアを戦慄させる。

 『鳥籠』内にいたはずの百人近くのエルフと数十人の捕虜たちのが最下層に収納されている。

 そして、現在を示すのは四つ。

 フリージア自身と、地下から凄まじい勢いで駆け上がってくる三人。



「これがあの子たち? もう一人は……ギルフテッドだったかしら? 実験の被害者よね……しかも確か私の……いや、今は合流を優先ね。ここを出た後のことも考えておかなくちゃだしね」



 フリージアは、足元に転がっている同胞たちを一瞥し、すぐさまレヴィやタニアたちがいる階層へと向かった。


 足取りは重い。

 

 何かに誘導されているような不気味な感覚が彼女を覆う。


 

 彼女たちは、直に合流するだろう。

 その時、エルフの森の様子は少し変わっていることだろう。


 レヴィが、タニアが、そしてフリージアやギルフテッドが何を目撃するのか。

 


100

 視点はエルフの森から少し離れた位置に移動する。


 《トリアル大森林》の北側、大きな川が流れる地区にて。



 複数の人種が入り混じった集団が一つ。

 彼らは混成傭兵団【壊血かいけつともしび】と名乗り、《ゼノーテ大陸》の南西部を中心に活動している。


 表向きの活動は、ギルドを仲介して魔物の討伐や行方不明者の捜索などを請け負っている。

 


「おい、エル! 待ち合わせ場所はここで合ってんのか? ったくあねさんも適当すぎんぜ」

「マル……落ち着け。まだ約束の時刻ではない。それにあねさんは約束を違えるような方ではないだろう」



 エルと呼ばれた男とマルと呼ばれた男。

 エルフ族に似た外見でありながら、その皮膚は黒く染まっている。

 いわゆるダークエルフという種族である。


 傭兵団にしては整った格好をしており、どこかの国の軍服と言われても信じてしまいそうである。

 弟のマルフレートが団長を務め、兄のエルブレヒトが副団長として支える。

 

 彼らは外見こそ似ても似つかないけれど、双子であり、である。



 ここで、少しだけ彼らについて語ろう。


 

 そして、エルフ族にとって双子というのは凶兆を示すものであり、迫害の対象となることが多い。

 ましてや、過激な思想を持つダンの治世の下では、希望など何もなかった。


 エルフ族の里の中で生まれた彼らは、最初は普通のエルフだった。

 双子であることを除けば、取り立てて特異なことはなかった。


 しかし、彼らの運命が歪み始めたのは、彼らの母がダークエルフへと堕ちてしまったことがきっかけとなる。

 ダークエルフとは、エルフ族が後天的に闇に落ちることで誕生すると言われており、絶望や嫉妬、憎悪を糧に成るそうだ。


 彼らの母は、優しく美しい人だった。

 誰にでも笑いかけ、いつだって太陽のように明るい性格だった。


 彼女の顔を曇らせたのは、里長であるダンだった。


 双子が生まれた瞬間から、彼ら一族は厳しい監視下に置かれ、里長であるダンが呼べば、何を差し置いても、すぐに言われたものを献上しに行かなければならなかった。


 食糧や衣服。

 時には家宝としていた弓も。


 ダンは彼らの母から、全てを奪っていった。


 時間も希望も、尊厳も。


 彼女の心が壊れるのに、時間はそうかからなかった。


 彼らは、自分たちが双子であることがことを理解していた。

 だからこそ、常に母を案じ、常にそばにいるようにしていた。


 それが母にとって、呪いのように心を蝕んでいるとは知らぬまま。


 ある日、彼らが用事を済ませ家に帰ると、母は堕ちていた。

 彼らにとっては、突然のことで気が動転したことだろうけれど、母はもう彼らのことさえ認識できていないようだった。

 手当たり次第に暴れ、警備を担当するエルフたちが到着するまで、彼らの母はひたすらに、彼女の足元で既に息を引き取っている男の腹に、刃物を何度も刺し続けていた。

 

 その男は、彼らにとっては父親にあたる者だった。

 

 


 母が軍に連れて行かれた後、しばらく時間が経った頃。

 里長のダンから、恐ろしい宣言が発せられる。


 内容は、この森に潜んでいる不吉を一掃せよ、というものである。


 何人のエルフが殺されただろう。

 老若男女関係なく、ダンは粛清した。


 生きたまま磔にし、少しずつ最期の瞬間まで苦しむように。

 

 当然、エルブレヒトとマルフレートもその粛清の対象だった。

 しかし、彼らには味方がいた。


 一人一人に力はなくとも、彼らは二人を逃がそうと命をかけてくれた。

 それは、母が遺してくれた優しさだったのかもしれない。


 彼らの母と縁がある者は、誰一人として彼らの情報を売らなかった。


 隣で、昨日まで共に笑い合っていた友が火に炙られようと。

 目の前で、その友の肉片を食わされている我が子を見せられようと。



 だから、二人は今も生きている。

 彼らは、母がどうなったのかを知らない。


 彼らの皮膚が、いつから黒く濁ったのか。

 彼ら自身も、わからないことだらけである。


 それでも、あの日のことを忘れたことなど一度もない。

 

「ここまで来たんだな……俺たち」

「どうした? ここまで来て怖気付いたか?」

「うるせぇよ……エルは怖くねえのかよ」

「怖いさ。今でもあの日のことは鮮明に覚えているんだ。それに、ついてきてくれた者たちもいる。俺たちが引き腰では格好がつかんだろう」



 エルブレヒトとマルフレートは共に後ろを振り返る。

 彼らは、二人が森を出てから出会った者たちで、この森には何の縁もゆかりもない。

 それでも、団長と副団長のためならとここまでついてきてくれているのだ。


 二人は再び、森の奥へ視線を戻す。

 誰かが来たようだ。



「……随分と大所帯だね。ま、うちとしては助かるんだけどさ」

「姐さん! お久しぶりっす!」

「我々にこのような機会を与えてくださりありがとうございます」



 その場に現れたのは、ルルーシュだった。

 気だるそうに歩いて来て、二人の前でこの後の段取りを共有する。



「うちの魔法で、結界の目の前までは隠してあげる。結界は自分でどうにかできるよね? ん、ならいい。それと、うちとあんたらはここから先は無関係だから。状況次第ではうちの魔法で死ぬかもしれないけど、恨んでいいから」

「はははっ! 何言ってんだ姐さんっ! 俺もエルも覚悟は決まってますぜ。俺らはどう足掻いても里長には届かねえ。でも一矢報いることができんなら、それでいい。ただ、心残りがあるとすりゃ……」

「後ろの子たち? ほんと、いろんな子たちがいるね……初めて会った時はまだ数人しかいなかったのに」

「我々もただ時間を浪費していたわけではないのですよ。傭兵団を結成してあらゆる国に潜り、情報を集め、この日のために準備して来ましたから」

「そっか……後悔のないようにね」



 ルルーシュは踵を返し、彼らを先導するように森の中を歩いていく。

 存在を隠す魔法は、既にかけた。

 彼らに対し、ルルーシュができることはもうない。


 ルルーシュにはわかっている。

 彼らがこれから向かう場所は、死地であると。


 それでもエルブレヒトとマルフレートは、その足を止めることはないのだろう。

 

 復讐のため、一族の復権のため。

 その目的は、彼女が想像しているよりも複雑かもしれない。

 しかし、もうそれは関係ない。


 彼らは、命を懸けて戦うだろう。

 ルルーシュが何を言おうと、もう止められない。


 もとより、止めるつもりもないだろうけれど。



「お前らぁ! 気合い入れてくぞぉ!」



 マルフレートの号令で、団員たちの士気は最高潮に上がる。

 武器を構え、魔力を解放し、いつでも戦えると言った様子だ。



「じゃ、うちは先に向こうに戻るから……」

「はい! 姐さん!」

「……ん?」

「お、お互い武運を!」

「ん、ありがと。そっちも頑張って」



 傭兵団の皆と別れた後、ルルーシュは結界内に設置した転移門を通り、移動した。

 


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……タニアたちのことも気になるけど、うちは今のうちに仕込みを終わらせないとね……はぁ、面倒だなぁ」



 再び、彼女は姿を消した。

 暗躍する彼女の目的は、まだ不透明な部分も多い。


 彼女が消えた直後、森に張られた結界に穴が開けられた。

 エルフ族の全てを飲み込む戦いがついに始まる。



101

 視点は再びレヴィたちに戻る。

 三人はひたすら上を目指していたわけだけれど、ようやく成果が見えた。



「……やっと見つけたわ。三人とも、ここから出してあげる」



 レヴィたちの前には、翡翠色の瞳に金色の髪、そして大人びた雰囲気が彼女の美しさをより一層際立たせている。


 レヴィたちは、彼女がフリージアだということを知らない。

 しかし、レヴィだけはその竜の瞳で見て、その本質に気が付いていた。



「ちょ……いきなりそんなことを言われて信じれるとでも? レヴィ、どうする?」

「ん? いいんじゃねえか? このヒトは信じてもいいと思うぜ」

「え?」

「そうだよね? チェルミー」



 レヴィはここにいるはずのない者の名前を呼んだ。

 正確には、間違っているのだけれど、フリージアにとってレヴィがそこに気がつくということは想定していなかった。


 動揺を隠すので精一杯だったのか、想像以上に嬉しかったのか。


 フリージアは、思わず笑ってしまった。

 その表情は、どこかチェルミーの面影を残しており、レヴィとタニアには馴染みのあるものに見えたのだ。



「本当にチェルミーなの?」



 タニアが、遠慮がちに尋ねる。



「チェルミーと……私を見てそう呼んでくれるのね」



 レヴィは一歩、フリージアに歩み寄る。

 いつの日か、彼女たちが交わした会話の時と同じように。



「私さ、なんか魔力以外にも見えるようになっちゃってさ。わかるんだよね……あんたの中にチェルミーの魂がある。それが何を意味してんのかはわかんねえけどさ、チェルミーと同じで優しい感じがする」

「……ふふっ、ありがとう。私はフリージア、チェルミーは確かに私の中にいるわ。今は眠っているけどね。だから、私のことはフリージアと呼んでくれると嬉しいわ」



 フリージアは、レヴィたちの後ろに立つギルフテッドに目をやる。



「そっちの子は、ギルフテッドね? あなたのことは知ってるわ、あなたはどうしたい?」



 視線がギルフテッドに集まる。

 ギルフテッドは気まずそうにしながらも、レヴィの服の裾を掴み、口を開いた。



「わ、私はレヴィたちと行きたい。レヴィは私に死んで欲しくないって言ってくれたから」

「そう……じゃあここを出たら頑張りなさい。迷っちゃ駄目よ」

「……わかった」



 四人が合流すると同時、エルフの森全体に警報が鳴り響いた。

 それは、結界内に侵入者が現れたことを報せるものであり、それが鳴ればこの森にいる全ての部隊が戦闘態勢をとることになっている。



「来たわね……行くわよ。ここを出たら、いつ襲われてもおかしくない……常に気を抜かないようにね」



 フリージアを先頭に、四人は『鳥籠』を出る。

 そこで四人が見たものは、無数の木人形の軍隊だった。

 それらに顔があるわけではないけれど、数えきれない人形たちが一斉にこちらを向いたことがわかる。



「えっと、フリージアさん? これ、まさかとは思うけど……襲ってこないですよね?」

「何言ってんだよ、タニア。私らだけならともかく、こっちにはギルフテッドとフリージアがいるんだからさ」



 フリージアとギルフテッドだけが、この状況に戦慄していた。



「残念だけど、私とその子がいても関係ないわね……」



 その言葉が合図だったかのように、人形たちが動き出した。


 四人は即座に反応し、それぞれ戦闘に入るけれど、四人は同時に最悪なことに気が付いてしまう。

 レヴィたちが訓練場で相手していたものとは比べ物にならない強度のそれらは、魔法を操り、倒せど倒せど再び立ち上がってくるのだ。



「これは、ちょっとヤバそうだな……私の炎で燃やしたやつは動かねえけど、それ以外の魔力じゃ復活してきそうだな……タニア、ここは別行動といこうぜ。カエルムも探さなきゃいけないし、ルルーシュさんもだろ? ここで足止めされんのは私一人でいいよ」

「はぁ? 何言ってんのよ? ここにどれだけいると思ってるの? それにここに残ったとして、どうやって追いついてくるつもり? この森のことわかんないのに!」



 珍しく、タニアの声が荒ぶる。

 しかし、それを遮ったのはギルフテッドだった。



「レヴィが残るなら私も残る。私がいれば、合流できる可能性……上がるでしょ?」

「いや……でも……」



 口籠もってしまうタニアを見て、レヴィが追い打ちをかける。



「タニア……大丈夫だよ。私を信じてよ」



 真っ直ぐとした目。

 タニアが断れない、あの目だ。



「約束して……合流したら一発殴らせなさいよ?」

「おー、そりゃ気合い入れていかねえとだ……へへっ。フリージア、タニアのこと頼んでいい?」



 タニアとフリージアは目を合わせ、レヴィに頷いて見せる。



「よし、言ってみたかったんだよなぁこれ」



 レヴィは全身をめぐる魔力をさらに爆発的に解放する。

 ギルフテッドも、それに合わせて魔法の展開を始める。


 嬉しそうに、そして楽しそうに笑いながら、レヴィは左手に握った剣に魔力を乗せる。



「道は私が切り開く! 安心して進めぇ! 【陽断】!」



 全てを焼き尽くすほどの豪炎が斬撃となって森ごと破壊していく。

 人形も、木々も、何もかも全て。


 タニアとフリージアは振り返ることなくを駆け抜けていく。


 その場に残った二人は、それでも数えきれないほどの木人形を前に少しだけ笑った。



「ごめんなギルフテッド、こんなのに付き合わせちゃって」

「いい……私はレヴィと一緒がいい」

「そっかそっかぁ、じゃあもっと一緒にいれるように、ここは乗り越えなきゃな」

「うん、私も本気で戦う」



 レヴィは、憧れたあの竜人の彼女のように笑う。

 目の前には無数の人形。

 

 それでも、彼女の炎は強く燃え滾っている。

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