第21話 仕返しは許されるか


「木乃香を殺人犯にさせるわけにはいかない。これは私の生涯をかけて成すべき仕事だった。後悔は微塵もない」

「っ」


 目の前で起こったことに、俺はどう処理すれば良いかわからなかった。人の命を奪うことは絶対にしてはいけないこと。いかなる理由があってもそれだけはダメだってことはわかってる。でも目の前の夕美さんの意思にはその権利があるような気がして、そう思ってしまった自分の考えに慌てて首を振った。


 大事な妻と息子を殺され、この手で犯人を殺したいと強く願ったことだろう。彼らは犯人に何もしていない。殺される理由のない、平和な生活をただ送っていただけなのに、身勝手な理由でそれを奪われた。そんな理不尽はあっちゃいけない。

 俺だって同じことをされたら仕返しを考えただろうと想像できる。


 でも彼は、その絶望と苦しみの中で残された娘を守るためのものに生涯を捧げた。しかしそこに、どうやっても拭えない憎しみがあった。当然だろう。だから彼は、娘を守るガーディアンに自分の意思を託した。もしあの男が現れたなら、復讐を果たせるように。


「これはっ……!」


 後ろから大人数の足音と江神さんの驚く声が聞こえる。ようやく警察が到着したらしい。部外者がこんなにマンション内にいるということは、オートロックを守っていたカメレオン型のガーディアンも正常な動きに戻ったのだろう。


 俺の行手を阻んでいたトラ型のガーディアンはいつの間にかゆっくりと移動を始めていて、その隙間から警察が一気に部屋に入り込んだ。

 池戸とヒト型のガーディアンを残して俺と木乃香さんは部屋の外に出される。


「潜入していた差形隊員がいません。すぐに捜索を!」

「なるほど、全くの別人か……」


 差形さんについては俺にもよくわかっていなかったが、目の前にいる彼女が差形栞と偽って潜入部隊にいたか、マンション内で本物と入れ替わったかで予想していた。どうやら後者だったらしい。道理でガーディアンの元に出向く際に軽装備だったわけだ。自分はガーディアンに襲われることはないとわかっている、潜入部隊ではない一般人なら納得がいく。


「彼女なら私の部屋にいらっしゃいます……すみませんでした」

「かしこまりました。お話は後ほどお聞かせください」

「はい……」


 現場かこれから鑑識によって調べが進められるらしい。ヒト型のガーディアンも受け答えはでき、回収にも応じてくれるようだった。


 自然と江神さんと視線が交わる。お互いに言いたいことがあるのだろう。譲ってくれているようなので、俺が先に口を開いた。


「プログラムをもう一度見せていただけませんか?」

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