第20話 確固たる意志と達成
池戸の身体に槍がぐっさりと刺さっている。先ほどまで彼が挙げていた絶叫はすでになくなり、その静かさからすでに事切れてしまったのがわかる。一瞬視界がぐらりと揺れたけれど、ここで倒れ込むわけにはいかない。これは現実ではないなどと意味のわからない暴論で精神を塗り固めてなんとか地に足をつけるしかなかった。
その前で槍を握ったまま、ガーディアンは静かに告げた。
「この恐怖と死を持って償え。たとえお前より私が先に死んだとしても、お前が生き延びることを決して許さない」
「おとう、さん……?」
差形さんがぽつりと呟く。俺と全く同じことを彼女も考えているだろう。ヒト型のAIには製造者の男の意思のようなものがあるように見えた。江神さんの説明でヒト型のガーディアンの回収が目的として挙げられていたのにも、この事実が関わっているのかもしれない。
スマホを取り出して江神さんに状況を報告しつつ尋ねる。池戸さんがガーディアンによって命を奪われてしまったことと、ヒト型のガーディアン以外は以前と同じ状態に戻っていることを伝えるとすぐにこちらに来てくれると言ってくれた。
「すみません江神さん。すぐに池戸 禄弥さんがこのマンションに入居した時期はわかりますか」
『もちろん。確か半年前くらいかと』
「そんなに……?」
AIにターゲットとして登録されていた彼がここに入居したのが半年前……そしてAIの暴走が始まったのはひと月前だ。あの暴走がもし池戸 禄弥をこのマンションに閉じ込めるためなら動き出すのが遅すぎる。
「ガーディアンさ、いや……夕美さん。今になってセキュリティを高めて彼を追い詰め出したのは何故ですか?」
「この男が5階に、木乃香のいるフロアに足を踏み入れたからだ」
「5階に?」
当日の彼は酷く酔っている様子だったらしい。そこでAIに敵とみなされ、行動に移すことになったらしい。
誤ってエレベーターで登ってしまっただけだろうが、ガーディアンたちにとってはたまったもんじゃなかったのだろう。一番守るべき木乃香さんがいるフロアに、かつての殺人犯が上がってきた。
加えてこのまま始末しなければ万が一もあるかもしれないと思うようにプログラムされていたのだろうか。
「なんとしても木乃香だけは守らなければならない。私の家族はもう誰にも奪わせない。……木乃香は幸せに生きるべきだ」
「だから、あなたの手で殺す必要があった」
そうだ、と重い返事が返ってくる。あとでプログラムを再確認しなければいけないが、俺がコードを書き換えて他のガーディアンたちには変化があったのに、ヒト型のガーディアンだけは彼を殺す行動を貫いた。おそらくあのガーディアンにだけは何か別の命令のアプローチがあるのだろう。
「木乃香を殺人犯にさせるわけにはいかない。これは私の生涯をかけて成すべき仕事だった。後悔は微塵もない」
それを聞いて、俺の目の前に立つ木乃香さんは息を飲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます