第1話 最初の出会い

 王都から少し離れた小さな町、ここで数日前に魔物の襲撃が行われていた。スタンピードほど大型なものではなかったがそれでも多くの被害が出ていた。


 焼け焦げ、いまだに煙を上げ続ける家々、崩れた石壁の隙間からは冷たい風が吹き抜けていた。


 家族を失い、力なく泣き続ける者。

 行方不明の大切な人の名前を呼び続ける者。

 療養所では重傷者がうめき声をあげていた。


 町全体を重苦しい空気が包んでいた。


 そんな町中を一つの小さな影が静かに歩いていた。

 小さな影はあたりを見渡しているようだが深く被っているフードのせいでその顔はよく見えない。


 フードの人物は何かを見つけたのかある方向をじっと見つめていた。


 その視線の先には崩れた家、そして瓦礫を持ち上げようとしている女性と泣いている小さな女の子がいた。


 ゆっくりと二人のいる方へと近づくと、泣き続ける小さな女の子の前でそっと足を止めた。


「下に誰かいるの?」


 突然声をかけられたことで女性と女の子はびくりと体を震わすとゆっくりと振り向いた。


「あっ、あなたは…」


 女性は警戒心をあらわにしながらじっとフードの人物を見つめながらそんな問いを投げかけるが、その人物はその問いに対してどう答えるべきか悩み考え込んでいるようだった。


 少しの沈黙の後フードの人物がゆっくりと口を開いた。


「まあまあ、今はそんなことどうでもよくないかな?誰か瓦礫の下敷きになってるんだよね?」

「お父さんが…」


 それまで泣いて口を開かなかった女の子が涙声になりながら答える。


「そっか……ねえ、その瓦礫どけたらいいの?」


 フードの人物の問いかけに女性は言葉に詰まりながら静かにうなずく。


「わかった」


 フードの人物は短く答えると、その周囲に風が集まりだす。そして瓦礫に手を向けると風は一斉に瓦礫に向かって飛んでいき、持ち上げ誰もいないところまで吹き飛ばした。


 そんな光景に二人は何が起こったのか分からず呆然としていた。しかし、瓦礫の下にあった光景を見つけるとその瞬間表情が凍り付いた。そして女性は小さな女の子にその光景を見せないように体で視界を遮った。


 そこには上半身と下半身が二つに分かれ内臓が飛び出しており、ところどころ潰れた男性の姿があった。かろうじて息はあるが生きているのが不思議なほどだった。


 女性はそんな光景に口元を抑え現実を直視できないでいた。女の子も女性が隠しているとはいえ完全に隠しきることはできておらず、父のそんな姿を見て涙を流しながらその場に座り込む。


 そんな二人の様子を横目にフードの人物は倒れている男性に近づくと優しくその傷口に触れる。すると触れている手から青色の光が放たれたちどころに傷口が修復されていく。飛び出ていたはずの内臓は元の位置に戻り、二つに分かれていたはずの胴体もくっつきだした。


 どれほど腕のいい医者や回復魔法の使い手でも治せないであろう怪我を治していくその光景は奇跡そのものだった。


 女性はその光景からまるで時間が止まったかのように目を離せずにいた。

 女の子は涙でクシャクシャな顔を上げ、父がいつもの姿に戻っていくのを見て信じられないものを見たという表情を浮かべる。


「ふぅ、終わったよ」


 その言葉をフードの人物が発した時、男性は元々傷なんかなかったかのようにきれいな状態で、先ほどまで浅かった呼吸も今では正常になっていた。


 小さな女の子はそんな父に覆いかぶさるようによかったと泣きながら離れようとはしなかった。

 女性も涙を流しながら「ありがとう、ありがとう」と何度もフードの人物にお礼を告げるのであった。


 そんな様子を見ていた周りの人々もフードの人物の周りに集まり、口々に助けを求めたり、その魔法の技術に感心したりと反応は様々だった。


 女の子はまだ父の胸にしがみつきながら、はにかむように笑った。


「お父さん……よかった……」


 フードの人物はそんな女の子を見てほほ笑むと助けを求める人たちに対して「順番に助けます。案内してくれますか?」そう言ってこの場を後にするのであった。

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