偽り少女とその旅路~嘘だらけの少女は夢を見る~
☆猫より柴犬派☆
プロローグ
霧が立ち込み薄暗い森で木々の間からわずかに差し込む日の光が地面に生えた苔を照らしていた。昨日雨が降った影響なのか地面には水たまりができており、足元が不安定になっていた。
その小道に小さな影があった。その正体は膝を抱えてその場に座り込む少女だった。少女の年齢は3歳くらいだろうか?銀色の髪が肩のあたりまで垂れ、青い瞳が霧の中で光を放っているように見えた。まだ幼い少女は世界のすべてに興味を示しているのか指先で苔をそっとなでながら指についた土をじっと眺めていた。
騎士団の部隊長になってこれが初仕事だったギルフォードはその少女の異常性に警戒心を強めその場から動けずにいた。
ギルフォードたちがこの森に来た理由は魔物が全く出現しなくなったという異変を調べるためだった。それまでは魔の森と言われるほどにこの森での魔物による被害が相次いでいたのだがある日を境にぴたりとその被害報告が収まったのだ。それどころかその日からこの森で魔物を見かけることが無くなり、それにより魔物を狩って生計を立てていたものたちの仕事がなくなったことが何よりも問題だった。
魔物の被害が無くなったのだからそれはそれでいいのではないかと思われるが、魔物の素材は非常に貴重で様々なことに利用されていたこともあってすべての魔物が一斉に姿を消すというのはこの国の経済が破綻することにもつながりかねなかった。
それを問題視した国王の命令でこの森の調査にやってきたのだがそんな危険な森で3歳ほどの少女がたった一人でいるのだ。これを異常と言わずになんというだろうか。
しかしいつまでもここに留まるわけにはいかないし、少女を一人置いていくわけにもいかなかった。部下たちには待機を命じてギルフォードは少女に近づくことにした。
枝を踏む小さな音で少女が顔を上げた。そしてすべてを見通すような青い瞳がこちらをまっすぐ見つめていた。その瞳には純粋な好奇心が宿っておりゆっくりとギルフォードに近づいてきた。
警戒心を強めるギルフォードだったが、少女の肩のあたりにふわりと緑の光が舞ったのを見てそっちに意識が持っていかれた。その光の正体は指先ほどの大きさの微精霊だった。微精霊は少女のことを守るようにその周りを飛んでいた。
精霊は神の化身ともいわれている存在でそもそも出会うことが困難だ。そして精霊が人に力を貸すなんて話は今まで聞いたこともなかった。
魔王が世界を支配していた時ですら精霊が人に力を貸すことはなかったというのに、この小さな少女を守ろうとする精霊の姿にギルフォードは驚かされた。
ギルフォードが王城で仕事をしていた時にたまたま目にした文献にはこんなことが書かれていた。
数百年以上も昔に世界が滅びの危機を迎えそうになった時、神の使い、使者様が精霊を引き連れて降臨した。そしてその予言により滅びの運命を回避したのだ。
この少女の姿がその文献の使者様のようだったこともあり、ギルフォードはどう対応するべきか悩んでいた。しかしこのまま何もしないわけにもいかず、意を決したギルフォードは慎重に距離を詰めつつ少女に手を差し伸べる。
「ここに一人は危ないよ。一緒に森から出よう」
警戒は解かない、しかしそれを悟られぬようにやさしい声音で少女に声をかける。そして笑顔を見せて自分に危険がないことを少女にアピールした。
少女は言葉を理解していないのか少し戸惑ったようにギルフォードと微精霊を交互に見やる。やがてギルフォードが何をしたいのか理解したのかその小さな手を伸ばしてギルフォードの手を取る。そして歩き出した二人に従うように微精霊はふわふわと揺れながら飛んでいた。
そうして少女と騎士団は霧が深く立ち込める森を後にした。
これがこの少女にとって最悪の始まりでもあった。
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