第2話 フードの中の人は実は食いしん坊?
「あっ、頭痛い」
フードで顔を隠している人物は川にかかっている橋の下で姿を隠しながらそんなことをぼやいた。
あれからできる限りの人に治療を施したがそれでも全員を救うことはできなかった。それのせいで一部の人からはなんで自分たちを先に助けてくれなかったんだといった恨み言を言われたりもした。
しかし大半の人からは感謝されたし、ちょっとずつ街に笑顔が戻っていくのは見ていて悪い気はしなかった。
ただ、問題はそこからだった。
称賛の声、集まってくる人々、聖女だの恩人だのと勝手につけられる呼び名。そんなものが広まってしまえばすぐに追手に見つかってしまうだろう。
立場上、正体を隠さなければならない以上名声が広まってしまうのは願い下げだった。
「お疲れですか?」
不意に声をかけられ、フードの人物は顔を上げる。
そこにいたのは最初に助けたあの小さな女の子だった。あの時は顔をくしゃくしゃにしながら泣いていたのでよく見れていなかったけど、すごくかわいらしい顔立ちをしている。年齢は8歳くらいだろうか?黒髪を背中まで伸ばして、まだ幼さの残るけれど愛らしい感じだ。
「まぁね。あのまま助けずに見過ごしたらそれこそ悪評がたって面倒くさいことになると思ったから助けたんだけど、もしかしたらこっちの方が余計に面倒くさいことになったかもしれない」
「あんまり面倒くさいとか言わないで上げてくださいよ。それに私を含めて助けてくださった方はみんな感謝しています。ありがとうございます」
まだ小さいのにはっきりとしたその受け答えに驚かされていた。
「まあ、君を助けたことに関しては後悔してないよ。ほかの人を助けたことを少し後悔しているだけで」
そんなずれた回答をするフードの人物に小さな女の子はむっとした表情を浮かべる。
「だからそんなこと言わないの!人助けはいいことなんだから後悔したなんて言ったらだめです‼」
「わかったよ。次からは気を付ける」
軽すぎる返事に女の子はさらに眉をひそめるが、ふと思い出したように質問を切り替えた。
「そういえば……、どうしてあなたは私たちを助けてくれたの?今の様子を見るに人目を避けてる感じがあるし、フードもそのためだよね?お父さんを助けて目立っちゃうかもしれないのに」
フードの人物はよく見てるんだなと感心しながらゆっくりと口を開く。
「……きれいだったから」
女の子は何を言われたのか理解ができていなかった。ぽかんと口を開けてきょとん顔をしていた。
きれい?
誰が?
あの時は泣いてて顔がくしゃくしゃだったはずだし私じゃないよね?
何に対してきれいといったのか女の子には理解ができなかった。
「まあ、別に外見のことじゃないから気にしなくていいよ。それに、そのせいでほかの人たちにも助けを求められてさぁ。断って悪評がたつ方が目立つかなと思って助けただけなんだよね。実際は今の方がすごい目立ってるかもしれないけど。まぁ、だからね、別に私は感謝されるような人間じゃないんだ」
「なにそれ?変なの。……あっ、そういえばお母さんからあなたを呼んできてって言われてるんだった」
「私を?なんで?あんまり人前に出たくないんだけど」
「確か、お礼がしたいからって。おいしいご飯を用意したって」
その瞬間、フードの人物は勢い良く立ち上がった。先ほどまでの固い雰囲気はどこへ消えたのか。そこにいたのはまるで別人のようだった。
「ごっ、ご飯‼行く‼」
女の子はその場で固まった。
でもそれは仕方がないだろう。自分を助けてくれた人が突然ただの食いしん坊の子供に見えたのだから。
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