脚本

第1幕


●舞台はオルフェイムの亡魂たる大劇場。黒大理石の床に血の涙が刻まれ、ひび割れたステンドグラスから紅の光が刃のごとく降る。天井の歯車は時を呪う亡魂の鼓動、軋みながら不協和音を紡ぐ。背景には演者の骸、砕けた仮面、錆びた剣が朽ち、湿った闇に鉄と死の香りが漂う。風は遠くで、星の葬送曲を囁く。


語り手「オルフェイム、かつて詩と血の揺籃。芸術の都は禁忌の魔術に穢れ、演者と呼ばれる人形兵が人間の戦争を演じた。今、都は廃墟、星は沈む。少女が立つ、剣と詩を手に。彼女の歌は、救いか、呪いか」


リリムが現れる。黒いドレスの裾は泥と血に濡れ、銀の短剣は星光を宿す。金色の髪は乱れ、青い瞳に決意と慟哭が瞬く。彼女の足音は、舞台に星の反響を刻む。


リリム「ここは私の故郷、オルフェイム。父の誇り、母の調べ、すべてが炎に融けた。

(独白、短剣を握り、目を閉じる)

あの夜、私が逃げなければ…父は死なず、都は朽ちなかった。

(目を開け、声を強める)

だが、悔恨は鎖。ヴェルナー、魔術師団長よ、お前の禁忌がこの都を毒した。私は剣を手に、星を再び灯す。オルフェイムを、再生させる――それが私の詩だ。


闇よりエアが現れる。青白い肌は陶器のごとく、無数のひび割れから血の星が滲む。黒い鎧は風化した詩、剣を握る手は冷たく力強い。虚ろな瞳がリリムを捉え、一瞬、星屑が宿る。


エア「お前、誰だ。この胸…

(心臓なき胸を押さえ、眉を寄せる)

疼くは、忘れし星か。なぜ、俺を…呼び醒ます?」


リリム「呼び醒ます? 私は…この劇場に導かれただけ。

(一歩近づき、声を強める)

演者よ、ヴェルナーの傀儡か? 答えなさい、なぜ私の魂に星を落とす?」


エア「ヴェルナー…知らぬ名。俺は…

(頭を押さえ、膝をつく。苦悶の声)

記憶は霧、剣だけが真。

(剣を見つめ、囁く)

血を求め、俺を縛る。だが、お前の目…遠い星、知っている」


爆音。セレナが闇を裂く。革鎧は血と煤に穢れ、銃を構える手は揺るぎない。目はリリムへの忠義と、救えなかった過去の傷で揺れる。


セレナ「リリム、離れな! そいつは演者、人の血を啜る亡魂だ!

(怒り、叫び、銃口をエアに向ける)

お前の詩は皆を殺すぞ!」


リリム「待て、セレナ。

(エアを庇う)

彼は…異なる。記憶を奪われた、と言った。

(エアを一瞥、囁く)

彼の瞳は憎悪にあらず、星の哀しみだ。セレナ、かつて私の侍女だったお前なら、信じてくれると」


セレナ「信じる? リリム、お前の心は星に溺れる!

(声を荒げる)

あの夜、父上が倒れ、館が燃えた時、私が…

(言葉を切り、銃を下げる)

くそっ、なぜお前を守る、私の罪なのに」


リリムがセレナの手を握る。彼女の目は、星の温もりを宿す。


リリム「セレナ、お前は罪ではない。私の姉、私の剣。私たちは共に、この都を救う。

(静かに、力強く)

エアも…彼も、星を灯す鍵かもしれない」

(エアを見る)


突然、劇場の奥から不気味な笑い。ヴェルナーが現れる。黒いローブは夜をまとい、赤い宝石の杖は血の星。背後に演者が整列、機械の瞳が無情に光る。彼の顔は冷たく、だが目には狂気と失われた詩が宿る。


ヴェルナー「麗しき再会、リリム・ヴァレンティア。貴族の娘が泥にまみれ、裏切り者と壊れ人形に囲まれる。私の悲劇に、これ以上の星はない」

(静かに語りかける)


リリム「ヴェルナー、お前の魔術がオルフェイムを毒した。演者を操り、戦争を「芸術」と呼ぶは狂気! 父を、母を、皆を奪った罪を、この刃で裁く!」

(短剣を握りしめる)


ヴェルナー「罪? 愚かな娘、これは救い。人間の欲と憎しみを演者に織らせ、永遠の星を紡ぐ。

(妖しく笑う)

だが、その人形…私の詩を乱す。なぜ動く? 記憶を奪った器のはずだ」

(エアを見る)


リリムがエアを見つめる。彼女の心に、星屑のような予感が宿る。


リリム「エア…あなたは誰? なぜ、私の星を揺らす?

(自身に囁く)

ヴェルナー、この劇場の真実を、私が暴く!」

(声を強める)


語り手「かくして、舞台は整う。少女は剣を手に、都の星を求める。人形は闇に揺れ、忠義は試される。だが、星は囁く真実は、血の詩だ」




第2幕


●オルフェイムの地下礼拝堂。燭台の炎は幽魂の如く揺れ、血の紋様が壁を這う。水晶球は脈打ち、記憶の星屑が渦巻く。床の血痕は古の詩、鉄と腐敗に花の香りが混じる、オルフェイムの亡魂。空気は重く、星の嘆きが漂う。


リリム、セレナ、エアが礼拝堂に踏み込む。エアの身体はひび割れ、血の星が滴る。リリムのドレスは紅に濡れ、目は罪と愛で揺れる。セレナの銃は握られ、顔に疲労と決意が刻まれる。


リリム「ここが…ヴェルナーの聖域。星の心臓、水晶球。

(息を整え、囁く)

ここで、真実を知る。エア、セレナ、共に戦ってくれる?」

(水晶球を見つめ、声を強める)


セレナ「姫様、逃げる選択肢はなかったよ。

(苦笑、銃を構える)

だが、この場所…私の心を軋ませる。あの夜、館で感じた恐怖と同じだ」


エア「この場所、俺の胸を刺す。

(苦悶、頭を押さえ、呻く)

リリム、なぜ…お前の側にいると、霧が晴れる気がする? 俺は…何だ?」


リリム「エア、あなたは私の星。私が、答えを見つける。

(エアの手を握る)

ヴェルナー、現れなさい!」


水晶球が光り、ヴェルナーの幻影が現れる。ローブは闇、杖の宝石は血の星。目は冷たく、だが哀愁が宿る。


ヴェルナー「我が聖域へようこそ、リリム、エア、セレナ。最後の詩はこう、オルフェイムは滅び、エアが演者の王となる。

(目を細める)

だが、リリム、貴族の血が鍵。捧げなさい、星を」


リリム「私の血? エアを道具にする気? 彼の心は…星の如く輝く!お前の魔術では、彼の魂は奪えぬ!」

(怒り、エアの手を握り、叫ぶ)


ヴェルナー「魂? 滑稽だ。エアは私の詩、かつて人間だった男を禁忌で織った。知りたいか、アレン。お前の罪を」

(エアを見て笑う)


エア「罪? 俺の…名…? 」

(動揺)

「やめろ…俺の星を…壊すな!」

(頭を抱え、呻く)


水晶球に映像。炎の館。アレンがリリムの父と剣を交える。父が倒れ、血の海。アレンが振り返ると、幼いリリムが恐怖に震える。アレンの目は涙と狂気。映像が消え、水晶球が脈打つ。


リリム「アレン? 父を…奪ったのは…あなた?」

(エアを見る)

「嘘よ…あなたは…そんな詩じゃない…!」


エア「やめろ! 俺は…何だ!」

(叫び、水晶球を剣で叩く)

人形か…人間か…リリム、教えてくれ…俺の星を!」

(ひび割れが広がる)


リリムがエアを抱く。涙が肩に星の如く落ちる。セレナが一歩下がり、目を逸らす。


リリム「エア、あなたはエア。私の星、罪も過去も…あなたは今、ここにいる。

(囁く)

それが、私の詩」

(声を強める)

ヴェルナー、この真実を、剣で切り開く!」


ヴェルナーの幻影が笑い、実体が現れる。魔術の嵐が礼拝堂を歪め、演者が動き出す。戦いは星と血の試練。


戦闘描写

ヴェルナーの魔術は血の嵐、リリムたちを襲う。リリムの短剣は星の軌跡、刃を弾くが、父の死が心を刺し、動きが鈍る。「父さん…私が逃げたから…」と呟くが、エアの背中に星を見る。「エア…あなたに、私の詩を!」紋様を切り、礼拝堂が揺れる。


セレナの銃は雷、演者を貫く。弾が尽き、短刀を抜く。「リリム、死なせぬ!」と叫び、演者に飛びかかる。彼女の剣は、過去の無力を断つ星の詩。だが、演者の刃が彼女の腕を切り、血が滴る。「くそっ…まだ戦える!」と歯を食いしばる。


エアの剣は星の刃、演者を両断。ひび割れから血の星が噴き、身体が軋む。「俺は…お前の詩じゃない!」と叫び、ヴェルナーに突進。だが、魔術の鎖が彼を縛り、膝をつかせる。「リリム…俺は…」と呟く声に、星屑の光。


リリム「エア、セレナ…私は、逃げない! 」

(涙声、短剣を握り、叫ぶ)

「ヴェルナー、私の血を欲するなら、来なさい! だが、私の星は、決して渡さぬ!」


語り手「星は試され、血は流れる。少女は罪と向き合い、人形は過去に縛られる。忠義は軋み、魔術は笑う。詩は、なおも続く。だが、星は落ちるか?」




第3幕


●礼拝堂の中心、水晶球の前。燭台の炎は消え、血の紋様が脈打つ。崩れゆく壁から星屑のような光が漏れ、廃墟の都が遠くで呻く。リリム、エア、セレナは傷だらけ、だが星の意志が彼らを繋ぐ。


リリムがエアを支え、セレナが短刀を構える。ヴェルナーの杖が紅の星を放ち、魔術の嵐が空間を歪める。


ヴェルナー「リリム、お前の血で詩は完成する! アレン、お前は私の王だ! オルフェイムは、永遠の闇に沈む!」

(手にした杖を振り上げる)


リリム「永遠の闇? ヴェルナー、お前の詩は孤独だ! 」

(エアを見て微笑む)

エア、あなたは私の光。セレナ、あなたは私の剣。私は、罪を赦す、父を、私を、そして…あなたを!」

(声を張る)


リリムが突進。ヴェルナーの魔術が彼女を襲うが、短剣で血の刃を切り裂く。セレナが援護し、演者を倒す。エアが立ち上がり、身体の限界を超えて剣を振る。


戦闘描写・クライマックス

リリムの短剣は星の舞踏、ヴェルナーの魔術を切り裂く。彼女の心に、父の死が甦るが、「逃げない」と呟き、星屑が瞳に宿る。ヴェルナーの鎖を断ち、水晶球に突進。「オルフェイムは、私の詩だ!」と叫び、短剣を水晶球に突き刺す。星屑が爆発し、礼拝堂が光に呑まれる。


セレナの短刀は雷の如く、演者を貫く。傷だらけの身体でリリムを守り、「姫様、生きろ!」と叫ぶ。彼女の剣は、過去の無力を星に変える。演者の最後の刃を弾き、倒れるが、微笑む。「やっと…守れた…」。


エアの剣は星の咆哮、ヴェルナーに突進。ひび割れが全身に広がり、血の星が噴き出す。


「俺は…リリムの星だ!」と叫び、ヴェルナーの胸を貫く。ヴェルナーは血を吐き、「詩は…永遠…」と呟き、星屑に散る。エアも膝をつき、リリムに手を伸ばす。

「リリム…俺は…」


リリム「行かないで! 私の星、あなたが必要なの…!」

(エアを抱き、嗚咽)


エア「リリム…俺は…自由だ。お前は…都を…」

(微笑み、目を閉じる)

「ありがとう…私の詩」


水晶球が砕け、礼拝堂が崩れる。リリムはエアの剣を手に、セレナを支えて立つ。彼女の瞳に、星屑が瞬く。


リリム「エア、あなたは私の罪を星に変えた。父の死、私の闇、すべてを」

(独白、セレナを見て、微笑む)

「セレナ、あなたは私の光」

(剣を握り、空を見上げる)

「オルフェイムは死なぬ。私が星を紡ぐ」


●舞台が外へ。オルフェイムの丘。朝焼けは血の如く、暗雲が星を隠す。リリムはエアの剣を手に、反乱軍と共に立つ。ドレスは紅と泥に穢れ、髪は風に詩を紡ぐ。瞳は星の如く輝くが、遠くを見る。


セレナ「姫様、詩は続くよ。どんな星を紡ぐ?」

(微笑む)


リリム「自由を。希望を。そして…エアの星を」

(剣を掲げ、一歩踏み出す)

「オルフェイムよ、目覚めなさい。だが、星は沈むかもしれない、それでも、私たちは歩む」


反乱軍が動き出す。足音は星の鼓動。リリムが丘を下る。朝焼けが一瞬輝き、暗雲に呑まれる。遠く、廃墟からの音、演者の軋みか、風の唄か。リリムの瞳に星屑が瞬き、消える。


視点が空に上がり、オルフェイムの廃墟が霧と光に揺れる。星が一つ、雲の隙間から覗き、隠れる。

語り手「緞帳は下りず、血の詩は響く。少女は星を紡ぐが、闇は囁く。オルフェイムよ、贖罪の果てに、何を望む? 希望か、終焉か、その答えは、星屑に委ねられた」


(終)

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終幕のオルフェイム 水煮ランド @nikudake_kuu

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