第5話 予言の正体

俺は気づけば部長にカッターを向けていた。

どうしてそんなことをしたのか、わからない。決別すべきだと言われたが手を出す理由にはならない。

避けてほしいのか、そのままカッターの刃を受けてほしいのか、自分の事なのに考えがはっきりしない。

「なるほど、貴様はずいぶんと単純らしい」

氷野さんは読みかけていた本でカッターの刃を挟み、軽く手首をひねる。

あっさりとカッターを奪われ、そして顔面にこぶしをストレートをお見舞いされてしまった。

「いってー!」

「起きたか」


ぼーっとしていた思考がはっきりしてくる。


「あれ、なんで……」

体が自由になり、自分のしていたことが怖くなった。

「紫藤の言っていた通り、催眠術か」

「さいみん…じゅつ?」

あのコイン揺らしたりとか?

「薄暗い部屋、独特の香り、蠟燭の明かり……まぁやってやれないことはないだろう。

人によっては全くきかないがな。」

「……じゃあ、大槻も」

異常な入れ込み具合、催眠術で操作されているのかもしれない。

そうでもなきゃ、バイト代全部つぎ込んだり、周りの人を巻き込んだりするはずがない。

「しかし、なんと暗示をかけられたんだ?」

「あー…暗示なのかよくわかんないけど、早く決別しろって。そうしたら平穏が訪れるって言ってました。逆にそうしないと、俺が傷つくとか……

あと、明日学校に登校するときは頭上に気をつけろって」

「決別しろと言われて殺しにかかってくるとは、よっぽど私のことが嫌いなようだな」

「ち、ちがいますよ!俺だってなんでカッターなんか振り回したのか」

え……?俺って無意識に氷野さんの事嫌っていたのか?

「まぁ、そこを追求するのは後にしてやろう」

氷野さんは部室を出てどこかへ向かう。なんとなくいやな予感がして俺は後をついていった。

「どこに行くんですか」

「予言者とやらに会いに行く。お前に暗示をかけた意図も聞いておきたいからな」

不機嫌なのを隠すことなく予言者のもとへ氷野さんは向かい、順番を無視して彼女の元へ行ってしまった。

「おーおー、とうとう来たか」

紫藤さんはわかっていたようでにやにやしながら二人の様子を眺めている。

「止めなくていいんですか?」

「俺は巻き込まれたくないからな」

予言者の女子はか弱そうな女子だ。俺の時みたいに殴ったら骨折れてしまうかもしれない。

「氷野さん、暴力は無しで!」

「あら、あなたも予言が効かない人なのね。残念だわ」

咄嗟に氷野さんと予言者の間に立つ。彼女は死んだような眼で俺を見ている。

「使えないやつ」と暴言を吐かれているような気になる。

「予言か、一つ私にも予言してほしいものだ。本当にそんな力があるなら」

氷野の煽りに予言者は笑う。

「いいわ、予言してあげる!」

黒く沈んだ瞳が怪しく光ったように見えた。

「氷野あきら、あなたは今宵、自分の部屋を赤く染め上げることでしょう!

そして明日、どす黒く変色した部屋であなたは静かに冷たくなったところを発見される!!」

それは予言といっていいのだろうか。

これが予言なら、氷野さんは明日危ない目に…下手をしたら死ぬようなことになるんじゃないのか?

「言葉には気をつけろ」

氷野さんはそう一言残し、教室を出ていった。

脅しをかけたのか、予言者は真っ青な顔になり椅子に座り込んでいる。

「えっと……?」

「なに、氷野は無事だ。ただし予言者がどうなるかはわからんけどな」

ご愁傷様という紫藤さんの言葉が耳に残った―――。


翌朝、学校は大騒ぎになっていた。

予言者の自殺未遂。部屋を自分の血で赤くしているところを寮の同室の生徒が発見して救急車を呼んだそうだ。

彼女は予言者として多くの人に慕われると同時にそれがプレッシャーになっていたのではないかということだった。

耐え切れず発狂したのが今回の事件だと学校では説明された。



しかし、俺の中では釈然としなかった。

あの予言は氷野さんに当てたもののはずだ。

確かに氷野さんは脅したようだが、それで自殺しようと思うほどだろうか?

屋上で授業をさぼりそんなことを考えていると、紫藤さんが缶コーヒーを手に屋上にやってきた。


「氷野さんは、なにをしたんですかね」

「なに、降りかかった火の粉を振り払っただけだ。

たまたまその時そばにいた奴に火の粉が降っただけ。はっは、お前さんじゃなくてよかったな」


本当だ。

もしかしたら、俺があの予言のようなことになっていたのだろうか?

暗くなる表情に気づいた紫藤さんは腹を抱えて笑い出した。

「すっげー顔に出るな。

安心しろ、お前に降りかかるようなことはないさ。あれは呪い返しだ、本人にしか帰らないから、巻き込まれることはない」

「まじない…いや、催眠術じゃなかったんですか?」

口を滑らせたと紫藤はいい、そのまま屋上から逃げ出した。


催眠術だと言ったり、呪いだとか……なんだ、オカルトじみた話になってきたぞ?

俺が入ったのはミス研だろ……ホラーじみたことは勘弁してくれよ。

それから逃れたくてこの部に入ったのに……。俺はただただ、ため息をついた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミス研へようこそ 猫乃助 @nekonosuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ