第8話

# 第8話 『青い刃の閃光』


朝日が昇り始めた頃、村の北門に小さな集団が集まっていた。私とトーマス、そして村の熟練猟師であるガルドとその弟子のリオだ。私たちは今日、村を脅かすグレイハウンド退治に向かうところだった。


「みんな準備はいいか?」ガルドが声をかけた。彼は50代ほどの頑強な体格の男性で、顔には傷跡が数本走っている。「グレイハウンド相手は慎重さが命だぞ」


「はい、先生」リオは真剣な表情で頷いた。20代前半の若者で、弓の名手らしい。


「準備万端だよ」トーマスは自信たっぷりに答えた。彼も独自の武器を持ってきていた。斧と槍を組み合わせたような形状の武器だ。


「僕も大丈夫」私は腰に下げた「ブルーリターン」を確認した。


「お前の武器が頼りだからな」ガルドは私を見た。「期待しているぞ」


昨晩の評議会で、私の新武器のデモンストレーションを見た村人たちは希望を見出したようだ。村長もこの遠征に太鼓判を押していた。


「まず、最近の獣の足跡が見つかった牧場へ向かおう」ガルドが言った。


村を出て北に向かって歩き始める。朝の澄んだ空気の中、周囲の自然は美しく静かだった。だが、その平和な雰囲気の中にも緊張感が漂っている。


「カイト」トーマスが小声で話しかけてきた。「昨日の武器、もう少し調整させたくれないか?刃の部分に特別な加工を施したいんだ」


「どんな?」


「より切れ味を増すための魔法的処理さ」彼は嬉しそうに言った。「理論的には、グレイハウンドの硬い皮も貫けるはずだ」


「そんな事もできるのか?。本当にありがとう」


「僕も一緒に来ているんだから、最善を尽くさないとね」そう言うと、用意をしてきていたのか、小瓶から刃部分に何かを塗りこんでいく。

すぐに刃が反応して綺麗な青白いメッキのような光沢が現れ、さらに鋭さが増したようだった。



1時間ほど歩くと、開けた牧場に到着した。柵の一部が壊され、羊小屋の周りには荒々しい足跡が残っていた。


「ここだ」ガルドが腰をかがめて足跡を調べた。「間違いなくグレイハウンドの痕跡だ。しかも…」彼は眉をひそめた。「複数いるな」


「何匹くらいだと思いますか?」リオが緊張した様子で尋ねた。


「少なくとも二匹、おそらく三匹だ」


「三匹も?」トーマスが息を呑んだ。「これは想定より厳しいな」


私は森での遭遇を思い出した。確かにあの時も二匹が現れた。群れで行動するようになったのかもしれない。


「足跡を追おう」ガルドが言った。「森の方向へ続いているぞ」


私たちは慎重に足跡を追った。牧場から北東の森へと続く道は、所々で倒れた木や引っかき傷のある木の幹が見つかった。


「縄張りを示す印だな」ガルドが説明した。「グレイハウンドは領域意識が強い」


森の中に入ると、木々が密になり、足跡を追うのが難しくなった。ガルドは経験豊かな目で細かな痕跡を見つけ出し、私たちを導いていく。


「皆、警戒を」彼は低い声で言った。「この辺りは彼らの巣に近いはずだ」


小さな沢を渡り、丘を登ると、前方に大きな洞窟が見えてきた。入口付近には動物の骨が散乱し、地面には鮮明な足跡が残っていた。


「ここだ」ガルドが息を殺して言った。「洞窟の中に巣がある」


「どうやって誘い出す?」トーマスが尋ねた。


「罠を仕掛けるしかないな」ガルドは考え込んだ。「中に入るのは自殺行為だ」


ガルドとリオは洞窟の入口付近に罠を仕掛け始めた。トーマスと私は見張りを担当する。


「カイト」トーマスが小声で言った。「あの武器、使い方には慣れた?」


「ある程度は。昨夜練習したよ」


「良かった」彼は安心したように言った。「でも、実際の戦いは練習とは違う。自分の身を守ることを最優先に」


「わかってる。君も気をつけて」


そのとき、風向きが変わった。突然、洞窟の奥から低いうなり声が聞こえてきた。


「やばい、こっちの匂いに気づいたようだ!」ガルドが警告した。「準備を!」


私たちは素早く戦闘態勢に入った。ガルドは重い斧を構え、リオは弓に矢をつがえる。トーマスは自分の武器を握りしめ、私は「ブルーリターン」を手に取った。


洞窟の暗がりから、まず一対の赤く光る目が現れた。続いて二対目、三対目の目が見えた。我々の予想通り、三匹のグレイハウンドがいたのだ。


「来るぞ!」


最初の一匹が咆哮と共に飛び出してきた。灰色の毛に覆われた巨大な狼のような獣。だが通常の狼よりずっと大きく、肩の高さは私の腰ほどもある。その赤い目は敵意に満ちていた。


リオが最初に矢を放った。矢は獣の肩に当たったが、厚い毛皮を貫けずに弾かれてしまう。


「普通の矢では効かないぞ!」ガルドが叫んだ。


二匹目の獣が左側から襲いかかってきた。トーマスが武器を振るって応戦する。獣の爪がトーマスの武器に当たり、火花が散った。


「カイト、今だ!」


私は「ブルーリターン」に意識を集中した。石のエネルギーを武器に流し込むと、ブレードが青く輝き始める。最初の獣に向かって思い切り投げた。


ブレードは鋭い音を立てながら空気を切り裂き、青い軌跡を描いて獣に向かって飛んでいった。獣は驚くべき反射神経でよけようとしたが、ブレードはその動きを予測したかのように軌道を変え、獣の左側面を深く切り裂いた。


「当たった!」


獣は痛みに咆哮を上げ、傷口から暗赤色の血が流れ出した。ブレードは見事な弧を描いて私の手元に戻ってきた。


「効いている!続けろ!」ガルドが叫んだ。


三匹目の獣が突然、木の陰から飛び出してきた。ガルドに向かって飛びかかる。ガルドは斧を振り上げて応戦したが、獣の重みと勢いで押し倒されそうになる。


「ガルドさん!」リオが二本の矢を連続して放った。矢は獣の後足に命中し、一瞬の隙を作った。


「トーマス、あっちを!」私は最初の獣を指さした。「こっちは任せて!」


トーマスは頷き、傷ついた獣に向かって突進した。彼の武器が青白く光る。村での練習では見せなかった魔法の力だ。


私はガルドを襲っている獣に向かって再び「ブルーリターン」を投げた。今度は【システム干渉】と【現実改変(微小)】を少し使って、ブレードの威力を強化する。ブレードはより強く青く輝き、空気を切り裂く音も大きくなった。


獣は何かを感じ取ったのか、ブレードが近づくと身をかわそうとした。しかし、今回のブレードはさらに速く、より正確だった。鋭い刃が獣の背中を深く切り裂く。


「ぐああ!」獣は苦痛の叫びを上げ、ガルドから離れた。


「今だ!」ガルドは素早く立ち上がり、斧を振り上げた。獣が痛みで動きが鈍っている隙に、鋭い斧の一撃が獣の首に入った。


一方、トーマスは最初の獣と激しく戦っていた。彼の武器は獣の攻撃を受け止めつつ、時折隙を突いて獣に傷を負わせている。リオの矢も効果的に獣の動きを妨げていた。


残る一匹は、傷ついた仲間を見て、一瞬躊躇した後、突然森の奥へと逃げ出した。


「逃がすな!」ガルドが叫んだ。「村に戻って再び襲ってくるぞ!」


私は逃げる獣に向かって「ブルーリターン」を最大限の力で投げた。ブレードは青い閃光となって森の中を飛んでいき、逃げる獣の後脚に命中した。獣は転倒し、痛みに悶える。


「追撃だ!」


私たちは傷ついた獣に向かって進み、最後の一撃を加えた。三匹のグレイハウンドは全て倒れ、もはや村を脅かすことはなくなった。


「やった…」トーマスは息を切らしながら言った。「全て倒したぞ」


「無事で良かった」リオも安堵の表情を見せた。


ガルドは黙って獣たちを調べ、やがて深く頷いた。「見事な狩りだった。特にその武器は驚異的だ」


彼は「ブルーリターン」を指さした。「あれほど効率的にグレイハウンドを倒せるとは思わなかった」


「トーマスの技術のおかげだよ」私は誠実に言った。


「いや、あなたのアイデアがなければ」トーマスも謙虚に答えた。


私たちは倒した獣の証拠として、それぞれの尾を切り取った。村に持ち帰る証拠だ。


「これで村は安全になる」ガルドは満足げに言った。「皆、よくやった」


帰り道、森を抜けながら、私は「ブルーリターン」を見つめていた。青い光は弱まっていたが、まだかすかに輝いている。


「調子はどう?」トーマスが尋ねた。


「完璧だよ」私は答えた。「君の作った武器は素晴らしい」


「君の石のおかげさ」彼は言った。「あの石のエネルギーがなければ、あそこまでの威力は出なかったはずだ」


「協力の成果だね」


「ね、カイト」トーマスは少し声を落とした。「あの…君の石のエネルギーの使い方、教えてくれないか?アカデミーで研究に活かしたいんだ」


「それは…」


「もちろん、無理なら構わない」彼は急いで付け加えた。「ただ、あれほど効率的にエネルギーを制御できる人は見たことがなくて…」


「基本的なことなら教えられるよ」私は答えた。「でも、全てを説明するのは難しい。石のエネルギーは…特殊なんだ」


「それだけでも大きな助けになる」トーマスは目を輝かせた。「ありがとう」


村に近づくと、すでに私たちの帰りを待つ村人たちの姿が見えた。どうやら誰かが私たちの勝利を先に伝えたようだ。


「英雄が帰ってきた!」村長が喜びの声を上げた。


村人たちから歓声が上がる。子供たちも興奮して駆け寄ってきた。


「本当に倒したのか?」


「三匹全部か?」


ガルドは獣の尾を掲げて見せた。「ウィロウ村はもう安全だ!」


さらに大きな歓声が上がる。村長が前に出てきて、私たちの肩を叩いた。


「本当によくやってくれた。今夜は祝宴だ!」


群衆の中に、アイラの姿を見つけた。彼女は少し離れたところから、安堵の表情で私を見ていた。目が合うと、彼女は小さく微笑んで頷いた。


「お疲れさま」彼女は近づいてきて言った。「無事で良かった」


「ありがとう」私は「ブルーリターン」を見せた。「この武器のおかげだよ」


「素晴らしいわ」彼女は武器をじっと見つめた。「あなたとトーマス、素晴らしいコンビね」


その夜、村の広場では盛大な祝宴が開かれた。テーブルは食べ物と飲み物で溢れ、音楽が鳴り響き、人々は踊り、歌った。村全体が安堵と喜びに包まれていた。


祝宴の中心には私たちグレイハウンド退治隊がいた。村人たちは次々と近づいてきては感謝の言葉を述べ、飲み物をついでくれる。


「カイト」ガルドが私のそばに座った。「あの武器について聞きたい」


「何でも」


「あれは通常の魔法武器とは違う」彼は真剣な表情で言った。「私は長年、狩人として様々な魔法武器を見てきたが、あのような反応を示すものは初めてだ」


「そうなんだ」


「特に、獣が逃げようとした時のお前の投擲…」彼は少し言葉を探すように間を置いた。「あれは単なる技術ではない。武器が意思を持っているかのようだった」


私は少し考え、言葉を選んで答えた。「この武器は…私のエネルギーと共鳴するように作られているんだ。トーマスの特殊な技術のおかげさ」


「なるほど」ガルドは納得したように頷いた。「それなら理解できる。しかし、その力は大切にしろよ。大きな力には大きな責任が伴う」


「肝に銘じておくよ」


祝宴が進むにつれ、村人たちは私に様々な質問をしてきた。北の地方のこと、旅のこと、そして武器のことなど。私は可能な限り答えながらも、本当の出自については触れないよう注意した。


しばらくして、人混みから少し離れて静かな場所に移動した。星空の下、村の喧騒を少し離れて考える時間が欲しかった。


「一人になりたい?」


振り返ると、アイラが立っていた。彼女は小さなグラスを二つ持っていた。


「いや、ちょっと息抜きしたくて」私は答えた。「でも、君なら大歓迎だよ」


彼女は微笑み、一つのグラスを私に渡した。「お祝いに」


「ありがとう」


私たちは静かに飲み物を楽しみながら、夜空を見上げた。


「これからどうするの?」彼女が突然尋ねた。


「どういう意味だい?」


「グレイハウンドは倒した。村の危機は去った」彼女は静かに言った。「あなたは旅人だから…いつか旅立つんでしょう?」


その質問には準備ができていなかった。確かに、私はこの村に長くいるつもりはなかった。観察者の言っていた南東の転移者のことも気になる。そして、王都についても知りたい。


「そうだね…いつかは旅を続けることになるだろう」正直に答えた。


「わかってるわ」彼女は寂しそうに微笑んだ。「最初からそうだって」


「アイラ…」


「気にしないで」彼女は手を振った。「私は理解してる。あなたには行くべき道がある」


彼女の成熟した理解に、私は感謝の気持ちでいっぱいになった。


「君は素晴らしい人だよ、アイラ」


「あなたも」彼女は夜空を見上げた。「私もいつか旅に出るかもしれない。ずっと考えてたことなの」


「どこへ行きたい?」


「王都…花の谷…海…」彼女の目が輝いた。「あなたの話を聞いて、もっと世界を見たくなったの」


「きっといつか行けるよ」


「そう願うわ」彼女は小さく頷いた。


短い沈黙の後、彼女は言った。「もし…もしあなたが王都に行くなら、私のために一つだけ調べてくれない?」


「何でも言ってくれ」


「王立薬草園について」彼女は少し恥ずかしそうに言った。「そこには世界中の薬草があって、最高の医術を学べるって聞いたの。本当かどうか知りたくて」


「約束するよ。もし王都に行ったら、必ず調べる」


「ありがとう」彼女は心から感謝の言葉を述べた。


その時、突然大きな歓声が上がった。村長が何か発表をしているようだ。


「行ってみよう」私たちは祝宴の中心に戻った。


村長は台の上に立ち、声を張り上げていた。「皆さん、今日は特別な日だ!我が村を脅かしていたグレイハウンドを見事に退治してくれた英雄たちに、村からの感謝の証を贈りたい」


ガルドとリオには、それぞれ名誉の盾が贈られた。トーマスには特別な鍛冶素材と、村の鍛冶職人としての証書が与えられた。


「そして、北からの旅人カイト」村長が私を指名した。「君には村の名誉市民の称号と、これを贈りたい」


村長は小さな箱を開けた。中には美しい銀の指輪があった。


「これは代々、村の守護者に贈られてきた指輪だ。これを身につければ、ウィロウ村のどこへ行っても歓迎される」


私は感動して言葉を失った。「ありがとうございます、村長。この名誉に恥じない行動を心がけます」


指輪を受け取ると、村人たちから大きな拍手が起こった。


祝宴は夜遅くまで続いた。人々は踊り、歌い、笑い、そして未来について語り合った。危機を乗り越えた連帯感が村全体を包んでいた。


宴もたけなわの頃、私はふと夜空を見上げた。満天の星の下、この小さな村での平和な時間。しかし心の中では、次にどこへ向かうべきか、という問いが浮かんでいた。


南東の謎の塔か、王都か、あるいは別の道か。


「ブルーリターン」を手に取り、その青い輝きを見つめながら、私は考えた。


この武器は単なる道具ではない。私の力と繋がり、私の意思を実現する存在。これからの冒険でも、きっと頼りになるだろう。


「さあ、次はどこへ行こうか…」


静かな決意と共に、私は祝宴の輪に戻っていった。今夜は喜びを分かち合い、明日からの旅に備えよう。

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