第4話 メメント
「もうほぼ一日歩いてるんだよね?」コーニが腕で汗を拭いながらぼやいた。「それなのに、いまだに名前も言わないなんて。」
カインは立ち止まらなかった。時のない影のように前へ進んだ。足元の砂はきしみ、背後の太陽は彼らを追い立てるように照りつけていた。
「カイン。」彼は低い声で答えた。
コーニはくすりと笑った。
「カイン… 似合ってる。」
コーニは何か言いかけたが、その瞬間、空気が震えた。前方の砂が柱のように舞い上がり、地平線の上に門が現れた。
「これは…」彼女は目を細めた。「着いたのか?」
カインはうなずいた。
「メメント。」
街は腐った歯のようにそびえ立っていた。黒く焦げた石、まるで魔法で焼かれたようだ。門の上にはかすれた文字があった:
「覚えているうちは覚えていろ。売れるうちに売れ。」
コーニは立ち止まった。
「なんて挨拶だ。」
カインは門を見つめていた。黙って。
「ここは一体、どんな街なんだ?」彼女が尋ねた。
彼はすぐには答えなかった。
「記憶の神の街。コフィオナ。」
「冗談言いたい?それともこう言えばいい?『これは地獄だ』って。」
彼らが街に足を踏み入れたとき、暑さがべったりとまとわりついてきた。異様な匂いが漂っていた――灰、乳香、汗、そして安物の香水が混ざった臭い。人々は街をふらふら歩きながら笑ったり、叫んだり、泣いたりしていた。目がガラスのように輝いている者もいれば、異常に生き生きとした目をしている者もいた。まるで他人のように。
道の角ごとにテントが立っていた:
「初恋!」
「母の微笑み!」
「敵の死!」
「抱擁の喜び!」
コーニは足を止め、歩みを遅くした。
「これ、まるで薬物中毒者の巣窟だ。人類の終焉みたい。」
「その通りだ。」カインは静かに言った。
彼らは路地に曲がった。家々の影が焼けつくような日差しから逃れる助けとなっていた。通行人はほとんど無言で歩き、まるで言葉を忘れたかのようだった。しかし、一人の乞食の老人が、カインを見つめながらささやいた:
「俺…俺は…覚えている…」
カインは足を止め、振り返った。しかし、老人はすでに影の中に這い戻り、壁のそばに丸まっていた。
「彼、君を知ってるのか?」コーニは眉をひそめた。
「いや。」カインは答えた。「誰も俺を知らない。俺自身さえも。」
老人は動いた。声はかすれ、べったりとした響きで続けた:
「くれ… コインを…」
カインは黙った。
「コイン一枚くれれば、君が誰か教えてやる! 俺は君を見た… 一つの記憶の中で…あの子の中で。彼女は笑っていた… それとも叫んでいた… 思い出せない…」
老人の袖から空の瓶が落ちた――ガラスのカプセルで、その底にはピンク色のエリクサーの残りが揺れていた。
「これは?」コーニは顔をしかめた。
「記憶だ。」老人はかすれた声で言った。「抱擁。九秒。たった九秒…それが俺が許されたもの。」
老人は近づいてきて、砂に湿った跡を残しながら這ってきた。カインのマントの端にしがみつき、歯で糸を引き抜いた。
「くれ… くれ、ほんの一滴でも! 君の痛みを取る! 君の記憶を取る! 君が忘れたくないことを全部! すべて!」
カインは素早くマントを引き剥がした。
老人は後ろに倒れ、魚のように地面で暴れながら、空気を引っ掻いた。
「忘れたくないのか?! 馬鹿者! 馬鹿者! ここじゃみんな売ってるんだ! みんな! すべて! すべて!」
老人はもう彼らに向けてではなく、空に向かって叫んでいた。そして誰の声も届かなかった。
カインは無言で歩き続けた。
コーニは数歩で追いつき、その顔は硬直していた。目は冷たく。
「これが君のメメントか?」
「これが、過去のために生きるってことか?」
カインはすぐには答えなかった。
「いや。」ようやく彼は言った。「これが、何も残っていない時に残るものだ。」
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