第5話 忘却の都市

「昔々、記憶を吸い込む神、コフィオンは天から降りてきて、こう提案した:


— 幸せな記憶を一つくれれば、金の山を与えよう。


一人の男が同意した。次にもう一人。次に街全体が。


彼らは金持ちになった。しかし、不幸になった。


なぜなら、喜びの記憶がなければ…幸せは存在しないからだ。


それから彼らは他人の記憶を買い始めた。たとえ一瞬でも。ほんの少しでも――再び喜びを感じるために。


だが、その記憶は残らなかった。それは夢のように消え去った。


人々は依存し始めた。


今、メメントは、誰も覚えていない記憶の街だ。


幸せの麻薬中毒者たち。


泥、金、貧困、そしてコインで買われた笑顔。


そして、コフィオンは高みから見下ろしている。


彼はすべてを覚えている。」


街は獣のように息をしていた。重く、かすれた呼吸のように。


通りは腸のように曲がりくねり、それぞれに独自の匂い、声、痕跡があった。


コーニは隣を歩きながら、ゴミを蹴飛ばし、静かに口を鳴らしていた。


「ねえ、」彼女がついに言った。「お前、ずっとそのクソみたいなフードをかぶってて暑くないの?」


カインは答えなかった。


「それとも、誰かに顔を見られて、怪物だと思われるのが怖いのか?」


彼はほんの少し歩みを緩めた。


「お前はもう決めたんじゃないか?」


「まだ考え中だな。」彼女は笑った。「ここの連中、半狂乱だから、ドラゴンがスリッパを履いてても誰も気づかないだろう。」


カインは振り向かなかった。


「お前、なんでこんな街に来たんだ?」彼女は少し後に続いて聞いた。「人混みが好きじゃないみたいだけど。」


「誰かを探している。」彼は短く答えた。


「女か?」


カインは何も言わなかった。


「男か?」


彼は彼女を一瞥した。コーニは鼻を鳴らした。


「わかったわかった。どうでもいい。大事なのは、ここに来たのはただの見物じゃないってことだ。」


彼らは市場の外れにたどり着いた。焼け落ちた看板と空っぽの目をした商人たちの中に、老人が座っていた。彼の目は白い膜で覆われていた。周りには巻物、焦げた布切れ、歪んだ線、インクのしみが散らばっていた。


「地図だ。」彼はささやいた。「本物だ。通りの地図じゃない。記憶の地図。」


カインは立ち止まった。


「古い住宅街を探している。」


「どの街だ?」老人が尋ねた。


「グリーン・ストリートの街。」


「じゃあ、それはお前には必要ない。」盲目の老人は言った。「何も残っていない。」


カインは黙っていた。


「もう思い出すこともない。あそこはゼロになった。コフィオンにはもう力がない。すべてを奪われた。足跡さえも。」


「誰から奪われた?」


老人はにやりと笑った。


「売ることを拒んだ者たちからだ。彼らは消された。忘却が誇りに対する代償だった。」


彼は紐で縛られた巻物を差し出した。


「これだ。お前の地図。削除される前に書かれた最後の地図だ。」


カインはコインを盃に入れた。


老人はそれに触れなかった。


「お前は結局、そこにいた者を見つけることはないだろう。ただの影だけだ。」


「おいおい、」コーニが目を細めて言った。「彼、盲目だよ。どうやって地図を書いたんだ?」


「この街の全員が、富の誘惑に負けたわけじゃない。」老人は答えた。「私は盲目だが、記憶を使って地図を書いている。忘れたくないから。」


カインはうなずいた。


「ありがとう。」


彼らは去った。


日が沈むと、彼らは半壊した建物の中で避難所を見つけた。かつてのホテルだ。床はひび割れており、天井はすすで汚れていた。壁の向こうでは叫び声とうめき声が聞こえ、時折笑い声や遠吠えも聞こえた。


カインは窓のそばに座っていた。地図が前に広げられている。コーニは隣で毛布にくるまり、目を半開きにしていた。


「本当にこの街で誰かを見つけられると思っているのか?」彼女が尋ねた。


「約束は守るべきだと思っている。」


「それって、もしその人がもう死んでたとしても?」


カインは答えなかった。


彼はただ、窓の外を見つめた。曇ったガラス越しに、街は静かに死に続けていた。


コーニはそれ以上何も言わなかった。すぐに眠りに落ちた。


夜は黒かった。


カインは眠らなかった。窓のそばに座り続けた。胸の中で何かがうずいていた。痛みではない。恐怖でもない。何か別のもの。彼と共に息をしている空虚のようなもの。


彼は物音を聞いた。


ささやき。


ひび割れる音。


影。


隣の建物の屋根の上に、一つの人影が立っていた。黒く、高い。


人間かどうかはわからなかった。


その影は、まっすぐに彼らを見ていた。


カインは動かなかった。ただ、目をそらさずに見返した。


影は動かなかった。


そして、消えた。


コーニは冷気で目を覚ました。


「まだその窓の前に座っているの?」


彼は答えなかった。ただ、こう言った。


「行こう。」

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