第6話 こっくりさんのスマホ

ねえ、知ってる?


スマホでこっくりさんができるって、聞いたことある?


アプリを開いて、「はい」「いいえ」を画面に並べて、指を置くだけ。

質問をすると、勝手に指が動くんだって。


でも、気をつけて。

答えをもらうたびに、少しずつ、大事なものが削られるらしい。


——たとえば、君の“時間”とかね。



ヒナタは受験勉強に疲れていた。

友達も、スマホも、全部が遠く感じた。


そんな夜、ネットで見つけた「こっくりさんアプリ」。


怖いもの見たさでダウンロードした。

試しに指を置き、訊ねた。


「志望校、受かりますか?」


画面の上で、指がスッと「はい」のほうへ動いた。


少し、安心した。ほんの少しだけ。


けれど、その日から、何かがおかしくなった。

集中しているはずなのに、気づくと夜になっている。


勉強時間が、どんどん短く感じる。

頭の中も、ぼんやりする。


時間が——抜けていく。



「……これ、語ったら、どうにかなりますか?」


久遠の店のカウンターに、ヒナタは座っていた。


外はすでに夜だった。時間の流れが信じられないくらい速く感じた。


久遠は静かに微笑んだ。


「語れば、記録される。君を縛る怪異は消えるだろう。

ただし代償は——君の自由な時間だよ。」


自由な時間。


ヒナタの心がぐらついた。


自由な時間なんて、もうほとんどないのに。

これ以上失ったら、好きなこともできないかもしれない。


ゲームも、読書も、ぼーっとする夜も。


「……怖いです。」


ヒナタは小さな声で言った。


久遠はただ静かに、焚き火のような光の中で見守っていた。


「でも」


ヒナタは、かすかに唇を噛み、言った。


「でも、今度は、自分で未来を決めたいんです。」


そう言って、覚悟を決めた瞬間。


久遠が、カウンターの下から小さな紙を取り出した。


そこには、手書きの「はい」「いいえ」と書かれた簡単な図が描かれていた。


「最後に、ちゃんと送り返そう。これは……“おかえりください”の儀式だ。」


ヒナタは驚いた顔をした。


「やるんですか……ここで?」


久遠は静かに微笑んだ。


「語った以上、最後まで、きちんとね。」


スマホの画面を開き、紙を乗せる。

二人でそっと、指を置く。


——こっくりさん、おかえりください。


静かに、心の中で唱える。


すると、スマホの液晶がふっと暗くなり、

画面の「はい」「いいえ」が、溶けるように消えていった。


まるで、最初から何もなかったみたいに。


ヒナタは深く息を吐いた。


スマホはただのガラス板みたいに、静かだった。


もう、問いかけるものはない。



「スマホって、ほんとヤバいっすねー」


チカゲがぼそっと言った。


「ずっと見てるだけで、時間もってかれてるっす。

オレも気づいたら一日終わってるもん」


久遠は静かに頷いた。


「時間は、音もなく盗まれる。

気づいた時には、もう取り戻せない。」


チカゲはスマホをひょいと掲げて笑った。


「SNSもさ、現代版こっくりさんっすよね。

『いいね』押すたびに、何か失ってる気するっす!」


久遠は、ほんの少しだけ笑った。


今日の怪異は、記録された。

それは、**見えない“時間泥棒”**だったのかもしれない。

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