第6話 こっくりさんのスマホ
ねえ、知ってる?
スマホでこっくりさんができるって、聞いたことある?
アプリを開いて、「はい」「いいえ」を画面に並べて、指を置くだけ。
質問をすると、勝手に指が動くんだって。
でも、気をつけて。
答えをもらうたびに、少しずつ、大事なものが削られるらしい。
——たとえば、君の“時間”とかね。
*
ヒナタは受験勉強に疲れていた。
友達も、スマホも、全部が遠く感じた。
そんな夜、ネットで見つけた「こっくりさんアプリ」。
怖いもの見たさでダウンロードした。
試しに指を置き、訊ねた。
「志望校、受かりますか?」
画面の上で、指がスッと「はい」のほうへ動いた。
少し、安心した。ほんの少しだけ。
けれど、その日から、何かがおかしくなった。
集中しているはずなのに、気づくと夜になっている。
勉強時間が、どんどん短く感じる。
頭の中も、ぼんやりする。
時間が——抜けていく。
*
「……これ、語ったら、どうにかなりますか?」
久遠の店のカウンターに、ヒナタは座っていた。
外はすでに夜だった。時間の流れが信じられないくらい速く感じた。
久遠は静かに微笑んだ。
「語れば、記録される。君を縛る怪異は消えるだろう。
ただし代償は——君の自由な時間だよ。」
自由な時間。
ヒナタの心がぐらついた。
自由な時間なんて、もうほとんどないのに。
これ以上失ったら、好きなこともできないかもしれない。
ゲームも、読書も、ぼーっとする夜も。
「……怖いです。」
ヒナタは小さな声で言った。
久遠はただ静かに、焚き火のような光の中で見守っていた。
「でも」
ヒナタは、かすかに唇を噛み、言った。
「でも、今度は、自分で未来を決めたいんです。」
そう言って、覚悟を決めた瞬間。
久遠が、カウンターの下から小さな紙を取り出した。
そこには、手書きの「はい」「いいえ」と書かれた簡単な図が描かれていた。
「最後に、ちゃんと送り返そう。これは……“おかえりください”の儀式だ。」
ヒナタは驚いた顔をした。
「やるんですか……ここで?」
久遠は静かに微笑んだ。
「語った以上、最後まで、きちんとね。」
スマホの画面を開き、紙を乗せる。
二人でそっと、指を置く。
——こっくりさん、おかえりください。
静かに、心の中で唱える。
すると、スマホの液晶がふっと暗くなり、
画面の「はい」「いいえ」が、溶けるように消えていった。
まるで、最初から何もなかったみたいに。
ヒナタは深く息を吐いた。
スマホはただのガラス板みたいに、静かだった。
もう、問いかけるものはない。
*
「スマホって、ほんとヤバいっすねー」
チカゲがぼそっと言った。
「ずっと見てるだけで、時間もってかれてるっす。
オレも気づいたら一日終わってるもん」
久遠は静かに頷いた。
「時間は、音もなく盗まれる。
気づいた時には、もう取り戻せない。」
チカゲはスマホをひょいと掲げて笑った。
「SNSもさ、現代版こっくりさんっすよね。
『いいね』押すたびに、何か失ってる気するっす!」
久遠は、ほんの少しだけ笑った。
今日の怪異は、記録された。
それは、**見えない“時間泥棒”**だったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます