第5話 ゲンとアイク

ゲンはゾーンBを締め出されたが、幸いゾーンAはゾーンBとさほど変わらなかった。

北に行けば寒くなったし、南に行けば暑くなった。

ゲンはゾーンAで、数年間フラフラと出歩いて旅をした。

金はいつも、短期の手伝いで稼いだ。


そうしているうちに、ゲンはやがてアイクを見つけた。

ゲンはアイクを見た瞬間、アイクがアンドロイドであると確信した。

ゾーンBの人間は、アンドロイドに特有である虹彩の反射を見分けられたのだ。


アイクという名のアンドロイドの居場所の隣に住んでいる老婆は、ゲンに言った。

「アイクはねぇ、いい人だよ。

 こんなおいぼれとも話してくれるしね、ほら、そこの子供とも遊んでくれてたんだよ。旅人さんよ、よかったら彼と話してごらん」


出された茶を飲みながらよくよく話を聞けば、アイクはこのあたりに住み着いてから、少なくとも13年は経っていた。

ゲンの知識のかぎり、安全期限はとうに越しており、アイクは要回収の危険アンドロイドだった。



「やあ、元気かい」

ある日の朝、ゲンは家の小さな畑に水やりをしているアイクに話しかけた。

アイクは微笑んで答えた。


「元気だよ。暖かくなってきたから旅人さんがきたのかな?」

「うん、そうかもね。いろんな地域をまわってるんだ。」


「へえ、いいなぁ。僕もそんなふうに旅をしてみたいと思ったことはあるけど、やっぱりお金の問題もあるし、この家を気に入ってるしね。なかなか難しいや」


「よかったらいろんなとこの話をしてあげようか?」

ゲンは畑のそばにあった大きな石に腰掛けて、楽しそうに足をぶらぶらした。

「いいの?」

アイクは水やりを止めてゲンを見た。


「もちろん。面白い話いっぱいあるよ」

「ほんと?じゃあそこで話そうよ。ちょうど一昨日くらいに買った、いい紅茶があるんだ」

アイクは庭先の長椅子を指差した。

小さなテーブルも置いてあった。


「うん。待ってる」

ゲンは立ち上がってそこに座った。

「水やり終わったら準備するね!」

ゲンが声を弾ませたアイクを見ると、心なしかその瞳は輝いているように見えた。

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