第6話 ゲンと人間

ゲンはアイクに、いろいろと旅先での話を話した。

海藻が美味しい漁村、夜も眠らないような繁華街、賑やかなのに1日に1本しかバスが来ない町・・・。

アイクは特に西の方の話が好きなように、ゲンの目には写った。

だから沢山、西の方の話をした。


翌日、ゲンはアイクに家へ入れてもらった。

「嬉しいなぁ。このごろね、紅茶の検定っていうの?なんか資格があるみたいだからとってみようと思ってるんだ。

 美味しい淹れ方を教えてくれるなんて、旅人さんは相当たくさんの国を・・・」


ジジ、と音がして、一瞬ののちにアイクは崩れ落ちた。

ゲンは背後から、アイクの首元にスタンガンをあてていた。


ゲンはアイクのバッテリー部分を壊し、記憶を蓄積する媒体を破壊した。

アイクと名のつけられた人型アンドロイドは壊れ、その記憶によって構成されたアイデンティティと独自の進化を遂げた人工知能は完全に修復不可能となった。



その話が出回るのは早かった。

ゲンが悪びれもせず、周囲の人間にこう言ってまわったからだ。

「アイクは人型のアンドロイドなんです。だからあれはどんなに人に似ていても、人じゃない。

そして人工知能が人権を無視した危険な意見を出し始める目安は、製造から10年です。あのアンドロイドはそれを大きくこえていました。

ですから処分対象だったんです。」


ゲンはアイクという人間を殺した第一容疑者となった。

いや、正しくはゲンは、アイクという善良な人間を殺害した、誤作動を起こしたアンドロイドとして扱われた。

親愛なる隣人を失った人々にとって、納得できる筋書きはみな同じだった。


かつてアイクの家の隣に住み、子供時代はアイクと一緒に遊んでいた大学生の顔からは笑顔が消えた。

晴れた日によくアイクと他愛もない話で笑っていたお婆さんは外に出なくなった。

アイクの家の前には、地域の住民達によってアイクがよく買っていた飴と五目ごはんの素が山になった。


ゲンはアイクを壊した日、床下に壊れたアイクを埋めていた。

自然分解がされるのかどうか、ゲンにはわからなかったが、アンドロイドの処分方法なんて回収に来てもらう以外に知らなかったから、埋めた。

正しい方法で処分をしなかったことに後ろめたさを感じたゲンは、そのことは言わないでおいた。



ゲンは「アンドロイド管理委員会」とポップに書かれた回収車にのせられた。

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