第10話:エヴォピンク(Ⅲ)

 超空間転送のスパークで俺は目覚めた。その後人の声、女の人、聞き慣れた声。

転身解除リバース


 転身? イバラニア様!?

「はぁ~もう残業やだぁ~。こんな時間になっちゃった、まだ積みゲー残ってるのにぃ」

「イバラニア様!」


 俺は思わず物置小屋を飛び出した。

「だれ、ですか?」


 何時も見慣れたジャージ姿。だが仮面はつけていない。何と素顔!! そして想像通りの超弩級美少女だった。あの御方が目の前にいらっしゃる。


 男の人生の半分は「最高の女と出逢う為」。どっかのお偉ーいユーチューバーが言っていたような気がする。


 だが、俺は確信していた。今がその時!!

「イバラニア様?」

「え!? ええっ! キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」


 ジャージ姿、超弩級美少女の叫び声。そりゃそうだ、俺はパンツ一丁、どう見ても変質者だ。

「貴方様はイバラニア様なのですか!」


 だが俺は、我を忘れて、ジャージ姿の美少女に迫った。息を荒くし、目を血走らせ、正に変質者の如く美少女に迫る。目の前には夢にまで見た……


「俺は、いえ俺め……私めは貴方様の忠実なる……」

「え~と、それは……言っちゃダメな事で……え~とわたくしは『ヴィオレット・アレキサンドリア』ですぅ。断じてイバラニアとかいう魔幇の……」


 しどろもどろになっている。思わず名前を名乗ってしまうジャージ姿の超弩級美少女『ヴィオレット』様。メチャクチャ可愛い。

「殺気!!」


 背後から、かつて感じたことのない様な物凄い殺気。

「お姉様から離れなさい」


 背後からロザリー。短パン&Tシャツ。ダサい眼鏡にポニーテール、普段はコンタクトを使用しているらしい。


 古代文字、筆文字で前が「婚」背中は「活」。色使いというか何というか、残念なセンス。何処の最高級ブランド? ってかロザリー意味わかってんのか? 俺の制服を手に持っている。


 どうやら処分しなかったようだ。


 だがワナワナと震えている、暴力系ヒロインの大定番、全身怒りオーラ。髪の毛がウネウネと逆立たせ、手をボキボキと鳴らしている。


 ロザリーはそのままパンチ&キックの連続攻撃。俺は功夫マスターの如く、ことごとく攻撃を躱す。どうやら俺達は拳で会話する事の方がお似合いのようだな。

「お嬢様!」

「お嬢様!」


 背後から、大勢の使用人達がやってくる。警備用レーザー銃が起動。俺、絶体絶命。

「やべえな、脱出だ」


 冷静に周囲を見渡す、一番防御の薄そうな脱出ルート。そこだ! 俺はロザリーの方に向かって突進。そのまま彼女を押し倒した。


 俺とロザリーは見つめ合う。近付く顔と顔。俺はロザリーの耳元で囁いた。

「何を!」

「ロザリーサンキュ。愛してるぜ」


 俺はロザリーの頬に軽くキス。

「え? なぁ!」


 ロザリーは一瞬真っ赤になって硬直、その隙をついてロザリーから服を奪い取る。

「またな、正義のお仕事、頑張れよ」


 そのままレーザー銃の攻撃を、怪盗ルパンが如く躱し、躱し、また躱し、使用人達のタックルを躱し躱し逃げまくる。

「お待ちなさい! 先刻さっきの言葉どう言う意味ですの?」


 俺を追いかける、ロザリー怒りに震えてる、さすが暴力系ヒロイン、頬を真っ赤に染めながらも尚、殺意バリバリのいい顔してるぜ。

「待ちなさい! さっきの言葉、取り消しなさい」


 ロザリーのタックル、そのまま俺のパンツを掴んでしまう。

「じゃぁーなお嬢ちゃん。また次の戦場ネクストステージで」

「は!? 何言ってるの」


 パンツが脱げてしまい、勢い余って尻餅をつくロザリー。俺は全裸のまま、城壁をよじ登った。城壁のてっぺんで振り返る。股間が眩しく輝いた。 

「何見せてんのよーーーーっ!」


 全裸攻撃は最強。ここにいる全員が一瞬怯んだ。女子達は顔を覆う。

「ハッハッハッ。ロザリー、これでおあいこだな、また逢おうぜ」


 全裸学生の俺はそのまま、壁を飛び越え闇の中へ消えていった。

「大丈夫、ロザリーちゃん」


 ロザリーの姉、ジャージ姿のヴィオレットが妹に駆け寄る。

「え、ええ、大丈夫、うん大丈夫、多分。でも何か、何か凄く……」

「あの人誰なの?」


 ハッとなるロザリー。

「庶民! あっ。し、知らない……そう言えば、わたくし、名前を聞くの失念してしまいましたわ。何者なの? 彼は、わたくしの事どう……」

 ロザリーは俺の去って行った壁をずっと見つめ続けていた。


 俺はステーションに向かってひた走る。全裸かって? ちゃんと途中で服着たよ、寒いし。でもパンツ履いていないんで多少違和感有。


 今日の月は一際大きく蒼くて美しい。月を背景にひた走る俺。

「腹減ったな」


 そう言えば昼、ショボいロケ弁喰ったきりだからなぁ。

「まぁーいいか」


 アイランド7の中央駅ステーションに到着。

「転身! キィ!」


 俺は『準戦闘形態アクティブモード』に変身した。ダークスーツ姿サングラス、帽子。ギャング&マフィアスタイルと言われる形態だ。


 俺達戦闘員は状況に応じ、混沌作戦カオスミッション時等、主に戦闘中の形態『戦闘形態バトルモード』。


 そして一般業務や作業、一部混沌作戦時にも使用される『準戦闘形態アクティブモード』。


 召集を待つ、一般市民待機状態時の『NPC形態エキストラモード』の三形態があった。


 そして戦闘形態、準戦闘員形態であれば、大抵の駅、裏口にある公然の秘密、「魔幇関係者専用路線」を無料タダで使用することが可能だった。俺達戦闘員裏技の一つだ。

「キキイ!」


 俺は秘密列車に乗り、自宅アジトがある島1号(アイランド1)へ向かう。島を出て、海底内、海中の透明パイプ内をひた走るリニアモノレール。


 電車内は準戦闘形態の同僚達や、戦闘形態の戦友達が思い思いの時間を過ごしている。今から仕事に向かう者、帰宅する者。ご苦労様。


 眠い、俺は電車内で居眠りしながら帰路につく。まぁ今日の出来事は多分夢だ、混沌作戦後、リニアモノレールの中で見た夢だ。


 ボーイ×ミーツ×ガールなんてある訳がない。俺はただの兵卒ソルジャー、最悪最弱の魔幇戦闘員。


 明日になればまたどっかの戦場ステージ。俺は明日、消え去るかも知れない。そうだ、俺は命令されるままに戦う、心を持たない戦闘兵器なのだから。


 ★★★アイキャッチ!★★★





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る