第3話:カオスミッション(Ⅰ)

 窓枠の外は真っ青な海、そして晴れ渡った空。俺はずっと外の風景を見つめ続けていた。リニアモノレールと競うかのように数羽、カモメが飛んでいる。


 波静かな海、リニアモノレールが海面に映り込んでいる。ん~っ、絶好のロケ日和だ。


 俺は、「キィ」と独り言を呟いた。

「……もう、辞めたい」


 当然、俺の呟きなんぞ誰も聞いちゃいねえ。リニアモノレールの窓枠によって縁取られた風景をぼんやりと眺め続ける。


 リニアモノレールの目的地は新人類時代オーバーエイジ平和の象徴、建設中の「軌道エレベーター」。


 海と空と水平線の彼方、雲間に霞む軌道エレベーター、海上を島に向かい延々と続いているリニアモノレールの軌道、うん、絶景だよな、絶景。でも飽きた。


 仲間が自撮画像をSNSにアップしている。長閑。でも……俺は再び「キィ」と呟いた。

「もう帰りたいです」


 軌道エレベーターが建設されている島0号(アイランド0)と、首都島(アイランド1)を結ぶ海上路線、俺達は軌道エレベーターに向かっていた。


 俺は只々窓の外を眺め続けていた。それが任務。俺は「キィーーッ!」と叫んだ。

「最悪だ!」


 今回の混沌作戦、簡単に説明すればリニアモノレールを占拠ジャック。乗客はいわば人質。


 これだけ多くの人質がいれば奴等、「神聖戦隊エヴォレンジャー」も容易に手出しすることは出来ないだろう。


 最終的に爆薬を満載したリニアモノレールごと軌道エレベーターに突入させれば作戦は無事終了である。


 悪の秘密結社らしい凶悪な作戦だ。クククッ。


 ああぁ。誤解しないように説明するけどな。俺達は無賃乗車なんていう違法行為はしていないぜ。


 今、俺の手には今回のロケ用(?)の団体割引された切符が握られている。




『解説(Explanation)』

 『M・I・C魔幇マフー』は平和な新人類時代ニューエイジに破壊と混乱を巻き起こす悪の秘密結社である。



 過酷な任務が続いている。でも俺達は辞めることは愚か、逃げ出すことも抗議することも許されていない。命令に従い粛々と無謀な任務を遂行していく。


 俺の全て、血の一滴まで全て悪の秘密結社「M・I・C魔幇マフー」の所有物だ。


 俺達は「悪の組織」の為に生みだされ、そして「悪の組織」大いなる野望達成の為に散っていく……孤高のソル……ジャ……「おっぱい♡」


 俺は「おっぱい♡」という単語に反応! 衝撃波ソニックムーブが発生するほどの勢いで振り返った。


 甘く官能的な声が聞こえる。

「こらぁ~っ、ソコォ触っちゃだぁ~~~~めっ。もう、エッチなんだからぁ」

「こんなにタテちゃダァ~メェ。みんなが見てるわよっ」

「もう……ここ、元気過ぎなんだからぁ、今日は何回もしちゃったでしょう」

「ここはぁ、お利口さんにしてなきゃ……ダ・メ・ヨ」


 み、見えない、「!」、哨戒位置が悪い、悪すぎる! 肝心な「あの御方」が見えない!! あの御方は一体ナニをされているのか!?


 命令された哨戒位置を離れる事は許されない。俺は目、目線だけ動かし何とか「あの御方」、『イバラニア様』を覗き見ようとする。それでも見えない! クソッ。折角の……


 誰かが俺の肩をポンと叩いた。大先輩、A106号。「キィキィ」と会話。

「よっ、新入り」

「オヤッさん!?」


「まぁ~なんだ、俺と哨戒位置変らないか?」

「位置を?」

「実はさぁ、俺は海……コッチの風景を見たいんだよね。週末さぁ、海釣りに行く予定なんだよ。だから下見とかしとかしときたいの」


 ふむ、成程。俺は大きく頷いた。

「『R079号』君は山、こんもり盛り上がってるアッチの風景方が良いんだろ?」


 オヤッさんニヤリと笑った、気がする。仮面の為表情は解らない。そしてアッチの風景、そうだイバラニア様を見つめる事が出来るベストポジションだ。歓喜キイ


「オヤッさん!」

 オヤッさんは上官に哨戒位置を変えてもらうことを進言、許可が下りる。

「よ! こっち来たのか」

「まあな」


 俺は同輩、『T154号』と魔幇式敬礼で挨拶を交わす。ガッチリとした筋肉質体型。見た目通り、性格もバリバリの体育会系だ。


「ゴホン。R079号君、カオスミッションはイバラニア様鑑賞会じゃ無いですよ。ちゃんと哨戒任務を続けなさい」

「へいへ~~い」


 嫌みったらしく俺に説教したのは『T117号』。ガリガリ細身でヒョロリ高身長。A106号と同じ最古参の大先輩。


 混沌作戦には毎回約二十~四十名の兵士ソルジャーが参加している。全員同じ戦闘服バトルスーツを着用しているが、なんだかんだ言って皆個性的な連中だ。


 おっと、哨戒任務、哨戒任務っと……俺は哨戒任務を遂行しながら、視線はイバラニア様に釘付けロックオン


 幼児達は中学生時代の体操服と噂されているジャージ姿の超弩級美少女に群がっていた。どうやら「あの御方」は幼児達と戯れていたようだ。


 ジャージ&マスク姿の超弩級美少女、今回の混沌作戦カオスミッション指揮官、『妖魔神官 イバラニア』様だ。

「お姉ちゃん抱っこ」

「やだぁ、ドコ触ってるの?」


 無邪気な幼児達、子供の小さな手がジャージからでもはっきりとわかってしまう巨大な胸(ビックマウンテン)を触っている。オノレェ餓鬼共がぁ。

「お姉ちゃんとってもキレイ、おっぱい大きい、良い匂い」


 同意だ。イバラニア様はスタイルが抜群過ぎる。初登場(Evolution:02)、如何にも悪の女幹部らしい大胆かつ色香漂う紫半透明バイオレットシースルー基調の「混沌作戦用正装」姿は未だに俺の脳内フォルダに完全永久保存されている。


 小さな女の子がイバラニア様の胸に顔を埋める。俺は、見ている事しか出来ない。やんちゃな男の子が電車内の廊下を歩き回る。

「ソコォ~、タッちゃだめでしょう、危ないから」

「もう、何回も積み木遊びしちゃったでしょう、元気すぎぃ」


 普段は地味なジャージ姿なのはなんとも惜しい、だが……ダッセー中学ジャージ姿ですら、イバラニア様の色香フェロモンを閉じ込める事は不可能なのだ。


 僅かな隙間、チラリと見える白い肌から色香フェロモンが漏れ出している。


「すみません、遊んでもらっちゃって」

 幼稚園児の引率者らしい保母、おばさん達は済まなそうにイバラニア様に謝罪した。


「いいえ、わたくしぃ子供大好きですから、ねーっ」

「ねーっ」


 イバラニア様は天使のような笑顔、目元は仮面マスクによって隠されていてもジャージ同様その美しさを覆い隠すなど到底無理な話し。


 幼児もニッコリと笑っている。子供と戯れ笑顔の方が、悪の女幹部よりずっとお似合い。まさに美の女神ミューズの如し。


 無邪気な幼児達と戯れるジャージ姿の超弩級美少女、幼稚園児と美少女のコラボレーション。


 保母さんはイバラニア様との2ショット画像や幼児達と戯れている動画をSNSにアップしている。チョー羨ましい! 


 俺は脳内イバラニア様フォルダに記録する事しか出来ない。当然ながら、俺等は2ショット写真は愚か、イバラニア様を撮影する事など許されていないのだ。


 幼児とイバラニア様を撮ったSNS、後で必ず検索保存するぜ。

「お姉ちゃんボクと遊んでぇ~」

「はいはい」

「ボクと、ボクとぉ」

「オレノオンナニナレヨ~」

「はいはーい」


 幼児達は無邪気&容赦無くイバラニア様の御身体に密着している、ジャージ内でぱいんっ♡ ぱいんっ♡ と揺れるオッパイを弄っている。許せん!! 


 俺等なんて大幹部には近づく事すら許されていないんだぞ!! それを易々と、俺は心の中で血涙を流した。幼児相手に嫉妬心剥き出しで邪悪なオーラを放つ。


 まあ良いぜ、この作戦ミッションが成功すれば貴様等乗客ごと爆殺だ、クククッ。


 幼児達と遊んでいるイバラニア様の側には直属の部下達、見事なターンA髭の執事とおっぱいの大きさが違う双子メイド。某大人気ラノベのパチモンと密かに噂されている。


 直立不動の執事、幼児達はジャングルジム代わりに纏わり付いている。メイド二人はイバラニア様を補佐し、幼児達と遊んでいる。


 ともかく、今回の作戦ミッション、指揮官が「イバラニア様」という事だけが救いだった。




『解説(Explanation)』

 魔幇四天王の一人、『妖魔神官 イバラニア』は魔幇総帥(CEO)の意思を組織全体伝える「預言者」「巫女」の役割を担う大幹部。無能な部下を平気で見殺しにする、傲慢で冷酷非情な美しき悪の女幹部である。



 車内スピーカーから車掌独特の口調でアナウンス。

「ピンポンパンポーン。え~っこのリニアモノレールは悪の秘密結社M・I・C魔幇マフーによってに運行されておりまーす。乗客の皆様のご協力よろしくおねがいしまぁ~す。ピンポンパンポ~~~~ン」


 今回の作戦ミッションの為に急遽開発されたと言われている混沌魔人、『車掌魔人』これから何回も使い回されるであろう「量産型混沌魔人」に車掌の制服を無理矢理着せただけ。


 そのやっつけ感がどうしようもなく残念過ぎる結末を予感させてしまう。


 イバラニア様と遊ぶ幼児達、他の乗客達も思い思いの時間を過ごしている。居眠りしている女子校生、おっ、パンツが見えそう。新聞読んでるサラリーマン。


 そして老夫婦。他etc、etc……


 うむ平和な一時だ…………だが、我等魔幇が混沌作戦カオスミッション遂行中ならば、そして此処が戦場ステージであるかぎり、奴等は必ずやって来るのだ。







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