第5話 異世界の男性クリフ
「誰もいないのだろうか。ならば、失礼ながら勝手に使わせていただく」
ど、どうしよう! 放っておいて大丈夫なのかな?
「むっ!? ドアに鍵が……こっちのドアもか」
ちゃんと戸締りしておいて、良かったー!
知らない男性が勝手に住みついたりしたら困るし。
「二階か。失礼! 誰かいないだろうか!」
あぁぁぁ、上がってきたぁぁぁっ!
男性の大声でピーちゃんもビックリしているけど、静かにしてくれているので……うん。面倒な事に巻き込まれて執筆出来なくなるのも困るし、このままやり過ごそう。
「ここも鍵が……ん? こっちは中に人の気配が……失礼。私は、ドレアス王国第二騎士隊のクリフ・レイザムという者だ。一晩、休ませていただきたいのだが、許可をいただけないだろうか」
えぇぇぇっ!? ドアをノックされて、名乗られたっ!
息を潜めていたし、ピーちゃんも静かだったのに、どうして居るってわかったの!?
どうしようかと、そのままジッとしていると、再びドアがノックされる。
「すまない! 道に迷っただけで、怪しい者ではないのだ! 武器も持っていない! 頼む!」
うぅ……物凄く困っている感じだ。
本当はスルーしたいけど、ずっと玄関の前で叫ばれても困るし、神様の結界で悪い人は近寄れないと思うので、ドアガードを掛けて少しだけ扉を開ける。
「あの、部屋は使って構いませんから、静かに……」
「おぉっ! ご協力感謝する!」
ドアの前に立っていた二十代前半といった感じの茶髪の男性、クリフさんが深々と頭を下げると、ぐぅーっと物凄く大きな音が聞こえてきた。
よく見てみると、鎧を着ているけど所々へこんでいたり、欠けていたりとボロボロで、剣とかは持っていなさそうだ。
あと、どんな道を通って来たのか、全体的に汚れている。
「えっと、お腹が空いているんですか?」
「……じ、実は二日ほど、その辺の草しか食べていなくて」
「草……ちょっと待っていてください」
クリフさんが頭を下げたまま、申し訳なさそうにしているので、何か分けてあげる事にした。
だけど、その前にお風呂かな。
ドアガードを開けてピーちゃんと一緒に外へ出ると、二階の反対側の端――一号室の鍵を開ける。
「こっちの部屋を使ってください」
「かたじけない……な、何だこの部屋はっ!? み、見た事ないものばかりなのだが」
「ん? あー、説明するので、そこで靴を脱いでください。土足はダメです」
「しょ、承知した」
クリフさんがカチャカチャと鎧のパーツみたいなのを外したので、まずはお風呂へ。
「このボタンを押すと、お風呂にお湯が張られます。浴槽に栓をしてから押してください」
「何やら変わった素材の風呂……なっ!? お、お湯が出てきたっ!? しかも、大量にっ!?」
わかる。私も、これを見た時は衝撃だったもん。
いつも三十分くらい掛かるお湯張りが数秒で終わるもんね。
とりあえず、快適生活魔法の効果は私の部屋だけでなく、他の部屋にも有効みたいだ。
それから、シャワーの使い方を教えたんだけど、何かする度に驚かれ……ひとまず説明を終えたので、自分の部屋へ戻る。
「石鹸とシャンプーに、タオルと着替えが必要かな。でも、着替えは無理かなー」
私の家の石鹸とかを貸してあげても良いんだけど、使いかけを渡すのはどうかと思う。
買い置きがあったはずだけど……あ、もしかして!
思い付いた事があり、ネットで必要そうなものを注文すると、お急ぎ便を指定してみる。
普通に買うと翌日に届くけど、お急ぎ便なら……あ、すぐに来た!
いきなり玄関にダンボール箱が現れたので、それを持って一号室へ。
湯船に浸かっているのか、水の音が聞こえないので、浴室の扉を少し開き、必要そうな物を中に入れる。
「クリフさん。石鹸とシャンプーにスポンジです。タオルと着替えは外に置いておきますね」
「えっ!? 石鹸!? 風呂まで使わせてもらった上に、そのような高価な物は……」
「あ、そんなに高い物ではないから気にしないでください」
今の反応から、シャンプーが存在しないのかもしれないと思い、使い方を教えてキッチンヘ。
持ってきた箱からペットボトルの水を出し、お皿にパンとサラダ、缶詰のコンビーフに、果物などを並べる。
この世界の人が何を食べるか分からないけど、これだけあれば食べられるものがあるんじゃないのかな?
少しすると、クリフさんが出てきて……突然驚きだす。
「すみません。ありがとうございま……えぇぇぇっ!? こ、この料理はっ!?」
「あ、お腹が空いているという話だったので。食べられますか?」
「い、いただいて良いのですかっ!?」
「はい、どうぞ」
半袖シャツとスウェットパンツ姿になったクリフさんが椅子に座ると、凄い勢いで食べ始めた。
お腹が空いていたからか、特に食べ物は気にならないのかも。
「ぱ、パンが柔らかい!? 野菜がシャキシャキしているし、この旨過ぎる肉は一体何だ!?」
「あの、足りなければ追加で持ってくるので、落ち着いて……」
「し、失礼しました……り、リンゴまでっ!? 新鮮で……甘いっ!? い、一体どれほど高級な食材を……」
いやあの、物凄く感動されているけど、どれもネットで買った普通のものなんですけど。
それにしても、久々の食事だと思うし、この勢いだともっと食べるのだろうか。
「あの、おかわりとかは……」
「良いんですかっ!? ……い、いえ。流石にそこまでは申し訳ないので」
「あ、大丈夫ですよ。ついでに、夕食の分も持って来ますね」
餌付け……という訳ではないけれど、食べ物を出してからクリフさんの話し方がすっかり変わってしまった。
まぁその辺の草を食べていたって言うしね……と、そんな事を考えながら部屋を出ようとしたところで、ふと気付く。
クリフさんの左腕から血が流れている。
「あっ! 血が……怪我をされているんですか!?」
「ん? あー……その、ちょっと枝に引っ掛けてしまいまして。大した傷ではないので、気になさらず」
「枝……ですか。ちょっと待っていてください」
先程と同様に、そのまま食べられるパンやサラダ、缶詰などを中心に、少し多めに注文する。
それから、消毒液とガーゼに包帯も注文して、お急ぎ便に。
ご飯を食べてお腹がいっぱいになったら、後は放っておいてプロット作りに励もうと思っていたけど、流石に怪我人を放置するのはどうかと思う。
届いた箱を手に、再び一号室へ戻る事にした。
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