第22話 太平洋で3

 なんだか知らないがブラジルに連れて行かれて

Aさんは大変な事になった。

船長の責任だったが言い訳ばかり言って話にならない。

彼らに日本語も通じない。


一応、軽い取り調べを警察か軍か、わからないところで受けて

全員、檻に入れられた。

汚い監獄だったそうだ、トイレもあるが水洗ではない。


 食事は水とバナナだけだったそうだ。


翌日、日本大使館の職員さんがいらして取り調べでも

通訳をしてくれた。


その翌日から大使館の方が一人ずつに一万円分の

お金をくれた、ブラジルの金だったが

現地の人達にすれば大金だったそうだ。

そして、夜7時の門限ありで監獄から出て外出が

認められたんだそうだ。

 大金を持って自由となれば・・・

拿捕されたのも忘れて久しぶりの陸地を思い思いに

謳歌したのだそうだ。


ただし、前例のない事件だったので

向こうの行政処分がなかなか進まず、

長くなりそうだったので、みんなの身分証明書が作られて

日本大使館は部屋がたくさんある一軒家を用意してくれて

みなは監獄からでて自由に、まるで下宿でもするみたいな

生活が始まった。


 毎朝、漁船員は全員、大金をもらい、大使館の職員さんは所在確認と

健康状態の確認をしに来ていた。


 そうとなれば金目当ての売春婦たちが毎日10人は家の中をうろついていて、

売春宿そのものになってしまった。


 ある日、1階玄関ドアをノックされてAさんが開けてみると

頭にカゴをのせバナナを山盛りにした少女が来た。

何事か言っているがわからない・・・

どうやらバナナを買ってくれと言っているようだった。


 バナナが大好きだったAさんは60本はあるバナナを

まるごと買ってあげた。

すると

30分くらい経った頃、また誰かが玄関をノックしてきた。

Aさんが玄関を開けてみると

そこにはバナナを山盛り頭に乗せた少女たちが

10人以上集まってきていた。


 さっきの子が多分、バナナが全部売れたと

しゃべって歩いたらしい・・・

「うわ、なによコレ・・・」

集まってきた少女たちに

Aさんは日本語で断ったのだが、何事か激しくまくし立て

怒り出した。

おそらく売れないと親に怒られるとか言ってたんだと思う。


「あぁああーもう、わかったわかった」

金は余る程あったので買ってあげた。

一階の部屋がバナナで歩けないほどになった。


翌朝、大使館の方が来た時に

「もうバナナは買いません」と紙に書いてもらい

玄関に貼ったそうだ。


「面白い話ですねー」

「うん、今思い出すと笑えるよ」

「そのバナナどうしたんですか?全部食べたんですか?」

「いや・・・少しずつ何回か外に持って行って

通りすがりの女の人や子供たちに配って歩いたよ」

「はぁーなんか変な感じですね」

「うん・・・そのあとな・・・」


その様子を見ていた現地の不良に目をつけられ

Aさんは強盗に遭う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る