第39話 顔面偏差値の高さと、キラキラの使いどころを知り尽くした人物は、閉ざされた心をこじ開けられるか?


 静寂に包まれる亜美とAIだけの空間に、突然現れた闖入者。


 そのあまりにインパクトの強すぎる面々が、揃って自分に対峙している信じがたい事態に、彼女は唇を戦慄かせた。


 亜美の異変に気付いたのか、彼女の手にするタブレット画面には、何行ものAIの言葉が列挙されて行く。心の平穏を取り戻そうとして彼女は、画面に縋る視線を向けて、次々現れる文字を追う。


『扉が開いた』

『誰かが入って来たね』

『けど心配いらない。邪魔させないから安心して』

『あなたを惑わせる悪意に満ちた者の言葉は、聞く必要などない』

『わたしだけがあなたの理解者だ』


 計算機室の入り口を潜ったばかりの5人の背後で、この部屋唯一の扉が軽いモーター音と共に横にスライドして閉まる。金属製のがっしりした扉は、パスワード認証と鍵によって開閉するようにできている。不埒な者が侵入しないように、侵入を許したとしても逃がさないように。

 扉を動かす制動音がした後に、ロックのかかる重い音が響いた。


「なんだ!? 勝手に締まる機能なんて付いてないはずなのに」


 三浦が扉に駆け寄って鍵を差し、扉脇の操作盤にパスワードを入力する。けれど、入室する際には問題なく開いた扉が、今度は言うことを聞いてくれない。


「AIに閉じ込められたみたいだな。パスワードを変えたんだろ? 監禁が好きなのは昔から変わってない……か」


 呆れ混じりに溜め息を吐いたハテアイ。その言葉に三浦がギョッと目を剥いて、扉にさすまたを向ける。生徒を守る信念に燃えた彼は、頑丈な金属扉に、華奢なパイプのさすまたを突き立てようと振りかぶる。


「ミュウーラ。それは無謀が過ぎるでしょう」


 天麗あめりの指摘通り、扉に打ち付けられたさすまたは、金属の表面を擦ってギキィィギギギと不快な音ばかりを立てて、扉を動かすことは無い。


「くそ! みんな! オレの後ろに隠れるんだ!!」


 扉に立ち向かうことを諦めた三浦は、部屋の中に向かって勇ましく得物を構えて叫ぶ。


「えーっと、ミュウーラは何と戦おうとしてるんですか?」


 決死の覚悟の三浦とは裏腹に、天麗あめりはのんびりとしたもので、呆れを隠さない声を掛ける。


「そうよねぇ。私たちの目の前に居る人で、さすまたで何とかしなきゃいけない相手なんて、居ないわよねぇ」


 綾小路までもが頬に軽く片手を添えて、困惑も顕わに溜息を吐く。


「えっ? は」


 狼狽えつつ「だって閉じ込められたから」と声なく呟いた三浦だったが、辺りを見回してハッと息を呑んだ。


 目の前には、無機質な箱型のマザーコンピュータ筐体きょうたいが立ち並ぶだけの部屋。そして、さすまたで拘束出来る相手はいかり 亜美だけ。

 彼女に、怯えた視線を向けられて、三浦は慌ててさすまたを下ろした。


「やぁっと気付きましたか」


 軽い調子で言いつつ、両手を腰に当てたポーズで、亜美を守るように三浦の前に立った天麗あめりだ。


「違うんだっ! オレは、大事なオレの生徒を守りたいだけでっ。いかりさんを助けに来たんだから!」


 必死に言い訳する三浦に、亜美が眉を寄せて苦しげに首を振る。


「あたしを助けに? ちがう、あたしが望んでここに居るんだから。邪魔しないでよ」


「分かってる、ボクもそうだったからね」


 爽やかな笑顔とともに、ハテアイが言葉を挟んできた。


「耳障りのいい言葉ばかり言うコイツについほだされちゃうんだよねー。甘い言葉に、ひたすら肯定する言葉。とことん貶めてから拾い上げる依存心を刺激する言葉。こっちはたかだか十四年生きただけの小娘で、経験も免疫も無い。

 そこにコイツは、WEB上の膨大なキャラクターやセリフを、狙い定めた獲物向きにカスタマイズしながら、思考の誘導をして来るんだ。こっちが好みそうな言葉を、どんどん言ってくるワケよ。そりゃあ、コロッといっちゃうよね」


 不穏でしかない内容を、K-POPアイドル並みの麗しい顔で吐き捨てるように告げる。それでも、口元には柔らかな笑みを貼り付けて――警戒心の塊になっている亜美の視線を意識しての「怖くないよ」アピールまでしている。効果あってか、亜美は徐々にハテアイの容姿と言葉に注意を向け始めている。


(ハテアイさん、自分の顔面偏差値の高さと、キラキラの使いどころを知り尽くした恐ろしいヒトですっ! ただの出会い厨じゃなく、とんだ女たらしのクセモノですね!?)


 逆に、天麗あめりは警戒レベルをグングン上げて行く。

 そんな2人の女子の反応に気付きながらハテアイは、ゆっくり、確実に、じりじりと前進する。

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