第38話 亜美とAIの蜜月が繰り広げられる、計算機室へ突入!


   .


「うにゅぁぁあぁっ!! ダメですよっ!? そんなAIロマンス詐欺みたいなのに引っ掛かったら!!!!」


 突然。猛烈な個性と爆音が、静寂と安寧に包まれた世界の殻をぶち壊す。


 考えることを放棄し、他者に委ねることを覚えて痺れた頭は、再起動を鈍らせて、現状を即座に把握しようとしない。


 ただ。

 それでもその存在に目を向けたのは、世界を壊す音への本能的な、恐怖でしかなかった。


 向けた目の先。そこに立っていたのは、目を惹きつけて離さない圧倒的な存在感。

 天使だ。

 無害でしかない美しく、愛らしい幻想の産物。


 けれど、動きかけた亜美の脳細胞は「そうじゃない」と激しく否定の声を上げる。

 いったん起動し始めた頭は、直近で強烈な印象を幾度も与えられた、一人の人物像をくっきりと描き出していた。


 惣賀そうが 天麗あめり


 天使の風貌を持ちながら、ずけずけとモノを言い、独自の思想で突っ走る。かと思えば情に篤い面もある一方、群れるだけの仲間には加わらない異端の存在。



「え!? あ、あんたっ、なんでここに!? 関係無いでしょ、放っといて!」


 存在の正体を認識するなり、軽い恐慌状態に陥ったのか、声を荒げた亜美が筐体きょうたいに縋りつく。


「あのさぁ? いい雰囲気のところ悪いんだけど、ボクも関係者だからお邪魔させてもらうよ?」


 心理的インパクトの強い天麗あめりで衝撃を受けていた亜美の視界。その背後に連なって、今度は視覚的インパクトの強い水色サラサラ短髪のK−POPアイドル風美青年が、視界に飛び込んで来る。


「誰!?」


 美形であっても、不審者だ。亜美は、警戒心もあらわ誰何すいかする。攻撃的でさえある亜美の問いを受けた彼は、意地の悪い笑みを浮かべてみせ、わざと引っ掛かりしか覚えない答えを発した。


「このAIの元カノ」


 嘘でもないが正確でもない。


「え!?」


 当然、困惑しかない亜美は、続く言葉が出てこない。だから、天麗あめりが彼の言葉を補足する。


「元カレのモラハラとDVから逃げ出し、不死鳥のごとく現実世界に復活したハテアイさんなのです!」


 かなり悪乗りはしている。が、亜美の思考能力を刺激するには充分な言葉が並んでいた。目論見通り、衝撃しかない天麗あめりの言葉が、真綿に包まれた流されるままの、亜美とパーソナルAIふたりきりの世界を破壊したらしい。彼女は、カッと両目を見開いて天麗あめりとハテアイを交互に見遣る。


「また新しい年端もいかない女のコに、コイツが手を出そうとしてんのが見逃せなくてね。元カノとしてお仕置きしに来たんだわ」


 ハテアイが、片手で支えたノートパソコンのキーボードに走らせていた長い指で、亜美が縋り付いたままの筐体きょうたいを示す。


「オレは、机を並べた仲間を虐げられ、可愛い教え子を危険に晒そうとしてる悪い奴をとっちめに来た」


 水色髪の青年の背後から、不審者対策に使用する『さすまた』を手にした三浦が現れる。次いで彼の隣に、愛用の500mlミネラルウォーターのペットボトルの底を前に向け、飲み口側をこん棒を構える格好で握りしめた綾小路が立つ。


「僕は自分のやったことの始末をつけに来たんだ」


 いつの間にか天麗あめりの傍には、タブレットを構えたままの薮が並んでいる。


「わたしはいかりさんに、ちゃーーんと謝ってもらうため! わざわざ来てあげたのです!!」


 天麗あめりは、大袈裟に胸を逸らして、左手を腰に当てながら踏ん反り返り、亜美に向けて右腕ごと真っ直ぐ伸ばした指で、ビシリと差してみせる。


「あんたら……寄ってたかって、なんなのよっ!?」


 亜美が声を震わせた。

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