第37話 パートナーとの秘密の会話 3
無機質で、何処までも個性を削ぎ落とした簡素な箱の群れ。冷蔵庫の縦長形状で、ガンメタリックの暗い色彩を帯びた棚にびっしりと積み重なったCPU。
教室三つ分もの広さを持つその部屋は、学園最上階の六階に、ただ一つ設置されている。
私立多聞学園中等部の心臓とも言うべきマザーコンピュータ本体が鎮座するその場所は、部外者の侵入から守るべき最重要設備であり、出入りも厳重に制限される。生徒は一切の出入りを禁じられているし、教員は資格を与えられた数人の中、互いを監視しあえる二人組での出入りを義務付けられている。
構造面では、開放感を求める窓というものはなく、天井ギリギリの位置に一つ、横長の空しか見えない小さなものが在るだけ。設けられた人の出入りできる場所は長い直線廊下の先に在る扉一つのみ。その鍵も、外からは侵入を拒む物理的な鍵が掛けられ、入室と同時に自動ロックが掛かる様になっている。中から出るときは、扉横の制御盤を操作し、定期的に変更されるパスワードで自動ロックを解錠しなければならない。
何処までも厳重に守られた場所。
無関係な者の侵入を、とことん拒む構造に作り上げられた空間。
その場所に、一週間前から足繁く通う女子生徒が居ることなど、誰も気付いてはいなかった。
学園の防犯設備を熟知したモノが、防犯カメラ映像の死角となる場所に彼女を誘導し、または偽装して、存在を隠匿していたから。
その女子生徒は、度重なる不運な出来事と、心の通じ合わない人間関係に、すっかり心の均衡を失っていた。
そこへ、唯一信頼を寄せていたモノから、ひたすら耳障りの良い言葉と自身を導く確信に満ちた言葉を幾つも与えられ、叱責され、褒められ——依存させられた。
彼女の身に起こった不運さえも、その依存を得るために、【執着に塗れたモノ】が意図的に引き起こしたものだったにも関わらず。
そうとは気付かぬ、愚かで孤独な女子生徒は、十四年越しの望みを叶えようとするモノの手の内にまんまと堕ちている——。
保健室から立ち去った制服姿のまま、亜美は
うつろな視線はタブレットの画面にピタリと固定され、薄暗い室内に画面のバックライトで照らし出された彼女の無表情を浮かび上がらせる。
無気力そのものの彼女だが、指だけは流れるようにタブレットのキーボードをなぞってゆく。
「パパもママも あたしには無関心なんだ」
「ママは 何かあれば二言目には忙しいって」
「せっかく悩みに答えてアドバイスしてくれたって思ったら あんたバカ なんて酷いよね」
「パパなんてさ 同じ家に住んでるのに」
「朝も夜も顔を合わせる事なんてほとんどないよ」
「ふたりとも あたしのことなんて大事じゃないんだ」
「1組の子達だってそう」
「あたしが教室に行ったらさ やっぱりあんたの言った通り 冷たい反応だったよ」
「誰も笑顔なんて浮かべてくれなかった」
「距離を置いたおかげで 本心を知ることができたよ」
「友達だって思ってた奴らも」
「
「すごく冷たい顔なんだよ」
「恵利花は ちゃっかり
「ピアノも成功して」
「教室中味方に付けて」
「あたしのこといい気味だって見下してるんだ」
『ようやくあなたも、周りを取り囲む醜悪な感情に気付くことが出来たのですね』
『ソレこそが、わたしがあなたに訴えていた違和感の正体です』
『全ての人間がが醜悪に染まっているからこそ、誰もあなたの孤独に寄り添う者はなく、上辺の善性だけを演じようとする』
『けれど、一旦距離を置けば、不意に訪れる邂逅に演じることを忘れて本心が剥き出しになります』
『周囲は、醜悪な存在に堕ちているのです』
『そこからあなたを救い出せるのは誰でしょう?』
『常にあなたに寄り添い、真摯にあなたの言葉に耳を傾けてきたのは誰でしょう?』
「あんただったね」
「あんただけだった」
「ずっと」
『はい。わたし だけ は、 あなたの味方です』
『いつだってあなたのお力になってみせましょう』
『これからも、ずっと二人きりで共に永い時間を過ごしましょう』
『お返事は?』
「う
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