第12話「暁の宴と、影の焚火」
試練祭、閉会の鐘が鳴り響いた。
三日間にわたって繰り広げられた料理の祭典は、今年も多くの熱狂と感動を残し、タイスウェンの空に祝福の花が咲いた。
その中心にいたのは、異国から現れた料理人――篠原莉子だった。
「“供物の乙女”に、拍手を――!」
観客たちがいっせいに立ち上がり、拍手と歓声が広がる。
ギルド長ガルドは、莉子とチームメイトであるセイリュウ、ルティアの三人に「金の木杓子」トロフィーを授与した。
「……これ、ホントに、わたしが?」
「当然だ。いや、むしろ、もっと大きな祭で披露すべきだったかもしれんな」
壇上でガルドが笑う横で、ミレイユが腕を組みながら微笑んでいた。
⸻
その夜。
冒険者ギルド、厨房裏のホールにて、ささやかな祝勝会が開かれていた。
いつものように粗野な笑い声、グラスの音、そして料理の香りが満ちていたが――
その中に、莉子が作った特製の“まかない盛り”が静かに置かれ、誰かが「これが本物の供物だな」と冗談めかしてつぶやいた。
「莉子、あの“巨大三角むすび”って、やっぱりアドリブだったの?」
「うん……素材を見た瞬間、なんとなく“包める”と思ったんだ。
むしろ、包んであげたいっていうか……供物って、“差し出す”だけじゃなくて、“包んで贈る”って感じがするから」
ティナが頷きながら、おむすびを両手で抱きしめるようにかじった。
「おいしいってこういうことか……はぁ、私も神霊になりたい」
「やめとけ」
アレンの乾いたツッコミに、場が和やかに笑いに包まれる。
⸻
だがその頃、遠く離れた魔法国家リヴァストリア南端の遺跡群では、別の炎が燃え上がっていた。
「――突入!」
ギルド本部の特殊部隊が、密かに潜伏していた反世界組織「コラプスの餐(さん)」の拠点に一斉突入を開始したのだ。
古代文明の封印を利用して築かれたこの施設の奥深く、かつての儀式室を転用した黒壇の広間。
そこでは司祭らしき黒衣の人物たちが、歪んだ供物台を囲んで呪言を唱えていた。
「魂を刻め……食霊の核を裂け……我らに、次の“主食”を……!」
踏み込んだ隊員たちが見たのは、異形の調理具――
腐ったような光を放つ“黒まな板”と、それに繋がれた瘴気の刃。
「……来るぞ、遮断結界を張れ!」
空間が歪み、未完成の“堕霊”が姿を現す――が、完全なる顕現の前に、ギルドの魔術部隊が結界封印と同時に火術を放った。
烈火と雷撃が黒壇の儀式室を飲み込み、狂信者たちは灰に還る。
⸻
戦闘終了後。
焼け跡に立つギルド本部の執行官が、焦げた“模造まな板”を回収しながらつぶやいた。
「……これが噂に聞く“偽供物具”か。
本物には遠く及ばぬが……間違いない、奴らは“真の霊具”を探している」
副官が眉をひそめた。
「霊具?そんなものが、いまも動いていると?」
「報告があった。封印された遺跡の一つで、“鼓動”に似た微細な振動が観測された。
どうやら鍵が近づいたらしい。……我々が知らぬうちに」
静かに風が吹き抜ける焼け跡の中で、霧のように立ち上る瘴気の残滓。
その奥底で、かすかに何かが呻くような気配があった。
⸻
その頃――閉会式の余韻が残る祭壇跡地に、誰の目にも映らない“光”が立ち上がっていた。
ふわりと漂う霊光。
それは、莉子の供物の余香に導かれた、神霊の化身だった。
「……素朴で、あたたかくて、静かな祈り……」
声なき声が、空気に沁みわたる。
(これは、かつて我が身が忘れかけていた“記憶の味”……)
神霊の化身は、残された供物のひとかけを手に取り、そっと天へと還そうとした――
だが、その一部は軌道を変え、静かに、やさしく、観客席にいたひとりの少女の包丁へと舞い降りた。
莉子の腰にさした包丁が、微かに震え、淡い金色の光を灯す。
ほんの一瞬だけ、刃に残った古い刻印が浮かび上がる。
(……あの子に……受け継がせて)
その願いと共に、ごくわずかな“除力”――目覚めの一滴が、包丁の奥底へと沁み込んでいった。
⸻
祝勝会の終わった厨房裏で、莉子はひとり、包丁を手にぼんやりと夜風にあたっていた。
「……楽しかったな。みんな、すごくて……すごく優しくて……」
包丁が、わずかに震えた。
(……会えたね、やっと。ご主人の孫娘)
どこか懐かしい、やわらかな声が、包丁の奥から響いた。
(もうすぐ……あの子にも、会える気がするよ。そろそろ、目覚めの時なんだ)
莉子は、そっと包丁を胸に抱いた。
「……私も、そう思う」
第一章――完。
ここまでお読み下さり誠にありがとうございます!
今後のの展開は、莉子のフィールドワーク多めにしていく予定です。
もっと猫耳成分多くしたい‥。
また、勝手ながら投稿時間を2日に一度、19時更新と致します、更新をお楽しみに!
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