パート7: 嘘でしょ!? 推しの、あの悪役令嬢がいる世界線!?

イザベラ・フォン・ヴェルリアン。


その名前が、頭の中で何度も何度も反響する。

さっきまでの混乱が嘘みたいに、記憶の扉が勢いよく開かれた。


(アストレア王国……王太子アルフォンス……そして、イザベラ……!)


間違いない!

絶対に!


(ここは……!! 前世で私が廃人になるほどハマった乙女ゲーム、『アストレアの奇跡 ~君と紡ぐ恋詩~』の世界だ!!)


うわああああああああーーーっ!!

思わずベッドの上で叫び出しそうになるのを、必死で口を押さえてこらえる。

危ない危ない。平静を装わないと。地味系女子計画が台無しになるところだった。


でも、内心は嵐のようだった。

いや、嵐どころじゃない。歓喜のビッグバンだ!


(マジで!? マジで言ってる!? 私、あの『アストレアの奇跡』の世界に転生したの!?)


信じられない!

だって、それってつまり……!


(イザベラ様がいるってことじゃないですかーーーー!!)


イザベラ・フォン・ヴェルリアン!

『アストレアの奇跡』における、悪役令嬢!

ヒロインをいじめ抜き、最後は王太子アルフォンスに断罪されて破滅する、悲劇の美少女!


そして何より……!


(私の!! 最推し!!!!)


あああああああああああああああ!!!!

イザベラ様!!!!

尊い! 尊すぎる!!


思い出しただけで、涙がぶわっと溢れてきた。

慌てて手の甲で拭う。


金色の美しい縦ロールヘア。

ルビーのように輝く、勝気な瞳。

雪のように白い肌。

どんな時も背筋を伸ばし、気高く傲慢に振る舞う姿。


悪役令嬢だけど、ただの悪じゃない。

厳しい公爵家の躾、王太子妃としての重圧、アルフォンスへの歪んだけど一途な想い……。

プライドが高くて不器用で、本当はすごく脆いところもあって……。


(ああもう! 全部が好き! イザベラ様の全てが尊い!! 破滅フラグすら愛おしい!!)


そんなイザベラ様がいる世界に、私がいる。

もしかしたら、これから……会えるかもしれない?

あの美しいお姿を、この目で見られるかもしれない!?


(やばい……! やばすぎる……!! 尊死する……!!)


心臓が痛いくらいドキドキして、呼吸が浅くなる。

興奮しすぎて、マジで気を失いそうだ。


(落ち着け、私! まだイザベラ様にお会いしたわけじゃないんだから! しっかりしろ!)


深呼吸を繰り返す。

スーハー、スーハー。


(でも……! でも、やっぱり嬉しい! 嬉しすぎる!!)


転生してよかった!

天野恵として死んだけど、セシルとしてこの世界に来られて、本当に、本当に良かった!


(生きてるって素晴らしい……! 推しがいる世界、最高……!!)


これからの生活に不安がなかったわけじゃない。

むしろ不安だらけだった。

でも、今は違う。


イザベラ様がいる。

それだけで、この世界は輝いて見える!

私の人生(セシルとしてだけど)は、バラ色だ!


(ああ、イザベラ様……! 私の女神……!)


脳内で推しへの愛を叫び続けながら、私は一人、ベッドの上で悶えていた。

表面上は、たぶん、ちょっと顔色が悪くてぼーっとしているだけの、地味な少女に見えたことだろう。

……うん、たぶん…印象操作、効いてる効いてる。

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