パート6: で、ここはどこ? ~聞き覚えのある名前多すぎ問題~

印象操作の実験成功で、ちょっと自信がついた。

よし、次は本格的に情報収集だ!

使うのはもちろん、『全域情報観測』!


(えっと、まずは……この屋敷の情報からかな?)


意識を集中させる。

すると、さっき能力の概要を知った時みたいに、情報が自然と頭の中に流れ込んできた。

痛みはないけど、膨大な情報が一気に入ってくる感じは、ちょっとクラクラするかも。


ふむふむ……。

ここはアデレード伯爵家。私の、セシルの実家ってことね。

場所は王都アストリアの中心部から少し離れた貴族街の一角。

お父様とお母様は……うん、健在みたいだ。よかった。

使用人も結構いるんだなぁ。


(貴族って、やっぱり規模が違う……)


感心しながら、観測の範囲を少しずつ広げていく。

屋敷の外へ、王都全体へ。


(王都アストリア……。建物が石造りで、なんかヨーロッパ風? 馬車がたくさん走ってる。活気がある街みたいだ)


街の人々の会話や、店の看板、掲示板の情報なんかも断片的に拾っていく。

そして、この国の名前は……。


(アストレア王国……)


その名前を聞いた瞬間、ん? と首を傾げた。


(アストレア……? あれ……? なんか、ものすごく聞き覚えがあるような……?)


気のせいかな?

いや、でも、この既視感はなんだろう。

まるで、昨日聞いたばかりみたいに、しっくりくる響き。


(王都の名前もアストリアだし……。アストレア学園なんていうのもあるみたい……。王立? 貴族の子弟が通う学校か……)


ますますデジャヴュ感が強くなる。

なんだろう、この感じ。思い出せそうで、思い出せない。

もどかしい……。


(もっと、重要な情報を……。そうだ、王族とか、有力な貴族の名前とか……!)


さらに意識を集中させて、アストレア王国の中枢に関する情報を探る。


王家の姓はアストレア。

現在の国王は……まあ、今はいいか。

重要なのは、次期国王。王太子だ。


(王太子の名前は……アルフォンス。アルフォンス・フォン・アストレア……)


アルフォンス……様?

うん、やっぱり聞いたことある! 絶対に知ってる名前だ!

どこで聞いたんだっけ?


(じゃあ、他の有力貴族は……? 国内で最も家柄が高く、権勢を誇るという……公爵家……)


いくつもの貴族の名前が流れてくる。

その中で、ひときわ大きな存在感を放つ家名が目に飛び込んできた。


(**ヴェルリアン公爵家**……。そして、そこのご令嬢……)


脳内に響いた名前に、心臓が跳ねた。

まさか、と思った。

でも、情報は続く。


(名前は……**イザベラ**……?)


息を呑む。

聞き間違いじゃない。

そして、決定的な情報が流れ込んできた。


(**イザベラ・フォン・ヴェルリアン**……!!)


そのフルネームを認識した瞬間。

まるで脳天を雷で撃ち抜かれたみたいに、全身に凄まじい衝撃が走った。


(うそ……!? この名前……!! フルネームまで……! まさか、まさか、そんな……!!)


心臓が、ドクン! ドクン! と激しく脈打ち始める。

血の気が、さーっと引いていくのが分かった。

指先が、氷のように冷たくなっていく。


(嘘でしょ……? ありえない……! そんなはず……ない……!)


でも、頭の中で、今までバラバラだったピースが、カチリ、カチリと音を立てて組み合わさっていく。

アストレア王国。

王都アストリア。

王立アストレア学園。

王太子アルフォンス・フォン・アストレア。

そして……大公爵令嬢、イザベラ・フォン・ヴェルリアン。


(間違いない……!! ここは……!! この世界は……!!)


息が、止まりそうだった。

信じられない、けれど疑いようのない事実に、ただただ打ち震えるしかなかった。

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