パート5: 能力検証タイム! ~地味子はこうして作られる~

よし、と気合を入れる。

まずは実験だ。

この『観測者にして演出家の権能』の中でも、特に重要そうな『認識改竄・印象操作』。

これを使いこなせれば、かなり有利に立ち回れるはず。


(目立つのは絶対ダメ。できるだけ地味に、空気みたいに過ごしたい)


そのためには、まず今の自分の姿を確認しないと。

さっき手に入れた手鏡を、おそるおそる覗き込む。


「……わぁ」


鏡に映っていたのは、前世の天野恵とはまったく似ていない、知らない少女の顔だった。

歳の頃は……十五、六歳くらい?

肌は白いけど、貴族なら普通なのかな。

髪の色は、光の加減で少し灰色っぽくも見える、アッシュブラウン。

瞳は、ヘーゼル……茶色と緑が混ざったような、ちょっと複雑な色。


(全体的に……整ってはいる、かな? でも、なんていうか……地味?)


ものすごく美人ってわけでもないし、かといって不細工でもない。

貴族のお嬢様としては、良くも悪くも「普通」の範囲に収まっている感じ。

悪目立ちしなさそうなのは、好都合かもしれない。


(よし、この素材をベースに、さらに印象を薄くしよう!)


鏡の中の自分を見つめながら、意識を集中させる。

『認識改竄・印象操作』、発動!


(イメージは……そうだな。『壁のシミ』とか『道端の石ころ』みたいな……いてもいなくても気づかれない、記憶に残らない、地味で平凡で、とにかく目立たない感じ……!)


心の中で強く念じると、鏡の中の自分の「雰囲気」が、ふっと変わった気がした。

顔のパーツとかが変わったわけじゃない。

でも、なんていうか……存在感が希薄になった? さっきよりさらに「どうでもいい」感じが増したような……?


(うーん、自分じゃよく分からないな……。効果が出てるのか、プラシーボなのか……)


これは、他人の反応を見てみるのが一番だ。

ちょうどいいところに、実験台……じゃなくて、協力者がいる。


さっき部屋の隅にあった小さなベルを手に取り、チリン、と鳴らした。

すぐにドアがノックされ、先ほどの侍女さんが顔を出す。


「お呼びでしょうか、お嬢様?」


侍女さんは部屋に入ってきて、私の方を見た。

……見た、はずなんだけど。


(あれ? なんか、視線が合わない……?)


さっきみたいに、私の顔をじっと見たり、心配そうな表情をしたりしない。

どこか焦点が合わないような、私のことを見ているようで見ていないような……そんな感じ?


「何かございましたか?」


侍女さんは、少し間を置いてから、事務的な口調で尋ねてきた。

明らかに、さっきよりも私に対する関心が薄れている!


(やった! 効果ありだ! 大成功!!)


内心でガッツポーズを決める。

すごいぞ、この能力!


「あ、いえ……やっぱり何でもないわ。呼んでしまってごめんなさい」


平静を装って答える。


「はあ、さようでございますか」


侍女さんは特に気にした様子もなく、あっさりと頷いた。


「では、失礼いたします」


そう言って、また一礼して部屋を出ていく。

ドアが閉まるまで、一度もこちらを振り返らなかった。


(……ふふふっ)


思わず笑みがこぼれる。

これは使える!

この力があれば、私は完璧な「地味系女子」になれる!


最高のスタートだ。

この調子で、他の能力も少しずつ試していこう。

まずは、この世界の情報を集めるのが先決かな。

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