ダストバイブル

@zumi_kobo

序章 Genesis


 初めて花嫁衣装を身に纏った。

 たった一人、広い海を見渡せる崖の上に取り残される。

 やがて瞬く間に暗灰色の雲が空を覆う。槍のように貫く雨を全身に浴びて、せっかくの化粧も、纏めた髪もあっけなく崩れていく。

 同時に現われたのは生涯の伴侶などではなく、魔物だった。


 魔物の根城に連れ去られる。暴力と死の恐怖に毎夜晒され続ける。

 そんな日々にも終わりはやってきた。ようやく「楽になれた」かと思えば、次に目覚めた時はおよそヒトとは呼べない「容(かたち)」になっていた。

 その挙句、「もうじき彼女は不要になる」と彼らは言った。


 今まで酷い目に遭ってきたのに、誰も助けてくれない。誰も守ってくれない。

 だから、こんな可哀想なわたしのことをあなたが助けて。あなたが守って。

 そう、あなたのことよ。


 今この本を手に取って、わたしの声を聞いている、あなたに呼びかけているのよ?

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