第22話 残った謎について

 大ちゃんとすみれちゃんに、じゃねー、と言ったあと、黒フードちゃんはいきなり現れました。いやまあ、予想はしてたんだけども。


「タイミング良すぎでは? 能力使って、私たちの会話を盗み聞きしてたの?」


 ものすんごいバツの悪い顔をしている。

 やっぱりそうなんか!?


「別にそういうわけじゃない、が! それを証明するものがない」


 言われてみればその通りである。


 黒フードちゃんが仮に盗み聞きしていないとしたら、それを証明するものは存在しない。だって、どのような状況であれ、そういうことができてしまうのが彼女の能力なのだ。能力を使っていない証拠なんて、どうやって見つけたらいいのか。


「そんなことはどっちだっていい」

「ええ、そうかなぁ」

「あんたが私を信用するかしないかの問題だからな」

「私の信頼を勝ち取りたくないの?」

「私があんたを信頼しているから、勝ち取る必要はない」


 おお、なんか嬉しいことを言ってもらえた気がする。

 正直、今の話は頓知が効いていて、何を言っているのかわからなくなったけどね。こういうときは、笑顔になることで誤魔化すのだ。


「なんだそのにやけ顔、気持ち悪いな」

「え! 酷い! 私みたいな絶世の美女の笑顔が気に入らないって言うの!?」

「いや、絶世の美女は言い過ぎだろ」

「むきー!」

「確かにあんたはそれなりに顔立ちがいいけど、別に絶世の美女とまではいかないんだよなぁ。うーん、確かにいい顔立ちなんだけど、逆にどこにでもいそうと言えばいそうなんだよ……説明が面倒だ。本題に入るぞー」


 かなり真剣に聞いていたのに……。

 とりあえず、私の顔立ちは良いとのこと! 嬉しい!


「能力の覚醒ってさ、これだよな?」


 黒フードちゃんは具体的なものを指さなかった。しかし、もう散々使っている。だから、わざわざ具体例を出す必要はないと判断したんだろう。ちょっとおちょくりたい気持ちが芽生えるも、ここはグッと堪える。真剣な気持ちを向けてくれている相手をおちょくるほど、私は人間やめていない。


「その通りだよ」


 私も具体的な例を出さずに肯定する。理由は同じである。

 黒フードちゃんは少し黙った。具体例を出して欲しかったのかもしれない。でも、ここは彼女に具体例を出して欲しかった。その方が、自分の能力に対する理解が進む。そうすることで、より能力が覚醒する。


「能力の覚醒って、もしかして想像力の問題なのか?」

「おお……さすが黒フードちゃん。まさかもう核心を突いてくるとは」

「あんた、俺に具体例を出すことを促しただろ」

「うん」

「言っとくけど、あんたの考えていることはお見通しだぞ」

「えぇ……そこで“貫通”を使ったの?」

「手っ取り早く知りたいんだよ」


 うーん、黒フードちゃんが覚醒させた“貫通”の能力、やっぱり便利すぎるな。

 こう思っていることも筒抜けかもしれないのかぁ。


「まあ、いっかぁ。もう私の知る限りの情報を教えちゃうね」

「そうしてくれ」

「私たちが持っている能力……ごめん! 私は持ってなかったわ! あはは!」

「どう反応したらいいんだよ!」

「そんな顔しなくても……とりあえず、あなた達が持っている能力は、実はやろうと思えばどんなことでもできちゃうんですよ。元も子もない話だけど」

「それは、想像力が及ぼす影響が能力だから?」

「うん、その通りだよー」


 やっぱり、私が説明する必要はもうないのでは?

 だってさ、黒フードちゃんは私の頭の中をもう見れるわけでしょ?


「この能力、意外と疲れんだよ」

「なーるほどぉ」


 疲れるんだったら仕方ないかぁ。


「それでまあ、あれよ。想像力が及ぼす影響が強ければ強いほど、能力は強いってなるわけです。あれだね、生まれつき影響力が強い人が強い能力者って感じだね」

「だけど、なんで能力の覚醒って現象があるんだ? 最初から影響力があるんなら、覚醒なんてなくてよくないか?」

「うーん、私もうまく理解していないし、どの研究機関でも探り探りの感じだから、これ! っていう正解はないんだよねぇ。そもそも、この世に正解なんてあるんですかね?」

「そういう哲学はいいから、あんたなりの答えを教えてくれよ」


 うーん、こういう哲学な話、かなり好きなんだけどなぁ。

 まあ、そういう私情は置いておこう。


「世界の防衛機能なんじゃないかなぁって! 私は思ってます!」

「世界? それはどこを指しているんだ?」

「えっと、全て!」

「なんかわかったような気もしなくはない」

「とにかく! あくまで私の考えだけども! 個人の影響力が世界全体を変えるようなものになったら困ると思うの。だって、それこそ世界崩壊するかもしれないじゃん」

「まあ、あり得るな」

「でしょ? そういうのが現れないように、個人が世界に及ぼす影響は限定されていて、その限定された影響力のことを私たちは能力と呼んでいるんじゃないかなぁって」


 どこか納得のいった顔をする黒フードちゃん。

 あれ、もしかして私の空論はそれなりの説得力がある?


 しかし、黒フードちゃんは思い出したかのように口を開く。


「ちょっと待てよ。それは能力の説明であって、能力の覚醒の説明にはなっていないんじゃないか?」

「あ、確かに。うーん、この私の空論に合わせて考えるなら……能力の覚醒って現象は、この人なら影響力を強めても大丈夫そうやな! 的な感じで世界が認めた証拠……的な?」


 今度は納得がイマイチいっていない表情を浮かべている黒フードちゃん。

 やはり、空論は空っぽの理論……説得力なんてなかったのだ。


「……とりあえず、それで納得しとく」

「え、これでいいの?」

「だって、解明されていないんだろ?」

「まあ、そうだね」

「だったら、ここで話し合ってもしょうがねえ」


 なんか締まらないけど、それもそうかと納得する私である。

 それでは、これからの話に移りますかぁ。


「あ、それはいい」

「私に発言権を頂戴!」

「なんでさ」

「黒フードちゃんに別れの言葉とかっこいい言葉を贈りたいの!」

「前者は受け取るけど、後者はきもい」

「何がよ!」

「はい、前者だけどうぞ」


 有無を言わせない感じだ……。


「これから裏社会でヒソヒソと隠れながら生きていく黒フードちゃんに、この言葉を贈ります」

「事実なんだけど、なんかこう言われると惨めになるな」





 深呼吸。

 できるだけ息を吸って……。





「生きろ!」





 めっちゃ大きな声で、最大級のエールを黒フードちゃんに。


 それを聞いた黒フードちゃんは、めっちゃ良い笑顔を浮かべた。

 え、何その笑顔……ちょっと写真に収めさせて!


「嫌に決まってんだろ」

「そんな……」

「じゃあな! そっちこそ、楽しく生きろよ!」


 やっぱり笑顔を浮かべる。


 いつの間にかいなくなった。

 そんな感じ。







「彩夏さーん、他の方々の迷惑になるので、声は抑えてくださいねー」

「あ、ごめんなさい……」

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