第9話 私は、卑怯者だ

 不条理な絶望が、すみれちゃんの桜のような、儚くて綺麗な瞳に溜まっていく。


「わ、わた、じ……人を、ごろ……うぐ…………殺じ、だ」


 一通りの話を終えた後、彼女はその言葉を口にした。


 中学二年生の能力発現。

 能力は、感情が昂っているときに発現しやすい。

 どうしてそうなるのか、はわからない。



 とりあえず言えるのは、人間の感情と能力は密接に関係している、ということ。

 


 すみれちゃんも大ちゃんも、この場において口にはしていない。だけど、彼女の話を聴いていて感じた。すみれちゃんは、大ちゃんにずっと好意を抱いていた。大ちゃんは、すみれちゃんの事故が起きる前に、彼女への恋愛感情を抱き始めた。





 これ以上は、野暮だから言わない。





 すみれちゃんは、嗚咽混じりの後悔を、顔から流している。



 見守ることしかできない自分に、大ちゃんは腹を立てているようだった。

 体が強張っている。おそらく彼は、拳を握り締めている。

 自分の無力さに打ちひしがれている。


「どれぐらいの規模だったの?」


 私は非情にも、当時の被害状況を大ちゃんに質問する。


「能力使用によるスピード違反常連者一名とその男が常用していた車」

「どうして、被害は拡大しなかったの?」

「純恋が必死になって、車に纏わりついていたからだと思う」

「能力で?」

「ああ、おそらくな」


 大ちゃんは、本当に大人なんだと思い知らされる。


 自分の私情を挟まず、事実とそこから導き出される推測のみを語る。

 こんな行為は、普通の人生を歩んでいたら、いつ身につくかわからない能力だ。


 彼は、大人でいなければいけない成人済みの人達よりも、もっと先の段階にいる。


「事実上、悪人を倒した」

「そうだな」

「これだけでは、彼女の能力を判別できない」

「その通りだ」



 私は、感情を切り離している。

 彼にも、それを強要している。





 本当に、私は卑怯者だと思う。

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